第二回『ボクタク』 烏賀陽弘道著『スリーマイルからフクシマへの伝言』をめぐる対談
INDEX
■イントロダクション
■近代経済学とマルクス経済学のはざまに
■誰も行かず、誰も報じず
■スリーマイルと日米のジャーナリズム
■ジャーナリストと情報源
■知り得た事実を伝えること
■東電は知っていた
■リスクをめぐるアイロニー
■「忘れる機能」に抗する試み
■デタラメではなかった斑目証言
■改めて、事実を記録するということ
■リスクをめぐるアイロニー
■「忘れる機能」に抗する試み
■デタラメではなかった斑目証言
■改めて、事実を記録するということ
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■イントロダクション
烏賀陽弘道『スリーマイルからフクシマへの伝言』をめぐる対談
日本中を震撼させた福島第一原子力発電所事故。その危機感は、多くの耳目を史上最大の原子力災害が起きたチェルノブイリへと向かわせた。しかし、日本と同じ民主主義国家であるアメリカで発生した、史上初の過酷事故の地・スリーマイル島へ注がれた視線はあまりに少なかった。ジャーナリスト・烏賀陽弘道の独走記事に、社会学者・開沼博の眼光が光る。
日本中を震撼させた福島第一原子力発電所事故。その危機感は、多くの耳目を史上最大の原子力災害が起きたチェルノブイリへと向かわせた。しかし、日本と同じ民主主義国家であるアメリカで発生した、史上初の過酷事故の地・スリーマイル島へ注がれた視線はあまりに少なかった。ジャーナリスト・烏賀陽弘道の独走記事に、社会学者・開沼博の眼光が光る。
◎この対談について
・この対談は、2013年2月21日にニコニコチャンネルの生放送で配信された対談です。当日の内容は、Youtubeにもアップされています。
こちら(http://youtu.be/rYgbPx8hgc0)からご視聴いただけますので是非ご覧下さい。
・対談のベースになっている記事は、下記のwebサイトよりお読みいただけます。
JBPRESS 烏賀陽弘道・連載『スリーマイルからフクシマへの伝言』
http://goo.gl/JGTud
◎対談テキストについて
・対談内の人物表記は、(U)烏賀陽氏、(K)開沼氏 と表記しています。
・対談内容のテキスト化において、口語部分等内容の一部修正をしています。
◎対談音声の聞き方について
・『ボクタク』チャンネル購読後に配信されるメールの、「電子書籍で読む(本記事のみ)」のURLをクリックしてEPUBファイルをダウンロードし、EPUBリーダーにてご視聴ください。
・また、ニコニコチャンネルの『ボクタク』ブロマガ記事(この記事)からダウンロードする場合、本ページ右側上にある「電子書籍」タブをクリックすることでダウンロードできます。
・各章の最初に音声を聞くためのリンクが設置してあります。
・ご視聴いただく周りの環境にご配慮の上、お楽しみください。ご覧いただくリーダーによっては、音声の再生が行えない場合があります。
◎推奨環境について
・『ボクタク』のePubファイルは推奨環境として、下記のリーダーでの動作確認を行っております。 (※各URLよりダウンロードできます。)
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・ボクタク公式サイト
http://bokutaku.com
・ボクタク交流用掲示板
http://bokutaku.com/bbs/
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第二回『ボクタク』 烏賀陽弘道著『スリーマイルからフクシマへの伝言』をめぐる対談
烏賀陽(U)
開沼(K)
■近代経済学とマルクス経済学のはざまに
U「さて、そういうことで後半に入るんですが、先程から、僕らと関係のない本がここでアップになってるのが、若干気になってるんだけど(笑)」
K「安冨歩さんの『原発危機と「東大話法」』(明石書店刊)ですね。これ、面白かったですか?」
U「面白かったですよ。あの、安冨歩さんって東大の先生なんですけど、実は僕の京大経済学部の同期で」
K「あ、同期なんですか」
U「ここに置かれてる本にも、なんだか開沼さんが読んだ本みたいに七夕飾りばりの量の付箋が付いてるんですけども、まあ要するに彼が言う東大話法ってのはですね、それがいかに今回の原発事故で、レトリックとして危険な言説を広めたかっていうのを、彼はもうこれでもかってぐらいネチネチと分析していくんですよね。本当に面白い本でした」
K「うんうん」
U「なんでも視聴者の方のコメントでは、烏賀陽はいらんから、安富呼んできて開沼安富対談にしようぜ、というリクエストがあるっていう話なんですけど本当ですか。けしからんですね本当に。結局みんな東大が好きなんですよね(笑)。本当に泣けますよ。言っときますけど、安富さんも京大経済学部卒ですからね。ははは。(今は)東大の先生ですけどね」
K「その頃の京大経済ってどういう雰囲気だったんですか?」
U「とんでもない学校で、経済原論でマルクスの資本論読まされるんですよ」
K「おお」
U「授業でね」
K「なるほどなるほど」
U「普通は近代経済学で、ケインズの有効需要論とかやるじゃないですか。普通(の経済学部)は」
K「はいはい(笑)」
U「で、当時、僕なんかはマルクスが嫌で、その授業を取りたくないって言ったら、じゃあレーニンを読めって言われてですね(笑)」
K「あー」
U「レーニンの帝国主義論(を読まされる)…マルクスかレーニンしか選択肢がないっていう(笑)」
K「へええ」
U「当時の京大経済学部にはそういう、左翼の最後の牙城みたいなところがあったね」
K「なるほど」
U「マルクス主義者の牙城になっていて、本当にとんでもない状況(笑)」
K「近経(近代経済学をやってる学生)は、それでも何人かはいたわけですよね」
U「いました(笑)。いたけどね、東大とか一橋は近代経済学がマジョリティで、マル経なんかドマイナーなのに、京大はマル経が主流で近経がドマイナーという、ほとんど狂った世界ですよね(笑)」
K「そうかぁ。それじゃあ、日銀とか行けないですよね」
U「そうなんですよ。あの、近経の素養がないんですよ。僕が本当にヤバイと思ったのは、アメリカの大学院に行った時に、近経の素養がまったくないから、ミクロ経済、マクロ経済を自分は分かってないんだってことが分かったこと。で、経済学部卒のくせにアメリカの大学院で初めてミクロマクロ経済学をみっちりやってやっと分かった。そういうことですね(笑)」
K「はいはい(笑)」
U「非常にとんでもない人間です(笑)」
K「でも、逆に両方分かってるといろいろ立体的に見えるんじゃないですか」
U「お陰様でね(笑)。で、奇異な話ですけど、貧困問題って、要するに搾取の問題なんですよね。で、さっきのリナちゃんの話じゃないんですけども、彼女達なんかは、まさに体以外に生きていく手段を持ってないわけでしょ。頭脳労働もできない人達で、もちろんお金もない、資本もないと。そういう人達はまさに体で生きていくしかないわけですよね。これってマルクスの言葉を借りると、『すべての労働者はその体以外に、人体以外に生産手段を持たない売春婦である』という、もうすごくゾッとするような話になる。マルクス先生が正しかった!みたいなね。だから今すごいアイロニー(を感じてるところ)なんですよ。マルクス主義体制は死んだんですけど、思想っていうか、彼のその経済観、視点として社会をこう見るんだ、って視点がね、むしろ正しいんだっていうふうに思えちゃうんです、最近は」
K「なるほど」
U「で、(ネタとして)みんなでマルクス正しかったな~って大笑いするんですけど、本当に彼の書いてる通りになってるんですよ。派遣労働とか、若い貧困層ってのは体以外に本当に何もないわけでしょ。バイク便を運転して安くこき使われたり、みなし店長、みなし公務員、みなし管理職で、ワタミの店長みたいに過労死したりとかね。そういう、マルクスが言うところのプロレタリアートそのものですよね。で、かと思えば投資で一千万儲ける人もおるわけで、(かつては考えられなかった数の)ネット投資家ってのがいるわけだから、本当にそれってキャピタリストだよなってことですよね。実に恐ろしい(笑)」
K「そうなんですよね。(近頃も)一瞬、マルクスブームみたいな…蟹工船が流行ったみたいなのがありましたけどね。研究者としては、もうちょっと、何かそういう視点や枠組みが広がったら面白くなるな、と思いましたけどもね。後があまり出てこないですよね」
U「(今の世の中に)マルキストっていないじゃないですか。そもそも」
K「いないですね」
U「いないし、その、何て言うんだろう…いや本当に変(な状況)で。例えばあの福島第一の(事故の)時にね、計画停電なんて言葉のすり替えで、あれは本当はニュースピークなんだってことを言ったら、ニュースピークって何だ、って言われたんですね。いやジョージ・オーウェルの『1984』ですけど、って言ってもみんな知らない。『1984』もまさに(福島事故後の日本と)同じなんですよ。一旦死んだ世界…まさにディストピアみたいな世界なんです。つまり今、僕らって現実にそういうディストピアに生きてるんじゃないかって思うんですよ。さっきまでの話で言えば報道がね、例えばリナちゃんとか…彼ら彼女らのことを、ないものとして扱ってるっていうのは、まさにミニストリー・オブ・トゥルース(『1984』作中に登場する「真理省」)の仕業と同じなんですよ。社会にとって都合の悪いものは、あらかじめ(報道する)真実から外してしまうという作業をマスコミはやっちゃってるよね」
K「なるほど」
U「本当にすごく、気分が暗くなって」
K「そうですよね。そんな中、じゃあどういうふうに物語を正しく、(報じられて)ないところまで拾っていくかということで、後半の…」
U「ああ、後半の話ね。はい」
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■誰も行かず、誰も報じず
K「既に告知もされている通り、(烏賀陽さんのレポートされている)スリーマイル島の話ですね。予定では5回の連載ですか」
U「5回の連載ですよね」
K「まあ細かい話を始めると、もうそれだけで終わっちゃうぐらいまあ面白い、すごい手数が打たれているものなんですけども、そもそも何でスリーマイルに行こうと思ったのかっていうところ。それは(記事に)書かれているんだけれども、一方、書かれてないこととして、裏を返すとやっぱりスリーマイル島には(日本の記者は)行ってなかったわけですよね」
U「行ってないんですよ」
K「それは震災前も後も」
U「後も」
K「そこら辺、ちょっとどういう状況だったんでしょう」
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