その中でも深刻なのは、不動産業界がウクライナ人難民に賃貸物件を貸し出すことを渋ってしまうというもの。中には“ウクライナ人お断り”という差別にも近い表現を何のためらいもなく使う不動産業者も見受けられ、ウクライナ人難民からすれば逃げ込んだ国で住む場所を見つけることができない事態が発生していたのです。
そんな状況を打破すべく、エストニアのNPO・Office of Gender Equality and Equal Treatment Commissionerは不動産業界がいかに理不尽なことをしているかを皮肉たっぷりに表現した啓蒙キャンペーンを公開しました。
キャンペーンの内容としては架空の賃貸物件のOOHとWeb広告を作成し、その中で“左利きの人は対象外です”や“刺青が入った人は対象外です”、“髪色が茶色の人は対象外です”といった差別的な表現をあえて多用することで広告を見た人たちの間で議論を巻き起こしました。
Web広告では広告内リンクをクリックすることで施策の真の意図を解説したページに遷移し、国籍を理由に人を差別することは髪色や利き腕を理由に人を差別することと本来同義であり、どちらも許されるべきではないというメッセージが掲載されました。
差別とは、一般的にある社会的カテゴリーに属していることを理由に、合理的に考えて無関係な事柄に基づいて、異なった取り扱いをすることを指します。何を差別とみなすかは時代や社会によっても異なりますが、基本的にはマイノリティの闘争によって少しづつ訴えが認められるようになってきた経緯があります。
ある行為が“差別”として批判されるのか、“区別”として問題にならないかは、社会規範が大きな影響を与えます。あえて差別的な不動産広告を打ち出すことで、社会規範の形成に一石を投じた啓蒙施策でした。
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