主張

TPP交渉越年

経済主権の無視に無理がある

 環太平洋連携協定(TPP)交渉が越年します。交渉を主導する米国が参加各国に「年内妥結」を強引に押し付けたにもかかわらず、利害の対立には決着がつかなかったばかりか、米国のごり押しへの反発が強まっています。

 米国の尻馬に乗って「年内妥結」の旗を振った安倍晋三政権も追い詰められています。関税撤廃が免除される「聖域」を、米国が容認したかのような安倍首相の主張はまったくの当て外れでした。「年内妥結」の失敗は、TPP交渉への根本的反省を迫っています。

“泥沼化”さえも

 山積する懸案に「政治決着」をつける場とされたシンガポール閣僚会議は、妥結のメドも「部分合意」もうたえず、実務協議の継続と来年1月にも閣僚会議を開くことだけを決めて閉幕しました。各国間の対立の根深さと交渉の行き詰まりを印象づけています。

 輸出倍増政策を掲げるオバマ米政権は、来秋の中間選挙に向けてTPP妥結の成果を示す必要に迫られています。しかし、米国には拙速な結果より「質の高さ」が重要だとする声もあり、その強硬姿勢が変わるとの見方はほとんどありません。劇的な展開の可能性は小さく、交渉が“泥沼化”することも予想されます。

 TPPは雇用創出や成長促進などの宣伝文句とは裏腹に、米国の覇権のもとで各国の経済主権を踏みにじり、自然条件も経済発展の段階や経路も異なる国々に、弱肉強食の競争原理を押し付けるものです。多国籍企業の利益を最大化するのが目的です。危険性が明らかになるにつれ、TPPへの各国の批判は強まりをみせています。

 関税以外でも厳しい対立は解けていません。知的財産の分野では、米国が製薬企業の利益を確保するため、特許保護期間の延長を新興国に迫っています。新興国にとっては、特許の切れた薬と同じで安価な後発医薬品(ジェネリック)の利用は死活問題です。

 国有企業と外国企業とを同等に扱う競争条件や政府調達をめぐる問題でも、それぞれの国がめざす経済制度や発展のあり方を、外国が力まかせに変えようとするのは無理があります。投資先国の政策をめぐって外国企業がその国を訴え、国際機関での一度きりの裁判で多額の賠償を獲得できる「投資家と国家との紛争解決(ISDS)」手続きにも、企業優位で不公正との批判が続いています。

 これらの問題で、米国と新興国との「橋渡し役」を自任し、米国を支えてきた安倍政権も難しい立場にたたされています。安倍政権の姿勢は、大企業の海外展開を後押しし、日本国内での産業の空洞化と雇用の不安定化に拍車をかける点でも許されません。

日本は撤退をこそ

 米国が日本にも「100%」の関税撤廃を迫っていることが、あらためて明らかになっています。米国との同盟関係を頼って、農産物の「重要5項目」をはじめとする「国益を求めていく」と主張してきた安倍政権は、交渉でのよりどころを失っています。

 通商交渉は、各国の経済主権を尊重し、平等互恵の立場でこそ行われるべきです。TPPはその原則を真っ向から踏みにじるものであり、交渉に時間をかければ改善されるものではありません。交渉からただちに撤退すべきです。