黄金拍車〈4〉異次元騎士カズマ (角川文庫―スニーカー文庫)

 最近、過去のライトノベルのことをちょっと調べたりしたもので、当時の「忘れられたライトノベル」のことをいくらか思い出しました。

 ペトロニウスさんに大受けだった王領寺静の『黄金拍車』などはその典型で、非常におもしろいにもかかわらず、いまでは顧みられることが少ない作品と云えるでしょう。

 いや、これ、ほんとにおもしろいんですよ。文章も読みやすいし、ご都合主義ながら勢いがあるし、エロいし(笑)、いま「小説家になろう」にアップしたら受けるんじゃないかなあ、と思わせるものがある。

 話はごくシンプルで、現代日本人のカズマ少年がフランス(ふうの異世界)に召喚され、冒険に次ぐ冒険をくり返すうちに伝説の勇者として覚醒していくというもの。

 ロランやオリヴィエといった脇役のキャラクターが立っていて、ヒロインも可愛いので、一本のエンターテインメントとして非常に完成度が高い作品だと云っていいと思います。

 しかし、結論から云えば、これも読み捨てられて終わった作品でしたね。もちろん記憶しているひとはしているでしょうし、いまでもファンは大勢いるかもしれません。

 が、公の場で語られることが少ない作品だと云えるかと思います。

 発表当時は絶大な人気を誇りながら、読み捨てられ、忘れられていく作品というものはあるものですが、この作品もつまりはそういう系統の一作だったと云っていいでしょう。

 このシリーズ、その後、『骸骨旗トラベル』、『剣奴王ウォーズ』と続いて、最終的には未完に終わるわけですが、それもあって名作という評価は定着していない気がします。

 良い小説なんですけれどね。時代の徒花と終わりました。ちなみに王領寺静はのちに歴史作家に転身する藤本ひとみの別名です。

 忘れ去られる作品はしょせんそれまでの代物だといえばそれまでですが、でも、じっさいにはかなりおもしろい作品でも忘れられる可能性は高いと思うんですよね。

 何しろ現在では年間数万点の書籍が販売されているわけですから、きちんと読者の記憶にのこって読み継がれていく作品が少なくても仕方ない。

 相当にエンターテインメントしている物語であっても、時が過ぎれば忘れられることが自然なのです。

 『アルスラーン戦記』とか『十二国記』といった、時代の変遷に耐え、延々と読み継がれていく作品は少数です。

 それでは、時代の徒花と消える作品とそうではない作品のあいだにはどのような差があるのでしょうか。