安倍内閣は4日、教育委員会「改革」法案(地方教育行政法の一部改正)を閣議決定しました。自治体首長が教育行政の「大綱」を策定し、教育長を直接任命・罷免するなど、憲法に基づいて権力から教育の独立性を守るためにつくられた制度の根幹を覆す大改悪です。
教育行政の方針は現在、首長から独立した合議体の教育委員会が決めています。改定案では、首長が主宰する「総合教育会議」で教育委員会と協議して首長が策定します。
学校の設置・廃止などは教育委員会の権限に残るものの、「大綱」に盛り込まれた方針に基づいて具体化・執行することになり、首長の支配・介入が強まることになります。住民代表の教育委員会が首長の下請け機関にされてしまいかねません。
さらに教育委員会を代表する教育委員長のポストをなくし、教育長が教育委員会を「総理し、代表する」とします。この「新教育長」は首長が直接、任免できるようにします。
現在、教育長は教育委員会の指揮監督下にありますが、法改定で逆に教育長が教育委員会の上に立つようにしようというものです。新教育長の任期は3年で現行の4年より短くし、首長の任期中に必ず任命できるようにします。
一方、教育委員会に対する国の権限については、生徒の安全確保など「緊急の場合」に限られている文科相の「是正指示」について、「おそれがある」場合でも出せるように要件を見直しました。
政治介入 際限なく拡大
安倍内閣が提出した教育委員会制度の改定案は、憲法に基づいて教育の自主性を守るためにつくられた制度の根幹を改変し、首長・政治権力による際限のない支配・介入に道を開く危険な内容です。
抜本的に変わる
大きな変化は、教育行政の基本的方針となる「大綱」を、首長が策定することです。教育の方向性はこれまで住民代表からなる合議体の教育委員会が決めていました。それが首長の権限のもとに移されることは重大です。
「大綱」には何でも盛り込むことが可能です。例えば「学校の統廃合」を盛り込めば、首長は会議を随時招集し、教育委員に対して方針の具体化・実行を迫ることができます。学校の設置・廃止などは法律上、教育委員会の権限として残るものの、実際は首長の下請け機関とされ、首長がいくらでも政治介入できることになります。
もう一つ重大なのは、教育委員長ポストをなくして、首長が直接任免する新「教育長」が教育委員会を代表して執行していく仕組みに変えることです。
新教育長は教育委員会の指揮監督を受けることもなくなり、首長は直属の部下である教育長を通じて、支配・介入を強めることができます。住民代表が合議で進めるという教育委員会がさらに形骸化しかねない危険性を抱えています。
被害者は子ども
こうした内容が具体化されれば、首長が代わるたびに教育現場が振り回され、子どもたちが最大の被害者となってしまいます。大阪市では橋下徹市長が教育委員会と協議して「基本計画」を策定。学力テスト結果公表など首長の考えが押し付けられ、競争主義や管理統制が強められています。改定案はこれを全国に広げるもので、教育のゆがみをいっそう深刻にしかねません。
安倍内閣が進める「教育再生」は、「海外で戦争する国」づくりや「企業が世界で一番活動できる国」づくりと一体のものです。そのために侵略戦争美化や偏狭な「愛国心」を植え付け、子どもたちを競争主義に駆り立てて「エリート」をつくろうというのです。
「教育内容に対する権力的介入は抑制的であるべき」とする1976年の最高裁学力テスト判決で示された日本国憲法の要請を踏みにじり、権力による歯止めなき支配・介入の道を開くことは許されません。
党派を超えて「教育が選挙結果で左右されてはならない」など批判や懸念が広がっています。憲法と教育の流れに逆らって暴走を続ける限り、国民との深刻な矛盾を広げざるをえません。(深山直人)