めるまがアゴラちゃんねる

2013年12月第1週号

2013/12/02 09:58 投稿

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めるまがアゴラちゃんねる、第069号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(80)
近年のソーシャルゲーム産業の変化の総括
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

・ゲーム産業の興亡(80)
近年のソーシャルゲーム産業の変化の総括

今週は、なぜ、ソーシャルゲームにお金を支払うことが一般化したのかの議論を、次に進めていくために、2011年頃から今年にかけて、ソーシャルゲーム市場で起きたことを、一度まとめておく。

■ソーシャルゲームは無料で始められストレスに課金する
ソーシャルゲームに多くの人がひきつけられる大きな理由は、繰り返しになるが、既存の家庭用ゲームに対してフリーミアムモデルを取っていることだ。アイテム課金方式であるため、ゲーム開始直後は無料で遊ぶことができるためだ。そのため、先に5000〜7000円のゲームを先払いで購入しなければならない家庭用ゲームに比べ、圧倒的に敷居が低い。

実際に、お金を支払って遊ぶユーザーは、そのゲームを遊んでいる5%程度に過ぎず、ユーザーは様々なゲームを無料で遊ぶことができる。課金しているユーザーが、他の無料で遊ぶ大多数のユーザーに掛かるコストを、一部のユーザーが支えるというのが基本的な仕組みだ。

ゲーム内容は、無料で遊んでいるユーザーに対して、だんだんとストレスをかかっていく。自分を強くしたりするようにしたり、一定期間遊ぶと強制的に待ち時間が生まれるようなゲームシステムになっている。ユーザーはそれらのストレスを解消して、ゲームを継続したいと考える場合には、課金を行うようになる。

ゲームが進むに従って、そのストレスは大きくなってくる。登場するモンスターや、他のプレイヤーと争うためには、課金を行わなければ、ゲームをだんだんと十分に楽しめなくなってくる。無料で遊ぶユーザーに対して、課金を迫る「課金ポイント」と呼ばれる段階に進み始める。

そこで、お金を払ってゲームを継続し続けるユーザーと、そのゲームをやめてしまう大半のユーザーとに別れる。ゲーム会社としては、継続して遊ぶユーザーを少しでも増やすようにする努力をしながら、新規の無料ユーザーを集めるようにする努力を行い、課金をし続けるユーザーを少しでも維持するように努力する。

ゲーム会社の売上は、無料のユーザーを大量に抱えているとしても、実際のところは、多くは上位5%の課金を行うユーザーに依存することが多い。そこで一ヶ月あたり何万円もの課金を行う一部のユーザーによって収益の大半を得る。月に数百円の課金をしているユーザーよりも高額課金のユーザーの方が、重要な存在だ。無料ユーザーは、それらの課金ユーザーの引き立て役になっている。

■ソーシャルゲームの成功は生活習慣にできるかどうか
ソーシャルゲーム会社にとって、ゲームが成功するかどうかは、ユーザーの生活習慣の中で、ゲームに触ることを習慣化させることができるかどうかが鍵になってくる。

(80)で紹介したが、ボールペンを回すことのように、ソーシャルゲームに短時間でも触ることが習慣化し、神経的に「快」が結びつけることができれば、そのゲームを触ることが習慣化する。ある意味では、そのゲームへの中毒的な状態を生みだすことが目的となる。

もっとも、タバコやアルコールといった薬物性の要素はないため、依存傾向は低く、特定のゲームが永遠に「快」を生みだし続けるような依存状態を維持することは容易ではない。ユーザーは冷たいもので、特に無料で遊んでいるユーザーは、ゲームに飽きてしまえば、次のゲームへと簡単に移ってしまう。

ソーシャルゲーム会社は、特に課金をしているユーザーにあの手この手と、ゲームを継続するように促す。

日本のユーザーは1回300円程度の「ガチャ」システムで、カードバトルゲームなどのカードを獲得するための支払いに慣れてきているため、世界的に見ても突出して、一人当たりの課金金額が高い。それが、日本をアメリカに次ぐ世界第二位のソーシャルゲーム市場へと成長させている。家庭用ゲームはソフトウェアでは、12年は業界団体のCESAによると2800億円程度だったが、矢野経済研究所の予測では、13年度は4200億円に達するため、すでにゲームの中心は、家庭用ゲームから、ソーシャルゲームにシフトしつつある。

ソーシャルゲーム会社はユーザーが遊んでいる行動のログ(ビックデータ)を解析して、ユーザーの動きを探りながら、サービス内容を充実させていく。ゲームは、家庭用ゲームのように、誰がどのように遊んでいるのか不明瞭だった時代から、ユーザーの行動がガラス張りになる時代へと変わったのだ。

「神撃のバハムート」(DeNA)、「探検ドリランド」(グリー)といったヒットタイトルがいくつも登場したことによって、ユーザーのデータの解析を正確に行えば、特定のゲームは永遠に成功できるという「数の神話」も生まれることになった。特に、日本型の携帯電話向けのソーシャルゲームでは「カードバトルゲーム」が、09年頃から大流行したことから、その神話は強く信じられた。

■スマートフォン市場への移行は抵抗感を薄めた
ただ、実際には、12年頃から、ユーザーは、携帯電話市場から、iPhoneやアンドロイド端末といった、スマートフォンへと移行したことによって、急激に携帯電話向けゲームの人気は減少するようになった。特に、12年にはパズルRPG「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンラインエンターテインメント)の登場はソーシャルゲーム市場の状況を変えたのは多くの人が知るとおりだ。

また、今年に入ってからは本格的なRPG「チェインクロニクル」(セガ)、ガチャの要素を持たない「クラッシュ・オブ・クラン」(フィンランド、スーパーセル)や、パズルゲーム「キャンディ・クラッシュサーガ」(英King.com)、パズルゲーム「ポコパン(LINE)」といったヒットするゲームが次々に登場し、多様なゲームジャンルへとソーシャルゲームが広がったことによって、カードバトルゲームが永遠に成功できるという神話はもろくも崩れた。

もちろん、新しいゲームであっても、各社ともビックデータの解析を行うことは当たり前なのだが、一つのジャンルの「快」に、ユーザーを縛り続けることは不可能であることがはっきりした。

そして、これまでのゲームの歴史で繰り返されてきたように、大成功したジャンルのゲームはいずれ成熟し、人気を失っていく。家庭用ゲームやゲームセンターのゲームで繰り替えされてきたことだ。「シューティングゲーム」、「格闘ゲーム」、「音楽リズムゲーム」等で起きている。特定のユーザーの囲い込みに成功している「アイドルマスター・シンデレラガールズ」(DeNA・バンダイナムコゲームズ)といったユーザーをしっかりと囲い込んでいる一部のカードバトルゲームは、今後も人気を集め続けると思われるが、カードバトルゲームは全体的に飽きられていくだろう。

この状況が、11年頃には、圧倒的に市場を押さえていた、グリーやDeNAが今年に入って、急激に苦戦する状況に追い込まれた大きな要因であることは、この連載でも指摘してきた通りだ。そして、この数年で、ソーシャルゲームの仕組みにユーザーが慣れてきたことで、課金への抵抗感は薄らいでいるため、今後も市場成長は続くと思われる。

13年を総括するには、まだ少し速いが、この2年あまりの変化は上記のようにまとめることができる。



□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin

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