問われる安倍政権
NHK経営委員の長谷川三千子・埼玉大名誉教授(67)が、1993年に朝日新聞社内で拳銃自殺した右翼団体幹部をたたえる追悼文を発表していたことが、5日に明らかになりました。旧日本軍「慰安婦」問題での籾井勝人(もみいかつと)会長の暴言や、都知事選での百田尚樹(ひゃくたなおき)経営委員の特異な言動などに続くものです。一連の暴言を擁護し、経営委員の任命責任にほおかむりする安倍政権のあり方が厳しく問われています。
長谷川氏の文が掲載されたのは、野村秋介・元「大悲会」会長の死後20年にあたる昨年秋に作られたパンフレット。
長谷川氏はそこで、野村元会長について「自らの命をもつて神と対話する」「野村秋介は神にその死をささげたのである」とその行為を称賛しています。
新聞社に拳銃を持ってたてこもり、社幹部を脅した上での自殺は、テロ行為の一種です。「表現の自由を確保」し「健全な民主主義の発展に資する」ことをうたった放送法に反することは明らかです。
また放送法は、NHKの経営委員の条件の一つに、「公共の福祉について公正な判断をすることができ」る者と定めています(31条)。テロ行為の当事者を礼賛する長谷川氏の言動は、放送法の基準に照らしても不適格です。
ところが安倍首相は5日の国会答弁で、長谷川発言について「読んでない、答えようがない」と事実上答弁拒否。菅義偉官房長官も「放送法に違反するものではない」と擁護しました。
経営委員会はNHKの最高決議機関であり、会長の選出のほか、経営や番組基準、放送番組の編集に関する基本計画を決めます。百田、長谷川両氏らは昨年秋、衆参両院の多数決定の同意で、首相が任命しました。
首相は両氏のこれまでの言動を承知した上で任命しました。安倍政権の任命責任が正面から問われます。
「朝日」本社で拳銃自殺 / 大臣宅に放火
長谷川氏 蛮行人物を礼賛
長谷川三千子氏が、「神にその死をささげた」と無批判に天まで持ち上げた右翼団体「大悲会」の野村秋介元会長は、反社会的蛮行を繰り返してきた人物です。
朝日新聞東京本社で記事に抗議し拳銃自殺を図るなど、威圧した行為は、言論機関へのテロそのものです。
しかも、野村元会長は過去にも▽1963年に自民党の河野一郎建設相(当時)宅に侵入・放火した罪で実刑判決▽77年に経団連会館を襲撃し人質をとって籠城した罪で実刑判決―など暴力行為を重ねてきました。
野村元会長を礼賛する長谷川氏には、言論機関であるNHKの経営委員としての資格はもちろん、社会人としての見識そのものが疑われます。
長谷川氏のこうした言動の根底には、現憲法やそのもとでの民主主義を敵視する姿勢があります。
とくに憲法9条を「日本国憲法の『平和主義』は、国家主権の放棄」(「産経」2013年4月30日付)だなどと繰り返し攻撃してきました。
その一方、安倍首相の右翼的主張を「敗戦後の日本をしばりつづけてきた枠組みを根本から見直す」(同紙12年10月3日付)ものだと絶賛しています。
右翼・暴力団に詳しいジャーナリストの溝口敦さんは、こう指摘します。「私が暴力団の大物組長を取材したとき、野村元会長が取り巻きのように組長側にいたことがあった。何度も暴力事件を引き起こした人物を賛美する長谷川氏がNHKの経営委員にふさわしいわけがない。他の経営委員や会長も言動が問題になっている。結局、安倍首相にはこの程度の“お友達”しかいないということだ」 (森近茂樹)