2014年5月13日 日本共産党

 日本共産党の山下芳生書記局長が13日の記者会見で発表した「『学問の自由』を脅かす大学自治破壊法案を許さない共同をよびかけます」と題するアピールの全文は次の通りです。

 わが国の大学は、その存立を揺るがす危機に直面しています。安倍内閣が「大学の自治」を破壊する法律案(学校教育法・国立大学法人法の改悪案)を国会に提出しました。

 大学は、国からの干渉をうけずに自由な教育・研究を行うために、「大学の自治」が保障されています。その土台をなすのが、学問研究と学生の教育にあたる教員が自ら大学運営に参加する制度です。法案は、この制度を骨抜きにし、トップにたつ学長が独断で運営するしくみを確立するものです。憲法第23条の「学問の自由」を脅かす悪法であり、断じて認めることはできません。

 大学教員からは、「大学が大学でなくなる」「良心に従った研究・教育を不可能にする」「学長の独裁になり民主主義がなくなる」など、法案への強い危惧と反対の声があがっています。元学長など大学関係者11氏がよびかけた「学校教育法改正に反対する緊急アピール」には、国公私立を問わず様々な専門分野の大学教員、研究者の賛同が急速にひろがっています。

 日本共産党は、大学関係者、国民のみなさんと共同し、この悪法の強行を阻止するために全力をつくします。

学校教育法改悪案は教授会から審議権をとりあげる重大な改悪です

 学校教育法は、「大学の自治」を保障するため、国公私立のすべての大学に「重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」(第93条)とし、教授会の審議権を定めています。

 改悪案は、この規定を「教授会は学長が必要と認めるものについて意見をのべる」と変更します。教授会が審議している教育研究費の配分、教員の業績評価、教員採用などの人事、学部長の選任、カリキュラムの編成や学部・学科の設置廃止、学生の身分など、教育研究のあり方を左右する重要な事項を、教員の意見も聞かずに学長が独断で決められることになります。

 教授会から大学の重要事項を審議する権限をとりあげ、「学長のための諮問機関」に変質させる重大な改悪です。その一方で法案は、副学長も「学長の命をうけて校務をつかさどる」として権限を強化し、学長中心の執行体制を強めます。

 これでは、どの分野に研究費を投入するか、学部長を誰にするか、どんな人を教員にするかなどは、学長の思いのままです。「学長の気に入らない研究には予算をつけない」「国の政策に批判的な立場の研究者は採用しない」ということがおこり、学長の顔色をうかがう風潮が学内にはびこっていくでしょう。大学改革や教育研究への教職員の主体性や活力はおしつぶされ、大学から教育研究の自由や多様性が失われます。

国立大学法人法改悪案は各大学の学長選挙を形骸化します

 わが国の大学では、「大学の自治」を形成するなかで、学長は選挙で選ぶという民主主義の制度が根づいてきました。国立大学では、大学の評議会(学長、学部長などで構成)が選挙結果にもとづいて学長を選んでいたのを、2004年の法人化によって、学外者が参加する各大学の学長選考会議が学長を選ぶしくみにされました。そのもとでも多くの大学では選挙で1位の人を学長に選んでいます。

 今回の国立大学法人法改悪案は、学長選考会議が「各大学のミッション(使命・任務)にそった学長像」などの“基準″を定めて選考するとしています。教職員の選挙で支持をえたか否かよりも、この“基準″に合うかどうかで学長を決めることになります。これは学長選挙を形骸化し、無力化するものです。教職員が学長になってほしい人は学長になれず、なってほしくない人が学長になる、民主主義のない大学になります。

 しかも、「各大学のミッション」とは、文科省が決めた大学ごとの改革ビジョンです。文科省の方針にそって大学を運営する人しか学長になれないのです。

学長のリーダーシップどころか「学長独裁」の大学になります

 政府は、法案提出の理由を、学長のリーダーシップを確立し大学改革を推進するためといいます。しかし、学長選挙を形骸化し、学内で支持されない人物が学長になっても、リーダーシップを発揮できるわけがありません。そんな学長にまかせれば、上意下達で強権的に改革を断行することになるだけです。

 大学は多様な見識や価値観が存在するからこそ「学問の府」といわれます。そうした多様な立場からの意見のなかで、全学的な合意を形成する能力・資質こそが、学長に求められるリーダーシップです。教授会の審議権を尊重し、教育研究や大学改革を現場で担っている一人ひとりの教職員の意見を大切にしなければ、改革を実らせることはできません。

 法案が求めるのは、学長のリーダーシップどころか「学長独裁」を確立し、上意下達の運営を強めることです。その結果、日本の大学は教育研究の質が劣化していくことは避けられません。

 私立大学では、学園理事長のワンマン経営を助長することにもなります。文科省から解散命令をうけた堀越学園(創造学園大学)は、教授会などによる内部チェックが働かず、理事長の放漫、乱脈によって経営破たんをひきおこしたのです。

大学を政府・財界いいなりの機関に変えることがねらいです

 安倍内閣が大学自治破壊をおしすすめるのは、財界の強い要望があるからです。

 日本経団連は、「教授会で議論する『重要事項』の範囲を学校教育法第93条に限定的なかたちで明記する」とし(2013年12月の提言)、経済同友会は「教授会は、教育・研究に関する学長の諮問機関とする」ことを求めています(2012年3月の提言)。政府が今回の法案を提出したのは、これをうけたものです。

 これらの提言のなかで財界は、大学が産業界の競争力強化に貢献するような「優秀な人材」をうみだすべきだと唱えています。財界の目先の利益につながる教育や研究を担うような大学につくりかえるというわけです。そのために、政府は大学を再編・統合せよ、学費も高くせよ、大学は企業経営に学んで「ガバナンス改革」をせよとのべています。

 安倍内閣は、すでに国立大学の再編・統合を視野に入れた「国立大学の機能別分化」を各大学に押しつけています。さらに国公私立にわたって財界の要望に全面的にこたえた大学再編をすすめ、大学を政府・財界のいいなりの機関に変えることが、大学自治破壊法案の狙いです。

 政府・財界は、「グローバルに活躍する人材」「イノベーションをつくりだす人材」が必要だといいながら、大学予算を削減しつづけ、非正規の教員、研究者を増やす一方で、業績競争だけは大学に強いてきました。その結果、大学では基礎研究が存続できない深刻な危機に直面しています。世界で最先端の研究をになう京都大学のiPS細胞研究所でも9割が非正規など、若手研究者や研究支援者の雇用はきわめて不安定です。

 こうした流れこそ断ち切るべきです。

大学自治破壊法案を許さない国民的な共同を

 学問研究と教育は、社会の未来をささえる大切な営みであり、大学は、教育研究を通じて社会の進歩に貢献すべき国民共有の財産です。政府・財界のいいなりではなく、憲法にもとづき国民のための教育研究を行う機関でなければなりません。国がなすべきは、大学自治破壊ではなく、「学問の自由」を保障し、大学の多様な発展に必要な条件整備を行うことです。そのために世界で最低水準の大学予算を抜本的に増やすことこそ急務です。

 「学問の自由」と大学の発展を願うすべての人々が立場の違いをこえて力をあわせ、「大学自治の破壊を許すな」の一点で共同を広げることを心からよびかけます。日本共産党は、安倍内閣の大学自治破壊と正面から対決し、悪法を廃案に追い込むために、みなさんとともに全力をつくします。