めるまがアゴラちゃんねる、第041号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(51)
任天堂の試練〜今年度の改善は期待できるが、決定的な状況打開が見えない
・アゴラチャンネル報告
ゲスト:小黒一正氏「アベノミクスでどうなる? 日本の財政」
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特別寄稿:
新 清士
ゲーム・ジャーナリスト
ゲーム産業の興亡(51)
任天堂の試練〜今年度の改善は期待できるが、決定的な状況打開が見えない
任天堂が2期連続赤字であったことは、ゲーム業界関係者にも驚きを持って受け止められた、一方で、あり得るシナリオだとも考えられていた。「ニンテンドー3DS」の苦戦と、何より家庭用ゲーム機の「Wii U」のどちらも目標としていた販売台数に届いていない。
また、特に「Wii U」は大型タイトルの不足もあって、相当苦戦しているという印象が否めない。また、11年8月の「3DS」の1万5000円への思い切った値下げにもかかわらず、この状態が続いているのは深刻と言わざるを得ないだろう。子供層以外へのアピールが弱い状態になっていると考えられる。
■任天堂が直面している5つの課題
現在の任天堂が直面している課題を要点として、5点にまとめると以下のようになると案が得られる。
(1)今年1年で任天堂の厳しい状況は、収益を改善させる可能性は高いが、その状態を継続できるのかは不透明
(2)任天堂がスマートフォンに押されていることは間違いないが、進出する可能性は低い。しかし、対抗策は明瞭ではない
(3)任天堂のタイトルの質は高いが、Wii Uの新型ハードは性能が向上した分、開発に時間がかかりすぎている。この状況は今後も続く
(4)任天堂向けハードにサードパーティが積極的にゲームを開発とする姿勢は弱く、今後、タイトル不足に直面することは避けられない
(5)任天堂が今の状況から抜け出すための大きな打開策は見えにくい。ハードウェアのさらなる値下げといった戦略は短期に考えられるが選択しないだろう
■スマホ向けゲームが家庭用の質を量が圧倒している
もちろん、この苦戦を生みだした要因は、多く人がすでに指摘しているように、スマートフォンを所有するユーザーが家庭用ゲーム機に流れたこと、また、アップルのAppStoreの場合でさえ14万本のゲームがひしめき合い、その中で、無料から数百円程度で遊べてしまうゲームが大量に登場してきたことが多い。
この3〜5年のあまりに起きたことも、やはり、パラダイムシフトだ。これまでゲームの単機能性に集中することの方が有利という状態から、汎用性を持ちユーザーが自分の好きなように、スマートフォンに、ハードウェアをオンデマンドでダウンロードしてカスタマイズしていくことを求めるようになった。
忘れてはいけないのは、どうしても、社会的には、DeNA、グリー、「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンライン・エンターテインメント)といった高い収益性を獲得しているソーシャルゲーム企業への注目が集まってしまうが、ゲームそのもので莫大な利益を得ていなくとも、多くのユーザー数を抱えているゲームやサービスが次々に登場し、その展開の速度が速いことだ。
以前に、この連載の初期でも紹介しているように、任天堂の岩田聡社長は、アップルなどが展開する数百円でリリースされるようなゲームに対して否定的な立場を取っている。また、任天堂自身は、追加マップという形ではあり得るが、ソーシャルゲームといったアイテム課金方式のゲームに進出することはないと明言している。
それでも、ユーザーにとっては低価格化による価格のインパクトは大きい。スマートフォンが生活の必需品となり、誰もが持って歩く状態が当然となりつつある状況は、いやでも不利な状況に任天堂を追い詰めつつある。「質」を低価格なゲームの「量」によってカバーされると不利にならざるを得ないのだ。
■新規キャラクターを生みだせず、新鮮度でも押されている任天堂
無料と低価格化のインパクトは本当に大きい。大きな収益を得ている一部企業がいる一方で、その外側に膨大な数のゲームを無料で遊ぶユーザーが存在することを忘れてはならない。
「おさわり探偵 なめこ大繁殖」(ビーワークス)は、昨年6月の段階で1200万ダウンロードを達成している。ソーシャルゲーム要素は、まったくない。また、ゲームの要素としても、同じことの繰り返しの「暇つぶし」以外の何でもない。
しかし、それで十分と思うユーザーも多数存在する。ゲームそのものは無料で、マーチャンダイジング型のグッズ展開で収益を上げるというモデルを取っており、金額は公表されていないが大きな成功を収めていることは間違いない。
また、すでに説明する必要もないだろうが、1億5000万ダウンロードを達成しているコミュニケーションツール「LINE」(LINE)も、展開を急いでいる。ファミリーマートでは、4月30日から1ヶ月間、店頭でのキャラクターグッズの提携展開を始めた。LINEのメインキャラクターである、ウサギとクマを中心としたキャラクターグッズの展開が行われている。
任天堂はマリオといった強力なキャラクターを抱えているものの、新しい人気キャラクターを、ここ数年しばらく成功させていない。また、任天堂でさえ、続編への依存性が高まってきていることも一因であるだろう。きているのも、タイアップ等での展開が限られている分、どうしても、古い懐かしのキャラクターを中心とした企業というイメージへと変わりつつある。これは望ましい状況ではない。
■大ヒットを期待できるタイトルが今年はあるものの……
もちろん、任天堂のゲームの圧倒的な質の高さは、あらためて指摘する必要はないだろう。「どびだせどうぶつの森」(3DS)は、11月の発売から半年経つにもかかわらず、350万本と相変わらずヒットが続いている。先月発売で、50万本を売った「ともだちコレクション 新生活」も長期ヒットを引き起こせるだろう。しかし、こうした優れたタイトルを次々にリリースすることは難しい。
ただ、今年の後半は、「ポケットモンスターX,Y」、「スマッシュブラザース」、「モンスターハンター4」(カプコン)といった大型タイトルが控えている。収益面ではハードウェアの売り上げを押し上げることが、ほぼ確実なタイトルが控えている。
それが、ハードウェアの普及にも、同社の売上にも貢献することは間違いないだろう。特にWii Uの今後の爆発的な大成功を生みだす戦略が見えていないため、現状であることは現実であるとは言えるだろう。岩田社長の利益1000億円を今年度目指すという目標はかなり野心的ではある。ただ、ソフトウェアが大ヒットするとヒットで、今年の可能性はあるだろうとも、筆者は見ている。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
・アゴラチャンネル報告
ゲスト:小黒一正氏「アベノミクスでどうなる? 日本の財政」
毎週金曜日9時にお届けする言論プラットホーム・アゴラの映像コンテンツ、「アゴラチャンネル」。4月26日は法政大学の小黒一正准教授を招き、池田信夫アゴラ研究所所長と「アベノミクスでどうなる? 日本の財政危機」をテーマにした対談を1時間に渡って放送した。
小黒氏は財務省勤務の後で、経済学者に転身した気鋭の研究者。『2020年、日本が破綻する日』(日経プレミアシリーズ)をはじめ、財政をめぐる議論、世代間格差の是正でさまざまな価値ある思索を社会に提供している。アゴラの寄稿者でもある。
◆日銀物価リポートの幻想
日銀は4月の新政策で、1月の政策協定で2%の物価上昇を2年以内に目指すことを表明。さらに4月に就任した黒田東彦日銀総裁は、金融緩和を進め、マネタリーベースを2年で約2倍の270兆円をする政策を決定した。
さらに放送日の26日、日銀は物価リポートを発表した。そこでは2014年に1・9%の物価上昇を見込んでいる。ここ今年1〜3月期には物価が下落し、消費者物価指数には反転の兆しが見えない。「政策では願望と事実を混同させてはいけない。勝てるという願望を持って、事実を分析しないまま、日本はかつてアメリカとの戦争に突入した」と池田氏は批判した。
小黒氏はそれに同意し、「異次元のかなり危険な領域に踏み込んでいます」と指摘した。日銀は7兆円の毎月の国債購入目標を示した。国債取引の約7割に当たる。「大きないけすの中にクジラが入り込んで、すべてを飲み込んでいるような状態。日銀の意向次第で価格が決まってしまう」と指摘した。このために4月5日、国債価格が乱高下した。
「日銀が危ないと思っても、この状態から引けなくなってしまうのではないでしょうか。そして機関投資家が日本国債を売り始めたら、日銀がそれを飲み込み、さらにリスクを抱えることになる」と小黒氏は指摘した。さらに消費者物価指数(CPI)を政策目標に掲げることも危険だという。「CPIを政府・日銀はおそらく管理できないでしょう。それなのに無理に政策で動かそうとすると、他の部分で経済がゆがむ可能性がある」という。
特に懸念するのは金利の上昇だ。米国が金融緩和の出口戦略を探っている。また970兆円にもなる政府債務から、国債の懸念は広がる。「国債とは将来世代からの借金。増えれば政策の選択肢はなくなる」と小黒氏は指摘した。財政ファイナンスという言葉がある。国債を、通貨発行者である中央銀行が引き受けるものだ。「今の状況を政府はそうではないというだろうが、限りなく財政ファイナンスに近づいている」と述べた。
◆手を打たなければ必ず深刻な問題に
経済成長が起これば、税収が増えるという意見がある。ところが今は、「それどころではない、巨額の借金が日本にある」(池田氏)というのが現状だ。現在、ハーバード大学のカーメン・ラインハート教授と、ケネス・ロゴフ教授の論文をめぐる議論がある。
2人の研究では、政府の債務残高が国内総生産(GDP)の90%を越えると、成長が大きく停滞するというものだった。しかしポール・クルーグマン・プリンストン大学教授などが調査の精度を批判し、まだ結論は出ていない。
「実証研究はなくても、政策の自由度は失われます。『ワニの口』と言われるように、社会保障費が増加する一方、税収は落ち込み、そのギャップが大きく開いていくのです」(小黒氏)。参議院選挙後、政治情勢が安定すれば、2016年まで選挙がなくなる。「落ち着いて政治が財政の行く末を考えないと、必ず深刻な問題になる」と小黒氏は憂慮を述べた。
池田氏は「アベノミクスは人々の気持ちを好転させたという点では評価するが、その目的は達成できたのだから、財政にも配慮をしてほしい」と結んだ。
対談終了後のアンケートで、アベノミクスに賛成の人が43%、反対56%となった。一見すると評価に満ちるアゴラチャンネルだが、事実を適切に示せば、アベノミクスの危うさを誰もが認識するのかもしれない。
アゴラ編集部
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