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【無料公開】田中良紹:民主主義をはき違える馬鹿な国会議員たち

2013/09/12 09:54 投稿

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自民、公明、民主の幹事長が会談して「国会改革」を協議する事を確認したと言う。どんな「改革」かと言えば、総理や大臣が国会に縛りつけられないようにしようという事で、出席日数に上限を設けるなどの案が取りざたされている。国民のための改革というより政府の負担を減らす話である。

それを「改革」と呼ぶのなら世界が揺れ動いているこの時期に国会を閉会していないで直ちに国会を開き、内外にあふれる問題を国会議員は国民の前で議論すべきである。それもしないで何が国会改革なのか。

確かに55年体制の時代には野党が国会を理由に総理や大臣の海外出張を認めない事があった。その弊害を取り除くため1999年に副大臣制度が導入され、副大臣が国会で答弁する事を可能にしたはずと思っていたが、それがまだできていないという事のようだ。だとすれば国会が怠慢であったというだけで今更「改革」と呼ぶような話ではない。

それよりもシリア問題への対応で英米の議会が動いているニュースを見ると、かつて日本の国会が休眠状態を続け世界から嘲笑された事を思い出す。1900年8月2日、イラク軍が国境を越えてクウェートに侵攻して湾岸危機が起きた。夏の盛りでどの国の議会も夏休みに入っていたが、8月の後半には各国議会がこの問題にどう対処するかを議論し始めた。

ところが日本は国会を開かない。旧知の外務官僚が「国会を開いたりすれば議論がとっ散らかってしまって収拾がつかなくなる。だから国会は開かせない」と私に言った。当時は「駄目なものは駄目」と言って聞く耳を持たない野党の党首がおり、外務官僚の気持ちも分からないわけではなかったが、アメリカ議会をウォッチしていた私には、これから中東で戦争が始まろうとする時、国会も開かない国というのは何ともお粗末に思えた。

アメリカ議会は200人近い証人を次々に招いて公聴会を開いた。歴代国務長官、歴代国防長官をはじめ中東問題の専門家、軍事問題の専門家、さらには経済学者のガルブレイズ教授やイギリスのヒース元首相なども呼ばれ、国会議員が大統領に戦争権限を与えるかどうかを判断するための参考意見を述べた。

その間、国会を開かない日本では、与党の政治家と官僚が対応を協議し、結局、1兆円を超える資金を多国籍軍に提供する事が決められた。財源は企業から臨時に税金を徴収する事で賄われることになり、そうした方針が決まった後でようやく10月に臨時国会は開かれた。

アメリカ議会は、湾岸戦争に乗り出す事がアメリカにとっていかなる意味を持つか、それを外交面、軍事面、経済面などあらゆる角度から議論していたが、日本にはそうした議論がなく、自衛隊を多国籍軍に参加させることは憲法上難しいと言う判断から、資金を提供する事が自明のように決まり、湾岸危機は対岸の火事のような受け止めだった。

こうした日本の対応を見てワシントンでは「やはり日本は二流国だ」という意見が浮上した。その頃の日本はアメリカに脅威を感じさせるほどの経済大国であった。第一次世界大戦以来世界一の債権国として世界を支配してきたアメリカに代わり、1985年に世界一の債権国になったからである。アメリカは逆に世界一の債務国に転落していた。

ソ連の脅威より日本経済の脅威が上回ると考えるアメリカでは、議会が「日本経済封じ込め戦略」を議論していたが、そこには日本に対する批判と共にアメリカに脅威を感じさせるほどの大国になった日本への評価も存在していた。世界のパワーゲームに参加する国になるかもしれないと日本は一目置かれていた。

ところがアメリカの見方は変わる。日本が国会も開かず、湾岸危機を自らの生存をかけた問題と認識しなかったからである。アメリカはこう言った。「日本は資源のない国で中東の石油に頼っている。経済大国になったと言っても中東がおかしくなれば経済は足元から崩れる。ところがイラクのクウェート侵攻を日本は自らの問題と捉えず、従って国会を開いて議論する事もせず、ひたすらアメリカの顔色を窺ってどれほど金を出せばよいのかと打診してきた。そんな国が大国になれるはずはない。所詮は二流国家だ」。

アメリカが日本をなめきるようになったのはこの時からではないかと、アメリカ議会をウォッチしていた私は思うのだが、それ以来アメリカは日本に対し、あれをしろ、これをしろと上から目線で言うようになった。

アメリカにとって日本が1兆円を超える資金を提供した事は、本音では足手まといになる自衛隊の参加よりとてつもなく有難かったはずである。ところが湾岸戦争が終わった時、日本の貢献は全く評価されなかった。そして憲法の制約があることを承知の上でアメリカは自衛隊の海外派兵を求めるようになった。その背景には何度も言うが国会を開かず、国民的議論をしない国に対する蔑みの心根がある。

アメリカから見れば日本はそこがアメリカの民主主義と異なる。一握りの人間が決めてから国会を開くような国は一流になれないと考える。「国会改革」というのなら欧米の議会と最も異なるのは日本には会期制があることだ。通常国会は1年に150日間しか開かれない。その期間に成立しない法案は廃案になる。しかし欧米では選挙で議員が選ばれてから次の選挙までが一つの会期と考えられる。その間に休みはあるが議会が閉じられる事はない。だからいつでも議会は開かれる。

馬鹿な有識者が総理の議会への出席日数を国際比較して、日本は負担が多いなどと言っているが、そんな些末な国際比較より会期制の問題を考える方がよほど改革の名に値する。また問題なのは予算の議論をしない予算委員会をテレビで中継している事だ。そもそも予算委員会は財務大臣だけが出席して徹底して予算の使い道を議論してもらう方が良い。そして総理は毎週党首討論を行い自らの考えを国民に開陳する方が国民のためになる。

国民のためにどうするかと言う視点の抜けた「国会改革」の議論など国民から見れば馬鹿馬鹿しい限りでため息が出そうである。

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■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article


<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

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コメント

民主主義の負の面が明確に出ています。自民党は馬耳東風なのでしょうか。
ネジレがあると、諸問題が解決しないので、ネジレをなくさなければいけないと、多くの人たちが主張していました。ネジレが解決した現時点、自民党は、国会では数の論理で自民党の思い通り可決できるので、国会の開会など、あまり真剣に考えなくなりました。国会の役割は、単なる儀式としての議論、審議にすぎず、重点を置かなくなってしまったということでしょう。一方民主党の情けないこと、借りてきた猫みたいなもの。極端から極端に走りやすい国民性の弊害が顕著に表面化しました。それにしても、自民党に謙虚さが欠け、おごりが出始めています。

No.1 136ヶ月前
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