安倍内閣が今国会に提出する労働者派遣法改悪案の法案要綱が決定されました。田村憲久厚生労働相は「派遣業界だけの要望を受けたものではない」と言い訳しています。しかし、派遣業界の要求と法案要綱を比べてみると―。
今回の改定をめぐる焦点は、「派遣労働は臨時的・一時的な働き方」とする原則を堅持するのかどうかでした。
派遣法の見直しを議論する労働政策審議会部会で、労働側は「不安定雇用を増やさないため、『臨時的・一時的』との原則を法律に明記すべきだ」と主張しました。一方、派遣業界は、派遣を雇用の柱にする立場から「明記すべきではない」と表明。法案要綱には明記されず、確立された大原則を突き崩すことが明確になりました。
現在、原則1年とされている派遣期間についても業界は「業務単位から人単位にして、3年とする」「労働組合の意見を聞けば延長を認める」「無期雇用は期間制限をなくすべきだ」と求めてきました。労働側は「労組の意見を聞くだけでは歯止めにならない」「無期雇用でも“派遣切り”されたのが実態」と反対しましたが、法案要綱は業界の言い分をそのまま取り入れ、人を入れ替えれば無制限に派遣を使える大改悪が盛り込まれました。
派遣労働者の待遇についても労働側が「同じ仕事をしているのに賃金や労働条件が違うのはおかしい」として「均等待遇」を求めたのに対して、派遣業界は「コストが増え、派遣を使う意味がなくなる」として反対。結局、格差を認める「均衡待遇」にとどまりました。
だれの要求に応えた改定なのか答えは明りょうです。
派遣各社が加盟する日本生産技能労務協会と日本人材派遣協会は昨年7月、田村厚労相に会って要望書を提出していました。その通りに法案要綱がつくられたことになります。
要望書は、労政審に派遣業界の代表を参加させるよう求めていました。これも昨年8月から2人の代表が審議会に委員(陪席)として参加することになり、「派遣法は規制一辺倒に流れている」(日本生産技能労務協会)などと業界の利益拡大のため規制緩和を主張しました。
田村氏は厚労相になる前から派遣業界と政治献金を通じて結びつき、2012年には寄付50万円とパーティー券購入14万円を受けていました。民主党政権下では派遣法改正を骨抜きにし、安倍政権では厚労相として派遣法の見直しを審議会に諮問しました。
「これまでは肩身が狭かったが、安倍内閣になって風向きが変わった」(派遣会社社長)と喜ばれる通り、安倍内閣は派遣業界の代弁者といっても過言ではありません。(深山直人)