弱いなら弱いままで。

本格ミステリのマイルストーン『りら荘事件』を読む。(1295文字)

2012/11/08 21:56 投稿

  • タグ:
  • 小説
  • 鮎川哲也
  • ★★★★☆
りら荘事件 (創元推理文庫)

 『黒いトランク』と双璧をなす鮎川哲也の長編代表作である。途中で人物の出入りがあるため狭義のクローズド・サークルには入らないが、のちの新本格の綾辻行人や有栖川有栖の「館もの」に膨大な影響を与えたと思われる歴史的な小説だ。

 昔、ある実業家によって建てられた「ライラック荘」は、その実業家が株の暴落によって自殺して以来、「りら荘」と呼ばれ、芸術系の大学の保養地となっていた。そのりら荘に大学の美術部と音楽部の学生たちが訪れる。日高鉄子、行武栄一、尼リリス、牧数人、橘秋夫、安孫子宏、松平紗絽女の七名。

 それぞれに愛憎を抱えたこの七人が集ったりら荘で、恐怖の連続殺人事件が発生する。最初の死者は炭火焼き小屋の中年男。そしてその死体の傍らにあったのは、どこへともなく消えたトランプのスペードのエースだった。

 やがてそれに続くように殺人が起こり、その傍らにはスペードの2が置かれていた。そしてまたそ

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