めるまがアゴラちゃんねる、第082号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(94)
英King上場へ:パズルゲーム1タイトルのヒットが支える
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(94)
英King上場へ:パズルゲーム1タイトルのヒットが支える
2月18日、ソーシャルゲーム会社として急成長をしている英King Digital Entertainmentが、ニューヨーク証券取引所での株式公開を目指し、米証券取引委員会に目論見書を提出したと発表した。最大で5億ドルを調達する予定だ。
昨年、ソフトバンクが約1500億円で買収した「クラッシュオブクラン」のフィンランドのSupercellと同じくその動向が注目されていた、スマホ向けソーシャルゲームで急成長してきた会社だったが、どう動くのかが注目を受けていた。
Kingは、Facebookとスマホ(iPhoneとアンドロイド)で展開しているパズルゲーム「キャンディクラッシュサーガ」の1タイトルの大ヒットに、売上の大半を支えられての急成長という点だ。
■特定の企業に人気が集中しやすいソーシャルゲーム
Kingは03年に創業。パズルといったお手軽に遊べるゲームに集中したウェブサービスを展開し、現在まで開発してきたゲームは約180タイトル。そして、11年にFacebookでのゲーム展開を開始した。12年に「キャンディクラッシュサーガ」は、12年4月にFacebookに、11月にスマホ向にリリースして、急激に人気を集め始めた。
11年の売上は6300万ドルで、1300万ドルの営業損失だったが、12年には売上は1億6400万ドルで営業利益は7800万ドルと黒字化している。それが、13年の売上は18億8400億ドルで営業利益は5億6700万ドルと爆発的な成長へと変わる。この売上の実に78%が「キャンディクラッシュサーガ」によるものだ。
このゲームは、「マッチパズル」と呼ばれるジャンルのパズルゲームで、上から落ちてくる画面のキャンディを動かし、キャンディを3つ縦か横に合わせる(マッチさせる)とそのキャンディを消すことができる。遊び方の説明は不要だが、ゲームはやり応えがあり、高い中毒性がある。
それぞれの面によって、動かすことができるキャンディの手数とクリアの達成条件が決められており、クリアできると次の面を遊ぶことができる。定期的に面は追加され、500面を超える。
ゲームは、無料で始められる一般的なアイテム課金方式。一定回数を遊ぶと、待ち時間が生まれるようになっており、ゲームを早く継続したい場合には、お金を払う。ユーザーが課金したくなるアイテムは、特殊効果を持つアイテムだ。
代表的なものが、追加で5手分のキャンディを動かす権利を得られるアイテムだ。あと少しでクリアできそうな時に、手数制限に達してしまいゲームオーバーになった時に、100円のこのアイテムを購入することで続けるチャンスを得る。
面が進むにつれて、パズルは難しくなっていくのだが、すべての面はアイテム課金をしなくとも、クリアできるように設計されている。ただ、キャンディの登場はランダムであるため、一度でクリアできるかどうかはわからない。確実にクリアするために、じっくりと次の手を考えることになる。失敗すると、何度でも再挑戦したくなる。
■毎日9300万人ものユーザーから少額を稼ぐ
大半のユーザーは無料で遊んでおり、課金するユーザーが使う金額も小さい。目論見書によると、ダウンロード数の合計は5億本を超えており、全世界で毎日9300万人、月間では2億8200万人のユニークユーザーが遊んでいる。
課金をしているユーザーは約1200万人で、全体の4%。米シンクゲーミングによる推計では、ユーザー一人当たりの平均月額課金金額は2.65ドルにすぎない。それでも、毎日の売上は80万ドル。
このゲームの人気は世界的なものだ。調査会社米アップアニーによると、アップルのコンテンツ流通システム「アップストア」の売り上げランキングでは、アメリカ、イギリス、フランスといった欧米圏や、ブラジル、インド等の3月4日現在でも44カ国で1位を維持している。特に、アメリカでは12年11月のリリース以来、1位か2位の独走状態が続いている。
■1タイトルへの集中のリスク
これをパズドラと比較すると興味深い。パズドラは、13年末に、日本国内の合計は2300万ダウンロード。キャンディクラッシュサーガのダウンロード数の違いが大きい。ところが、アップアニーによると、13年の売り上げランキングでは、パズドラが1位で、キャンディクラッシュサーガは2位という結果になっている。
ガンホーの売上は、13年は1630億円で営業利益は547億円と、キングとあまり変わらない。キングがいかに世界で広くユーザーを集め、薄く課金をしているのかがわかる。
上場するにあたってのキングに取っての不安材料は、1タイトルに売上を依存しているため、今後も成長を続けられるのかだ。
キングも目論見書では、リスクとして「数が少ないゲームで、現在、売上の大半を得ている」とその点を上げている。実際に、そのリスクは、現実のものとなりうる可能性がある。13年7〜9月期の売上は6億2100万ドルで営業利益は2億3000万ドルだったのに対し、10〜12月期の売上は6億0200万ドルで、営業利益は1億5900万ドルと下がっている。
ソーシャルゲーム会社大手ジンガの二の舞になるのではないかと、不安視する声がある。Facebook向けに展開していたゲームの1月2日に「ファームヒーローズサーガ」のスマホ版をリリースした。アメリカでのランキングは20位あたりに付けており、スタートしての出足は悪くないが、ヒットするかどうかはまだわからない。
他社が、Kingに追いつくほどのヒットができるパズルゲームを開発することは容易ではない。「キャンディクラッシュサーガ」クローンとして、DeNAが「パズ億」というゲームを展開しているが、なかなかヒットに結びついていない。
特定のゲームに集中する傾向はかわらず、スマホゲーム市場は上位寡占が鮮明になってきている。
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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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