安倍晋三首相が先週初め、経団連など財界3団体トップに「業績が改善している企業は、報酬の引き上げを検討してほしい」と要請しました。異例のことです。日本共産党の笠井亮衆院議員が国会で、賃上げを拒否している経団連の姿勢を批判し、身勝手な主張を許したらデフレがもっとひどくなると追及し、安倍首相が経営者に要請すると答弁していました。その実行となった要請は、政府としても、デフレ不況から脱却するためには働く人の所得を増やす対策が欠かせないという常識から逃げられなかったことを示しています。
パフォーマンスでなく
問題は、この要請がパフォーマンスに終わり、あとは企業任せではだめだということです。
メディアは「安倍首相が賃上げ要請」といっせいに報じましたが、安倍首相が求めたのは「報酬の引き上げ」です。「賃上げ」といわず、あえて「報酬引き上げ」と表現したのは、賞与や一時金で対応する考えを示したものです。労働者がつよく期待する月々の賃金を引き上げるベースアップ、つまり「賃上げ」ではありません。
賃上げの回避は、財界、大企業の基本方針です。経団連は、ことしの春闘対策として「ベースアップを実施する余地はない」といい、「企業業績の変動があった場合には、賞与・一時金に反映させる」(「経営労働対策委員会報告」)としています。これまでも財界は、賃金を底上げするベースアップを拒否し、定期昇給の見直しをすすめ、利益が出たら賞与・一時金の増減で対応してきました。これが労働者の賃金が上がらず、企業の内部留保が増えて“金余り”状態になる原因になっています。
安倍首相の発言に財界側は「業績がよくなれば、どの企業でも一時金や賞与に反映される」とあっさり応じただけで、ベースアップは話題にもなりませんでした。結局、首相も財界側も、まず大企業の利益拡大があって、そのおこぼれを一時金で労働者に反映するという立場です。これでは何も変わりません。
いま政府に求められているのは、形ばかりの「要請」ではなく、賃上げ目標をしっかりもって財界、大企業に社会的責任をはたさせることです。日本共産党は、「賃上げと安定した雇用の拡大で、暮らしと経済を立て直そう」という「働くみなさんへのアピール」を発表しました。このなかで大企業がもっている内部留保のわずか1%を活用するだけで8割の企業で月1万円の賃上げができると指摘しています。内部留保を下請け単価を引き上げるために活用すれば、中小企業での賃上げに波及します。
立場の違い超えて
財界の賃上げ拒否姿勢を改めさせ、違法・脱法の退職強要や解雇の根絶にも本腰を入れたとりくみが政治の責任として強く求められています。賃上げを促進するために、非正規で働く労働者の賃金と労働条件を改善し正社員化を促進することや、最低賃金を時給1000円以上にする、中小企業と大企業の公正な取引ルールをつくる、公務員の賃下げなど政府の賃下げ促進策を中止するなど政府としてやるべきことがあります。アピールがよびかけているように、こうした一致点で労働組合のナショナルセンターや政治的立場の違いをこえた連帯、共同が重要です。