2012年11月第4週号
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めるまがアゴラちゃんねる、第019号をお届けします。
発行が遅れまして申し訳ございません。
コンテンツ
・「ゲーム産業の興亡」(29)
コアとカジュアルに別れたネット流通の時代からソーシャルゲーム市場へ
・『世界金融バブル 宴の後の二日酔い』藤沢数希氏×池田信夫
第三回「邦銀が日本国民に押し付けている財政破綻というテール・リスク」(その1)
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特別寄稿:
新 清士
ゲーム・ジャーナリスト
「ゲーム産業の興亡」(29)
コアとカジュアルに別れたネット流通の時代からソーシャルゲーム市場へ
アメリカのネット流通を利用したゲーム市場の展開についての説明を続けてきたが、最後に、それがどのように現在のソーシャルゲーム市場につながるのかを説明していきたい。アメリカのネット流通市場は、パソコンを中心に、コアゲーマー層を狙ったValveのSteamといったサービスと、年齢層を高く幅広い層をターゲットにしたカジュアルゲームのReal Arcadeといったサービスとに別れていった。ネット流通市場の可能性が知られる様になり、2005年前後には多くの企業が参入したが、大半が敗退して残っていない。
ただ、おもしろいのは、しばらく紹介してきた、Valveも、Real Arcadeも、PopCap Gamesも、いずれもシアトルに拠点を置く会社ということだ。
その要因は、創業者の多くは、マイクロソフトからストックオプションを獲得して、独立して起業した人物が多かったからだ。90年代後半から、00年代初期は専用の3Dグラフィックスチップを搭載したビデオカードの登場や、オンラインゲームの登場など、ゲーム分野は技術分野としてもホットで、収益性にも高い期待が寄せられていた。
94年の「プレイステーション」から、00年の「プレイステーション2」への移行期にも当たる。日本のゲームが世界を席巻していた時期だ。ただ、北米では家庭用ゲーム機よりも、パソコンゲームで遊ぶユーザーの市場が、まだ有望視されていた。
例えば、最も成功している独立系のゲーム会社でもあるValveの共同創業者で、Managing director(注)のゲイブ・ニューウェル(Gave Newell)は、ハーバード大学を中退後、マイクロソフトのウィンドウズの初期3バージョンの開発に13年間携わった後に、96年に独立している。
典型的な、マイクロソフト長者(Microsoft Millionaire)だ。彼の会社が開発した98年のFPS(一人称シューティングゲーム)「Half-Life」は大ヒットした。彼は93年の「Doom」(メインフレームUnix向け)という世界最初のFPSでエンターテインメントの未来を感じ、96年の「スーパーマリオ64」(Nintendo 64)でビデオゲームのアートの可能性を感じたと、この分野に入ってきた理由をインタビューで答えている。(※1)
(注)本来であれば、CEOという役職であるはずなのだが、社員を平等に扱いたいという社風をつくるために、CEOという呼称を意識的に使っていない。Managing directorは社長的なニュアンスがあるが、うまく日本語に訳せない。
実際に、パソコンゲーム市場の市場規模は縮小に向かっていた。エレクトロニックアーツなどパソコンゲーム市場から、家庭用ゲーム機市場へと転換することで、一気に業績を上げてくる企業が続出する時期だ。アメリカの家庭用ゲーム機向けソフトの市場規模は、2001年に日本市場を追い抜いた以降、急成長し、日本の市場の3倍にまでになる。一方で、パソコンは、スペックが安定せず、操作のための専門知識を必要とするために、嫌われるようになっていく。
そのため、Valveは常にハイエンドなスペックをPCに焦点を置き、最新のPCハードウェアを次々に買い換える家庭用ゲーム機以上のコア層をターゲットにした。
■家庭用ゲーム機市場へとシフトする一方で残されたニッチ
一方で、カジュアルゲーム層を支える40代以上の層は、わざわざゲームをするために家庭用ゲーム機を買うことをすることもしなかった。そのため、ちょっとした暇つぶし程度で構わないので、スペックの低いパソコンでも遊べるようなゲームで十分に満足した。世界で最も遊ばれているゲームは、Windowsに標準でインストールされている「ソリティア」か「マインスイーパ」ではないかと言われるが、統計データは存在しないがあながち間違ってはいないと考えられている。
素朴なパズルで音楽といったものがなくても、問題として奥が深く、時間をたっぷり使って遊べる暇つぶしになるのであれば、案外と人は遊んでしまう。
以前に紹介したが、ゲームはインタラクションを持っているために、多くの人に魅力的な存在に映り、惹きつける。しかし、人数の多さは、必ずしも収益性の高さと一致するわけではない。アメリカではゲームは1本50ドルというのが一般的だったが、インターネット上の無料のパズルゲームで満足するユーザーは、現在でも数多くいる。
ただ、その主婦層のニッチに絞り込むことで、成功した企業を上げておきたい。02年に創業した Big Fish Gamesだ。やはりシアトルの企業だが、もともとはReal Arcadeを展開していたReal Networksから独立した人物が創業者だ。元々は、Real Arcadeに展開するゲーム会社の1社としてスタートしているが、05年に自らネット流通プラットフォームへと転換をはかり、Real Arcadeを抜く存在感にまで現在は成長している。
Big Fish Gamesの成功は、既存のパズルといったもの以外に、「Hidden Object(日本語版では「アイテム探し」と訳されている)」と呼ばれる新ジャンルを生みだしたことが大きい。これは、単純なパズルを組み合わせたようなアドベンチャーゲームで、要するに画面内に指定されている宝を探しながら、物語を進めていくものだ。高度な3Dグラフィックスは使わず、ほぼ2Dグラフィックスだけで描かれている。開発費は数千万円で、新作タイトルのヒット作の売り上げは数億円といったところだ。
ゲーム慣れしたユーザーが遊ぶと、あまりにも単純に感じてしまうだろう。しかし、女性は激しいアクションゲームを好むわけではない。一度、取材したことがあるが「ペースが遅くて、リラックスするようなゲーム」を求めているという話を聞いたときには驚いた。そうしたユーザーのなかには、小説のような物語を求めるユーザーもいる。ゲームには様々なものが求められるが、うまくそのニーズに応えたといえるのだ。
また、同社は、パソコンの操作に不慣れな女性向けに専用のカスタマーサポートセンターに力を入れ、電話によるサポートを行っている。それによって安定的にゲームを買ってもらえるような環境を整えることで、一般的なゲーム層とは違ったユーザーのセグメントを作り出せた。
現在では、500の開発会社から、2500のカジュアルゲームのタイトルをネット販売することができるプラットフォームになっている。カジュアルゲームサイトでは、体験版のルールが変化してきており、最初の60分間のプレイが無料になるということが一般的になっている。try-before-you-buyモデルともいう。Big Fish Gamesの知名度は日本ではほとんどないが、中年以上の層がゲームを遊ぶ文化があまりないので不思議ではない。
同社は、毎日150万ダウンロードが行われると述べていると明らかにしている。ただ、実際に課金が行われるのは、その10%以下の15万ダウンロード以下ということになる。一本当たりの平均販売額は10ドル前後で、ディスカウントや追加コンテンツのサービスなどがあるが、年間の売り上げは5000万ドル前後ではないかと思われる。多数のユーザーを抱えていると想定できるが、巨大市場があるわけではない。しかし、同社が手堅くユーザーを押さえているのは確かだ。
ただ、現在に至るまで変わらないが、そもそも、アメリカのユーザーは、日本からすると驚くほど、とにかくお金を払わない。
■キラータイトルの存在が決めたネット流通の強さ
パソコン向けのゲームのネット流通で成功してきた企業は、自社にキラータイトルを抱えていることが前提条件だった。それは、パソコン上で自社がネット流通プラットフォームを展開することは難しくないからだ。Valveはコアゲーマーにとって魅力的な「カウンターストライク」といったタイトルを持っているために市場を作れた。Real Arcadeには、他社を凌ぐ自社タイトルがなかったために、後発のBig Fish Gamesに追い抜かれることとなった。
PopCap Gamesも成立しているネット流通にゲームを配信しながらも、自社サイトでも積極的に配信をはじめるようになった。当然、その方が、中間マージンをプラットフォーム企業に支払う必要ないために、利益率が高いからだ。
この状態は、現在の日本のガラケー向けソーシャルゲームと少し事情が似ている。ガラケー上では、誰もがプラットフォームとして展開が可能性を持っている。事実、DeNA、グリーの2社に収れんする以前には、mixiなども存在感を持っていた。
今ではグリー向けに主力でソーシャルゲームを展開しているgumiも元々はプラットフォームを目指していた時期がある。ただ、雑多な状況の中で、鍵を握るのは自社で開発しているゲームがキラータイトルになり、プラットフォームの形成期に先行できるかどうかだ。この力関係はあまり変わっていない。
ただ、この状況を一変させたのが、08年のFacebookのオープン化戦略だ。当時アメリカ国内を中心に4000万人の登録ユーザーを抱えていたFacebookは、いまだに自社でゲームを開発していないが、ゲームがキラーアプリとなっているソフトウェアプラットフォームだ。
しかし、その環境からZyngaといった、プラットフォーム企業が突然成立してくる。カジュアルゲームの中年層のユーザーは、Facebookといった、売り切り型のモデルから一気に無料アイテム課金(F2P)モデルの新興プラットフォームにシフトしていくこととなる。同時に、シアトルを中心に動いていたネット流通市場の中心は、ソーシャルゲーム時代に変化することで、サンフランシスコからシリコンバレーといった一帯にクラスターが移動していく。
(※1)Gabe Newell: My 3 favourite games
http://www.computerandvideogames.com/296735/features/gabe-newell-my-3-favourite-games/?cid=OTC-RSS&attr=CVG-General-RSS
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。また、既存の執筆記事情報をまとめたサイトもスタートしました。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
世界金融バブル 宴の後の二日酔い
藤沢数希×池田信夫
2.邦銀が日本国民に押し付けている財政破綻というテール・リスク(その1)
池田:ただ、僕がこの本を読んで逆に思ったのが、こんなにいい商売なんだったら、なんで邦銀は立ち後れちゃったんだろうっということです。
藤沢:じつは、邦銀は周回遅れで、いま時価総額とか資産規模とか収益性は世界の中で上位に来ちゃったんですよ。リーマンショックまでのバブルに完全に乗り遅れてたから、いつの間にか欧米の金融機関がみんなこけちゃって、周回遅れで邦銀は世界の中で上の方に来ちゃったんです。
まあ、社員の給料は日本的な雇用慣習なので、あまりよくないんですけど。正確にいうと、全体としての人件費はそれほどは安くないのですが、何千億円も損益が発生するリスクを取っている日本国債のトレーダーなんかの給料と、短大出の受付のお姉さんの給料がほとんど同じです。本にも書きましたけど、外資系投資銀行だと、同じ会社の社員でも、一番上の100億円ぐらいから、一番下の500万円で、給料の格差が2000倍ぐらいあるんですが、日本は良くも悪くも社会主義の国ですからね。
池田:すごい格差ですね……。
藤沢:銀行の基本的なビジネス・モデルは、普通預金でお金を集めて、それを会社に1年とか5年とかの期間で貸し出すという、長短金利差で利ざやを稼ぐことですね。普通預金だからみんながいっせいに引き出そうと思えば引き出せちゃうから、みんなが同時に引き出しちゃったら銀行ってつぶれちゃうんですよ。取り付けですね。
だから、長短金利差で稼ぐのが銀行なんですけど、じつは、証券会社とか、保険会社も、それと同じようなことをやっていて、市場から短い資金を調達してきて、それでいろんな資産を買っていたわけですよ。このように、銀行以外が、銀行みたいなことをするのをシャドー・バンキングというのですけど。
池田:世界金融危機では、このシャドー・バンキングに取り付けが起きたんですよね。
藤沢:ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの外資系投資銀行は、リーマン・ショックの前までは純粋な証券会社だったので、預金を集めることはできないけど、その代わりに、金融機関同士の短期金融市場で、資金を借りてきて、その金を使って、流動性の低い資産とか、満期の長い債券などを買って、その金利差で儲けるという、リスキーなビジネスをしていたんですよ。
金利というのは基本的に満期が短くなる方が安くなるから、何も起こらなければ、長短の金利差で儲かる。AIGなんかの保険会社も、自社のトリプルAの格付けで短期資金を借りてきて、CDS(Collateralized Debt Obligation)なんかで膨大な信用リスクを取っていました。でも、短期で資金調達してるから、どんどん借り換えていかなきゃいけない。借り換えられないと、そこで資金が尽きると、支払いができなくなりますから、一気に信用がなくなります。
金融機関って、市場の信用が無くなれば、突然死してしまうんですよね。リーマンがつぶれた2008年の世界同時金融危機というのは、池田さんのおっしゃるようにシャドー・バンキングに取り付けが起きた、というように理解することができます。
池田:それで結局、公的資金で救済されましたね。
藤沢:こういう倒産リスクを取っていれば、何もなければ儲かるわけです。で、なんかあったときにつぶれちゃうと。でも、なんかあったときにつぶれても、自己責任なら、それで良いんですけどね、資本主義だから。しかし、大きな金融機関場合は、なんかあったときにつぶれたら、今度は税金で救済されるわけですね。経済全体を守るために。ものすごいモラルハザードなんですよ。
外資系の金融機関の多くは、世界同時金融危機で、社会に迷惑をかけて、いろいろな形で救済されたんですけど、日本の銀行は確かにそういうビジネスに乗り遅れたんですね。でも、邦銀も、大きなモラルハザードを抱えていて、邦銀は預金をお年寄りから集めて、それで国債を買ってるわけですよ。それで放っとけば儲かるわけですよ。
池田:世界同時金融危機で、株価が下落して、円高も進んだから、結果的には、日本国債を買うという単純なビジネスの方が、賢かったわけですよね。
藤沢:結果的にはそうですね。邦銀も、長短金利差で儲けるという、リーマン・ブラザーズがつぶれたのと同じ構造があるんですよ。普通預金というのは、満期がゼロで、最も短い短期資金だと見ることもできるのですが、そうしたお金で、満期の長い国債とかを買っていて、それでまあ何もなければ儲かるし、なんかあったら国が絶対面倒見るという、まさにモラルハザードを起こしているわけです。
日本の銀行が取っている万が一のリスクは、銀行が負担するのではなく、なんだかんだで国全体で負担することになる。たとえば三菱東京UFJ銀行とか三井住友とか、つぶれたら日本も大変だから、国債も大変だし、政府が税金で救済しますよね。そういう意味で、隠れた補助金というか、倒産リスクとかそういうのを国民に押し付けながら自分たちはビジネスをしているわけですよ。
洋の東西を問わず、これは基本的に、大きすぎてつぶせない巨大金融機関のビジネスモデルで、だからこそ普通の業界よりも給料が高いんです。身もふたもないことをいえばね(笑)。
池田:ラグラム・ラジャンが2005年に、CDSでこんなに儲かるっておかしいじゃないかという有名な論文を書いたことがある。
http://www.nber.org/papers/w11728
藤沢:世界同時金融危機が起こることを、そのメカニズムまで含めて正確に予測していて、ラジャンはすごく有名になりましたね。
池田:そもそも収益構造がおかしいじゃないかって、儲かるときはめちゃくちゃ儲かって、トレーダーはものすごいボーナス貰えるのに、こけたらこのように最悪でクビになるだけでしょ。ペイオフの
構造が非対称になっているので、デフォルトのようなめったにないリスクを取って毎日の収益を上げるCDSのような商品を売ることが合理的行動になるわけですね。
※邦銀が日本国民に押し付けている財政破綻というテール・リスク(その2)へ続く。
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