第二回『ボクタク』開沼博著『マックで眠るホームレスギャルの「キャバクラ」開業の理由』をめぐる対談
INDEX
■イントロダクション
■「移動キャバクラ」それって何?
■現状に依存する生き様
■マイノリティ・レポート
■歴史を貫く現実と課題視点
■こぼれ落ちた本質をひろう「周縁」
■見えないタブーと見つめる視線
■行って見れば、そこにある
■日本メディアのマインドセット
■ショックドクトリンと暴力への目線
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■イントロダクション
開沼博『マックで眠るホームレスギャルの「キャバクラ」開業の理由』をめぐる対談
「移動キャバクラ」とは何か? 貧しさや暴力にすら“依存”して生きざるを得ない現代とは、一体いかなる時代なのか。 ジャーナリスト・烏賀陽弘道が、新進社会学者・開沼博がオンライン記事『マックで眠るホームレスギャルの「キャバクラ」開業の理由』で描いた現実とその問題視角に、舌鋒鋭く斬り込んだ対談の記録。
◎この対談について
・この対談は、2013年2月21日にニコニコチャンネルの生放送で配信された対談です。当日の内容は、Youtubeにもアップされています。
こちら(http://youtu.be/_ikSMcF201s)からご視聴いただけますので是非ご覧下さい。
・対談のベースになっている記事は、下記のwebサイトよりお読みいただけます。
ダイヤモンドオンライン 開沼博・連載「闇の中の社会学」より
第四回『マックで眠るホームレスギャルの「キャバクラ」開業の理由』
http://diamond.jp/articles/-/21442
◎対談テキストについて
・対談内の人物表記は、(U)烏賀陽氏、(K)開沼氏 と表記しています。
・対談内容のテキスト化において、口語部分等内容の一部修正をしています。
◎対談音声の聞き方について
・『ボクタク』チャンネル購読後に配信されるメールの、「電子書籍で読む(本記事のみ)」のURLをクリックしてEPUBファイルをダウンロードし、EPUBリーダーにてご視聴ください。
・また、ニコニコチャンネルの『ボクタク』ブロマガ記事(この記事)からダウンロードする場合、本ページ右側上にある「電子書籍」タブをクリックすることでダウンロードできます。
・各章の最初に音声を聞くためのリンクが設置してあります。
・ご視聴いただく周りの環境にご配慮の上、お楽しみください。ご覧いただくリーダーによっては、音声の再生が行えない場合があります。
◎推奨環境について
・『ボクタク』のePubファイルは推奨環境として、下記のリーダーでの動作確認を行っております。 (※各URLよりダウンロードできます。)
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◎bokutaku.comについて
・『ボクタク』ではニコニコチャンネル以外に、ご利用の方々、運営チーム、出演者等が交流を持てる場所として、bokutaku.comという公式サイトを設けています。
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・ボクタク公式サイト
http://bokutaku.com
・ボクタク交流用掲示板
http://bokutaku.com/bbs/
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第二回『ボクタク』 開沼博『マックで眠るホームレスギャルの「キャバクラ」開業の理由』をめぐる対談
烏賀陽(U)
開沼(K)
■「移動キャバクラ」それって何?
U「今回のテーマは、お互いの作品といいますか、書いた文についてですね、お互いが質問して、相手に聞きたいことを聞くというということを予定しておるのですが、今回、開沼さんの書かれたものとして、実に面白いものが来ておりまして、これは『マックで眠るホームレスギャルの移動キャバクラ』という大変魅力的な…と言うと不謹慎なんですが、これを取り上げたいと思います」
K「はい」
U「これ、ご自分で取材されたの?」
K「そうです」
U「へー。場所はどこなの」
K「場所は、記事にも書いてますけど、池袋と新宿ですね」
U「あの~、単刀直入に聞きますけど、ホームレスで移動キャバクラの女の子が2人、19歳と20歳、ってこれ一体何なんですか?」
K「一口には難しいですね。新しい概念ですかね」
U「結局何をしている人なの?」
K「まあその、移動キャバクラってのは多分よくわかると思うんですけど」
U「移動キャバクラ、うん」
K「要は、かつて街娼とか立ちんぼって言われたものの現代バージョンっていうのが捉えやすいかなと」
U「…売春婦ですね。はっきり言ってしまえば」
K「そうですね」
U「で、この移動キャバクラって言葉は開沼さんが作ったの?」
K「これは本人たちが言い出したんです」
U「へぇ~」
K「で、まあざっくり言うと、例えば喫煙所とか喫煙スペースとか行って、まあ逆ナンパをすると言うんです」
U「喫煙所。要するに駅のタバコ空間みたいなとこですね」
K「そうですね。で『私たちと飲まない?』と声を掛ける。飲む場所も別にワタミとか普通のところに行って、でまあちょっと多めにお小遣いくれれば一緒に飲んであげますよ、という話をし、客を見つけて携帯電話に登録する。それが常連客ってわけです。今日はどうだと連絡を取れるような客を何人か持っていて、それで食いつなぐ、と。ただまあ家がないってのがポイントで、どこにいるかと言うとマックで眠ってる、ってことなんですね」
U「すいません。私、関西人なのでマックと言うとマクドのこと。今、頭が翻訳してるんですけどね。ああマクドナルドやね、と(笑)」
K「そうですね(笑)」
U「マクドナルドにベッドないでしょ?」
K「ないですね」
U「寝る、ってどうしてるんかな。座席で何か横になって寝るわけですか」
K「そうですそうです。まあ一応横にはなれる。足は床につけとかないとダメでしょうけども、可能な限り横になって、でまあ腰より下にタオルケットというか毛布とか巻いて寝ている感じでしたね」
U「じゃあマックを宿代わりに使うわけだ。マックって24時間開いてるところでしょうね。店に追い出されないのは」
K「マックが、5年ぐらい前から24時間営業するという方針になったんですが、やっぱりホームレス…普通の男性のホースレスとかの溜まり場になってきているところもあって、一応今は夜は清掃の時間です、とかを言い訳にして全部人を一掃するようにしているところが多いですね」
U「それはホームレス対策?」
K「公式には言ってないですけど、まあそうでしょうね」
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■「現状」に依存する生き様
U「で、このうら若い20歳の乙女が、マックで寝ながら男の人を喫煙所でナンパして、お金をもらって食いつないでいると。そのことに絶句するんですよね。まあ建前的なことを言ったら、生活保護とか何で申請せんのやろ、とかそんなことを思ったりするし、こういう人たち…要するに底辺まで落ちているというか、そういう人を助けるために福祉とかがあるんと違うの、と思ったりするんですね」
K「そうですよね」
U「そういうのは機能しないの? こういうケースでは」
K「いや、それがどうかを聞いたけど、まあ面倒くさいんだ、と」
U「面倒くさい? それよりかは体売りゃお小遣いぐらいは、と思うんかなぁ」
K「まあそうですね。まあ実際(役所等には)行ってないんでしょうけど、行ったところで多分働けるだろうと言われちゃう、っていう状況もあるでしょうね」
U「じゃあ働こうとはしてないの?」
K「働こうとはしているけれども、普通のバイトをしたところで時給千円で本当にキツい。自分たちには学歴と職歴もないと。そういうことも自覚しているんですよ」
U「なるほどね…」
K「だからまあ、ある面では怠けてて怠惰だけど、よく言うように、男は金がなくてどうしようもなくなったらマグロ漁船で、女は風俗、みたいな話もあるけれど、実際にはそこまでシンプルな話じゃない。そういう意味では、結構考えているって言えば考えているのかなって気もしますけどね」
U「何を考えているんですか?」
K「自分たちのポジショニングですね。社会の中での」
U「ポジショニングですか」
K「(自分たちは)まあここら辺だろうな、と。今から企業に入って、正社員になって…というのはありえない、ってこともまあわかった上でやっている」
U「それ、無茶苦茶飛躍があるような気がするんですけど。企業入って正社員というのは」
K「それは確かにそうですね」
U「マックで寝て売春して暮らすのと、かなりの隔たりがある。その中間にね、スーパーで働くとか、宅配便配るとか、いくらでもありそうな気はするんですけど、どうなんですかね。要するにそういう世界に戻れないということなのかな」
K「戻れないでしょうね。で、まあ一つにはもう今の状況で暮らせちゃってる、っていうことですね。もうそういう働き方そういう生き方をしながら、今の状況で暮らせちゃってるってところなんじゃないでしょうか」
U「ひえぇ~」
K「まあ、そういう働き方生き方が違法であるとかいう話になったら止めるかもしれないけどね。話は少し変わるけれど、それが違法になったらなったで、そこに生きる場所を見つけちゃうっていういわゆる累犯障害みたいな話ですね。刑務所に行くと、ある種知的障害、精神障害のある方も多くて、でまあ外に出ても適応できないから戻ってしまう。一方で社会の側は、そういう人たちが(実際にはそこにいても)出歩いていないかのように暮らしていけてしまうっていうところがあるんですね」
U「あの、19、20歳やったら、普通はね、その普通はっていう言い方も危険か。あの、そうですね、僕は50歳だから、彼女たちの親でもおかしくないと思いながら考えていたんです。彼女らも親のところに転げ込んだりね、しばらく実家で暮らしゃいいんじゃないか、とかね。要するに親の庇護下に戻ってもおかしくないわけだけど、彼女たちにはそれができない理由があるんだよね。それは何なんですか?」
K「まあ完全に機能不全家族なんですね。DVもあるし。別に親自体は受け入れを拒むっていう感じでもないんでしょうし、積極的に出て行けというわけでもないんでしょうけど、本人たち的には戻るつもりはないっていう状況ですね」
U「あの記事で見ますとね、お名前がリナちゃんとマイカちゃんと書いてある。リナちゃんは所持金300円、マイカちゃんは170円。これじゃ電車にも乗れないですね。で、そのリナちゃんのお父さんは『いいちこ』(焼酎)を1日に3本飲む。これって要はアルコール依存ですよね」
K「そうですね」
U「で、(酔っぱらって)そのリナちゃんを殴る、っていうことなんですね。お母さんはどうしちゃったの?」
K「お母さんはフィリピン人で、まあ(子育ての)途中で帰っちゃったという家庭ですね」
U「フィリピン。じゃあ居なくなっちゃったんだ」
K「そうですね」
U「可哀想に…。それは彼女が何歳ぐらいの時?」
K「まだ学校に入るかどうかって時です」
U「それはやっぱり親父の暴力に対する逃走ってことで?」
K「そうでしょうね」
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■マイノリティ・リポート
U「で、マイカちゃんも、2人とも大阪から東京に来たんですね。でね、読んでるうちに思ったんですけど、これは彼女たちの問題というよりは、家族の機能不全の問題とかね、あとその家庭内暴力の問題とか、まあその学歴もなく、女性であり就労が不利であり、ということで言えば、まさに経済的弱者の問題でもあると思うんですよ。僕がアメリカで見聞きしたものを思い出すと、こういう問題が出やすいのはマイノリティと呼ばれる人たちなんです。つまりね、僕たちはマイノリティ、アフリカ系とかアジア系とか、ラテン系とかをマイノリティっていうふうに呼ぶと何となく思っているけれども、それはいわゆるエスニックマイノリティと呼ばれる人たちで、一方、彼女たちのようなケースはいわゆるエコノミックマイノリティって言うか、経済的弱者、マイノリティと言っても社会的マイノリティというジャンルに入るんです」
K「なるほど」
U「だからその、何て言うんだろう、開沼さんのやってることは立派なマイノリティスタディに該当すると思うんだよね。そもそも、こういうのは、僕は古いおじさんなので、昔は朝日とか読売、毎日の社会部の記者が行って、社会問題として新たな、その何と言うか、都市の貧困像みたいなね、続き物をやってたりしたと思うんですよ。もちろんこれは開沼さんがやっちゃいけないということじゃなくて、もう今は、そういうものの書き手が記者だけじゃなくなったんだな、とつくづく思ったんです。社会学者である開沼さんがこれを書いてるってことなんだよね。それは僕にとっては、やや衝撃でもあるし、新しいジャーナリズムの形ができてきたんだなという、ある種の喜びでもある。とは言えこういうのをアカデミズムの中にいる開沼さんがやっちゃうというのは意外な感じがするんだけど、これはその社会学の研究としてやってるの? それとも何か別のこととしてやってる?」
K「元々は実話誌に書くために始めたんです。実話ナックルズのですが」
U「ナックルズ、あのハード本ですか」
K「もうなくなっちゃいましたけど」
U「エロ本みたいな感じの(笑)」
K「そうですね。それの記事ですよね」
U「開沼さんはそこでライターをやってたんですね」
K「そう。ライターをやってて、常に企画を考えながら街を歩いているような感じでした」
U「じゃあ、こういうのは普段から気をつけてネタのアンテナを張っているんだ」
K「そうですね。震災後はあんまりそういう余裕はなくなりましたけど。それ以前はもう、常にアンテナを張っていたし、その中に原発も引っ掛かってきていたという」
U「なるほどね」
K「まあ仰る通りマイノリティの話なわけです。原発立地地域も」
U「ちょっと待って。原発立地地域と言うと例えば福島がってこと? 福島がマイノリティであると?」
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