石田衣良の花麗なる短編世界に酔いしれる。(2073文字)
内容は、まあ、いつもの石田衣良の恋愛小説です。
石田さんはこれで10冊目の短篇集と書いているんだけれど、『スローグッドバイ』、『1ポンドの悲しみ』、『愛がいない部屋』、『LAST』、『約束』、『再生』、『sex』、『ラブソファに、ひとり』で8冊ですよね。
掌編小説集の『てのひらの迷路』を加えても9冊だし、なぜ10冊? ひょっとして連作短編集の『4TEEN』と『6TEEN』を加えているのかな。
しかし、それなら『池袋ウエストゲートパーク』とか『夜を守る』とかも数えていい気もするし。謎。
まあとにかく、短編を書きにくくなったと云われる現代日本でこれだけたくさん短篇集を出している作家は少数なのではないでしょうか。
その作品には出来不出来はありますが、いずれも一定以上の水準をクリアしています。基本的に文章がうまいので、何を書いてもそれなりのものに見えて来るんですね。
石田さんという作家は、本質的にストーリーテラーというよりはスタイリストなのだと思っています。
美しい/格好良い/瀟洒な/スマートな/スタイリッシュな文体で甘い/切ない/ほろ苦い/泣ける/感動的な物語を紡ぐところに、かれの天才はある。
石田衣良の小説はいつもどこか一抹の物足りなさを感じさせます。それはたぶん、かれの作品があまりにも綺麗すぎるからなのでしょう。
いや、特段、きれい事に特化した作家というわけではない。世の中の表も裏も光も闇も等分に描いているはずなのですが、それでもなぜか綺麗すぎるものを見た印象がのこるのですね。
それはたぶん、作家自身が暗い情念といったものと縁がないからなのだと思います。つまりはかれの小説世界はどことなく淡白に過ぎるのです。
セックスを描いても、バイオレンスを描いても、ダークなエモーションを感じさせない。じっさいには感情の爆発を描いている場面でも、何だか綺麗なんですね。
この作家において、エロスとタナトスとはあまりどろどろすることなく、淡いまま終わってしまうようです。たとえ、どれほど凄惨な場面を描いていても。
つまりはいつも一定以上の水準を超えてくる作家ではあるけれど、文面から感情がほとばしるような作品はあまり書けない作家でもあるということ。
ただ、それはもう、仕方ないというより、そういうものとして受け止めるべきことなのだと思います。
これはもう表現の技術じゃなく、作家の魂、実存、存在そのものにかかわる問題だから、そう簡単によしあしは云えない。そもそも非常に高いレベルでの話ですしね。
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