めるまがアゴラちゃんねる、第094号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(105)
欧米圏で本格的評価の段階に入り始めたPS4
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(105)
欧米圏で本格的評価の段階に入り始めたPS4
ソニー・コンピュータエンタテインメントの家庭用ゲーム機「プレイステーション4(PS4)」の販売状況がいまだに好調な状態が続いている。ゲーム販売調査サイトの米VGChartzの5月24日現在の調査によると、昨年11月に発売開始して以来、全世界での販売累計台数は、PS4は780万台で、同時期に発売になったマイクロソフトの「XboxOne」は460万台と大きく差がついている。
クリスマス商戦でない今の時期は、販売は緩やかになってきているはずだが、それでも販売ペースを維持し続けている。PS4のこのブームは本物だと考えてよいだろう。
一方で、任天堂の「WiiU」は620万台と、発売から1年半あまりが経過するのに、伸び悩みの状況には変化がない。アメリカ国内以外の欧州での販売では、苦戦しているXboxOneにさえ抜かれるのも時間の問題だろう。
■苦戦のソニーグループの中で堅調なゲーム部門
ソニーグループは、14年3月期の連結業績は最終損益が1283億円の赤字で、5年3月期も500億円の最終赤字の見通しで、依然厳しい。パナソニックなど各社が回復を見せる中、「家電企業で1人負け」とまでいわれる状態になっている。特にテレビなどのエレクトロニクス分野の改善は、まだ見えていないのが実情だろう。
ただ、ゲーム&ネットワークサービス分野については、ソニーグループで手堅く収益を今後出し続ける可能性が高い分野として、評価をするべきだろう。ゲーム部門は、14年3月期の売上高は前期比39%増の1兆439億円と大幅に伸び、15年3月期も17%増の1兆2200億円で、営業利益200億円を見込んでおり堅調だ。
ソニー復活の可能性の1つがPS4の今後の成功に大きく影響されると、断言しても間違いではないだろう。
プレイステーション3時代には、IBMと東芝とで共同開発した半導体CELLチップの製造費の高さや歩留まりなどの問題が多数あったために、発売を行った06年度は売上高こそ1兆168億円だったが、営業赤字が2323億円という、とてつもないソニーグループ全体の状況を悪化させる要因となった。
PS4については、既存のパソコンで使用されているパーツを組み合わせて製造するという戦略によって、ハードウェアそのものでは差別化せず、ソフトウェアで勝負をするという意思決定を行った。結果的に、ハードの初期不良といった問題も大きくニュースとして取り上げられるような事件としては、ほとんど起きておらず、現在も部材の調達も順調なようだ。
昨年は、PS4が好調だったかわりに、PS3の年末商戦の落ち込みが激しく、それが売上を減少させる要因となったと、決算説明会では述べられている。PS3は、12年は320万台の販売に成功した物が、13年は137万台にまで急落している。PS3向けの大型ゲームは、昨年末、次々に発売になったが、ユーザーの期待値はPS4により集まったと考える事ができる。
それでも、PS4で遊べるゲームの数は相変わらず足りていない。アメリカの市場で発売されているゲームの数は、各ゲームメディアのレビューサイトの平均点を紹介するMatacriticに登録されているゲームは20タイトルに留まっている(一部はダウンロード販売タイトルで、含まれていないゲームもあるため、若干実数は多い)。
■PS4時代のゲームの試金石「Watch Dogs
5月27日に欧米で発売になった仏Ubisoftの「Watch Dogs」が、ハイエンド機に対応した本格的なゲームとしては、事実上初のものとなった。この販売結果は注目されることになる。
PS3、Xbox360、WiiU等にも販売されているが、PS4、XboxOne版が、映像としては新世代機のゲームとしては現時点で、最も最先端の映像となるものとして高い注目を浴びていた。
「Grand Theft Auto」シリーズで有名なオープンワールド方式と呼ばれるゲームで、街全体が大きなマップになっており、その中を自由に歩き回り、事件をクリアしていくというタイプのゲームだ。テーマは近未来に、携帯電話などを利用して、様々なコンピュータを、ハッキングをしながら、敵と戦っていくという話だ。
この分野のゲームは、リアルタイムにデータをディスクから読み込むといったことが必要であるため、スマホゲームでは、現状は遊ぶことができない。
09年より開発が始まっており、5年あまりの開発期間がかかっている大規模プロジェクトだった。開発費は明らかにされてないが、数十億円単位がかかっている、超大型ゲームに分類されるリスクの大きなゲームだ。
発売の立ち上がりは好調なようだ。5月28日に、Ubisoftは発売から24時間の販売結果は、「過去にリリースしたゲームで最も売れたゲーム」と発表した。発売からの評判も上々で、各ゲームメディアのレビューサイトの平均点を紹介するMatacriticでは、PS4版は100点満点中82点を獲得している。80点以上のゲームは一般的に、完成度の高いゲームとして評価を得ているといえる。
もちろん、販売本数の結果が具体的に明らかになるまでは、少し時間がかかるので評価は保留すべきだが、ハード発売初期のタイトルとしては、成功といってもいいだろう。PS4向けの新作タイトルを待っていたユーザーにとっては、やっと本格的に遊べるゲームの1本ということになるだろう。
同社のゲームは暗殺をテーマにした「アサシンクリード」、サバイバル一人称シューティング「ファークライ」、ダンスゲーム「ジャストダンス」といったブランドを構築できているゲームを発売はできているものの、他社を圧倒するまでのブランドタイトルを持っておらず、マンネリ化している課題を抱えていた。新規のブランドタイトルを持つことができたということは、同社の経営にとってはプラスの効果をもたらすと思われる。
日本語版の発売は6月26日が予定されており、全体の日本語吹き替えが行われているが、大きなヒットまでは期待はできないだろうと思われる。
■日本市場は失速、構造的課題は解決見えず
一方で、日本でのPS4の立ち上がりは遅い。完全に失速した。2月の発売初週こそ30万台の販売に成功したが、その後、60万台にまでしか伸ばしていない。タイトル不足が致命的な大きな要因となっているのだろう。また、新ハードをわざわざ購入しなければならないことや、欧米圏に比べ日本の家庭用ゲームは中古問題があるため価格が高いという問題が存在する構造的な問題は解決されていないためだ。
「Watch Dogs」のPS4版は、アメリカのAmazon.comでは50ドルで販売されているが、日本語版は希望小売価格9072円に対して、7208円という高価格で販売されている。
これでは、ゲームを遊ぶ10〜20代といったユーザーには敷居が高い。この問題は、現在も解決されていない。ゲーム好きのユーザーもすぐに飛びつくのではなく、様子を見て、中古の値段が下がるといったことを待つという、PS3世代で一般化した習慣が踏襲されることになるだろう。これは、ハードの販売にとってもネガティブな影響を与える。
日本向けの大型タイトルも見えないため、スマホゲームに対抗しうる存在には現時点ではなりそうな雰囲気は考えられない。
PS4は、結局、欧米圏中心のハードになることは避けられないように思える。現状では、日本で爆発的な普及を引き起こすヒントが見えていないという状況にあるように思われる。
ただ、6月10〜12日に、米ロスアンゼルスでゲーム展示会「E3」が開催される。9日の米国時間19時半より、全世界にストリーミング中継を行う、プレスカンファレンスが予定されており、何か日本向けにもサプライズが登場するのではと、発表には期待をかけたい。
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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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