めるまがアゴラちゃんねる、第067号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(78)
ソーシャルゲームの成功は「快」の無意識的な動機付けが作る
新清士(ゲームジャーナリスト)


アゴラは一般からも広く投稿を募集しています。多くの一般投稿者が、毎日のように原稿を送ってきています。掲載される原稿も多くなってきました。当サイト掲載後なら、ご自身のブログなどとの二重投稿もかまいません。投稿希望の方は、テキストファイルを添付し、システム管理者まで電子メールでお送りください。ユニークで鋭い視点の原稿をお待ちしています http://bit.ly/za3N4I

アゴラブックスは、あなたの原稿を電子書籍にして販売します。同時にペーパーバックとしてAmazon.comサイト上で紙の本も販売可能。自分の原稿がアマゾンでISBN付きの本になる! http://bit.ly/yaR5PK 自分の原稿を本にしてみませんか?



特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

・ゲーム産業の興亡(78)
ソーシャルゲームの成功は「快」の無意識的な動機付けが作る

ソーシャルゲームに、なぜ多くのユーザーは「はまる」のだろうか。いくつかの仮説を紹介していきたい。

電車に乗っているときに、ついついLINEやFacebook、TwitterといったSNSやメッセンジャーを開いてしまうことはないだろうか。そこには急ぐ必要のない、何らかの重要な情報があるわけではない可能性が高いにも関わらず。これは、なぜソーシャルゲームが遊ばれているのかを理解するためのヒントになる。原理的には、同じ現象であると考えてよい。ただす、SNSに比べて、時間当たりの、ユーザーの一人当たりの課金金額が大きいために、突出した利益を生みだしやすい。

■スマートフォンでゲームを遊ぶユーザーは約6割
携帯電話は、1999年にiモードが登場して以来、個々人の隙間時間に入り込むことで成功してきたと考えられているのは周知の通りだ。特に、コンテンツに関係する部分では、iモードが成功していく中で、ゲームを扱った企業が予想以上に収益を生みだしていた。モバゲータウンから始まったDeNAにしても、グリーにしても、ゲームが起爆剤になったことはいうまでもないだろう。

調査会社リビジェンが10月に発表したデータでは、スマホユーザーのゲームアプリ利用率約85%という結果が出ている。そのうち、58.2%が毎日遊んでおり、ソーシャルゲームを遊ぶ習慣が広く定着していることがわかる。また、遊んでいるゲームの数は、1つが26.5%、2つが28.1%、3つが23%とユーザーを特定のゲームに囲い込むことの重要性がはっきりしている。家庭用ゲームと違い、ソーシャルゲームはサービスであるため、一つのゲームに熱中するとコロコロ変えることは少ないのではないかということが推察できる。

■ソーシャルゲームの楽しさはボールペンを回すのと同じ
ソーシャルゲームが成功するための条件は、脳の中に特定の動作をすることによって「快」を感じさせるようなパターンを作り出す重要性になる。単純にいうならば、「ボールペンをくるくる回す」という行為が習慣化している人と同じような仕組みになっていると考えてよい。

これについて、脳神経科学が専門の諏訪東京理科大共通教育センター教授の篠原菊紀氏が書いている。(※1)若干専門用語が多いので、それを省きながら、重要と思われるカ所を要約する。

我々の脳の中には、ドーパミン神経系が二系統ある。脳の奥の部分に快楽に直接かかわるドーパミン神経系と、「無意識的習慣行動」や「微妙な調整がひつような運動」にかかわるドーパミン神経系だ。この二つのドーパミン神経系が線条体でサーキット(回路)作っている。線条体とは、脳の中枢神経系を構成するものの一つだ。このサーキッが形成されると「身体操作」と「快」が結びつくことが起きる。

ボールペンを回すという身体操作が、無意識にできる「技」として獲得過程を見ると、意識的な活動に関わる脳の表面、前頭前野、前運動野、運動野などが強く活動する。そして、訓練が進み無意識にボールペンが回せるようになると、前運動野、運動野など脳の表面の活動は小さくなり、変わって小脳などの脳の奥の活動が強まる。これが「無意識レベルの技の獲得」へと変わっていく過程になる。

■ストレスと快が結びつき無意識的な動機づけを生む
獲得する過程で、「あっ、今の感じいい」「お、うまくいった」などの快楽系も活動させます。よりよい動きに「快」のラベルを貼って、その行為を選択的に強化していく。

その結果、無意識化された身体操作と快が強固にカップリングされ「ボールペンを回す=快」と感じられるようになる。そうすると、ストレスを感じる場面などで、知らないうちにボールペンを回すようになる。自動化した動作は「快」を貼り付けられ、ストレスをマスクするため、ついその動作をしてしまうことになる。これが「無意識的な動機づけ」のメカニズムだとしている。

言うまでもなく、スマートフォンを何となく触るという行為は、このボールペンを回すという脳と快楽のカップリング行為が生みだすこととほぼ同じことと考えてよい。SNSの場合は、フィードバックが確実に得られるわけではないが、ゲームの場合は、インタラクション性があることで、より刺激が強い。

また、多くのソーシャルゲームは、遊ぶために一定時間の待ち時間を設定するなど、ユーザーにわずかな「ストレス」を感じさせるようになっている。そのため、ユーザーは隙間時間に、そのストレスを回避しようと、ゲームをついつい触ってしまうということが起きる。

人気のあるゲームは、ユーザーに「無意識的な動機付け」に成功したゲームか否かと考える事ができる。


(※1)篠原菊紀「なぜ、脳はiPadにハマるのか? 」(学研新書,2011) Kindle版No. 192〜214



□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。

新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin