2013年4月第2週号
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まるまがアゴラちゃんねる、第037号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(47)
【特別篇】GDCから聞こえなかったPS4への期待の声
・ニコニコ生放送「アゴラチャンネル」のご報告
日本の大学教育はこれでいいのか? 茂木・常見のデスマッチ--アゴラチャンネル報告その1
『天皇』は日本のどこにでもいる――ゲスト島田裕巳氏・アゴラチャンネル報告その2
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特別寄稿:
新 清士
ゲーム・ジャーナリスト
ゲーム産業の興亡(47)
【特別篇】GDCから聞こえなかったPS4への期待の声
今回も、米サンフランシスコで3月25〜29日に開催された世界最大のゲーム開発者向けカンファレンス「Game Develops Conference(GDC、ゲーム開発者会議)」が、示しているゲーム産業の今後について、少し触れておきたい。
特に、家庭用ゲーム機の将来がどのようになりうるのかという見方に焦点を絞る。特に今年の年末に発売が予定されている「プレイステーション4(PS4)」について中心に触れておく。率直に言うならば、PS4が過去のハードウェアのように、大成功をすると予想している開発者は皆無に近く、多くが苦戦すると見ていた。
■PS4へのセッションへの人気度は高いが可能性までは見えなかった
GDCの講演の一つに、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のPS4のハードウェア仕様についての講演が行われた。200人程度が入室できる狭い部屋があてがわれていたことも要因だったが(GDCでは大きな部屋では500人以上の部屋も用意されている)、入場制限が行われるほどの人気セッションになった。
ただ、講演内容は写真撮影が禁止される内容だったものの、必ずしも驚きを持って受け入れられるような内容ではなかった。唯一PS4の一つの目玉である、上面にタッチセンサーを搭載したワイヤレスコントローラ「DUALSHOCK 4」について長い説明が行われた。
ただ、スペックこそ理解できたものの、PS4がビジネス的に成功できる姿が見えず、失望感を持って受け止められた。これは昨年のGDCでのPlayStation Vitaの講演でも変わらなかった。
PS4が抱えている現状の最大の問題は、新しいビジネスモデルの提案が行われていない点にある。2月21日にニューヨークで行われたPS4についての記者会見で最大の失望を持って受け止められたのもその点にある。まだ、SCEは具体的なプランを発表しているわけではないが、垣間見えるのは既存のビジネスモデルに変更がない点だ。展示会場では大きなブースが展開されていたが、どう取り組むのかはGDCからはまったく見えなかった。
■ハードはゲームを作りやすいが見えない普及戦略
米で2002年のマイクロソフトのXboxは、Windows PCに近いハードウェアアーキテクチャだった。日本でのビジネスには大きく失敗するが、90年代にPC向けに蓄積されていたWindows PC向けのゲーム開発技術が、応用できるため欧米圏の企業にとっては開発しやすいハードウェアだった。後に、Xbox360とPS3との争いで、特に北米市場で、PS3の苦戦を引き起こす要因にもなった。
もっとも、この世代では、ハードウェア性能を追いかけず、コンセプトで勝負をした任天堂のWiiが販売台数では大きくリードをするため、単純には勝ち負けを述べられない部分があるが、グラフィックス性能の軍拡競争の中では、Windows系のソフトウェア技術の方が、独自技術のPS2やPS3よりも開発しやすい環境であったのは事実だ。(いずれ、この問題には触れる)
PS4はその反省を踏まえて、Windows PCの汎用機に近いハードウェア設計を行っており、ゲーム開発者にとっては圧倒的に開発が行いやすい。ただし、映像の美しさや、ゲームの強い没入感を伴った圧倒的な体験といったものは、すでにユーザーがゲームを楽しむにはオーバースペックになっている。何度も触れているが、家庭用ゲーム機にとっては、スマートフォンの普及は大きなライバルとなっているため、市場環境が大きく変わったからだ。
■パッケージビジネスを危機に陥れているネット流通
ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』のワードはあまりにも頻繁に利用されるため、触れるのに抵抗感を感じるのだが、スマートフォンの登場のみならず、これまでの家庭用ゲーム機のビジネスの根幹をなしていた、パッケージ型のビジネスモデルが危機に直面している状況は「破壊的イノベーション」にぶつかっているとしか言いようがない。
ゲームショップでゲームを買うことなく、ネット流通でゲームを簡単に手に入れることがすべてを変えてしまった。スマートフォンの場合、ユーザーは自分が遊びたいゲームを、オンデマンドのボタン一つで、ダウンロードできてしまう。
しかも、開発環境を公開していることで、圧倒的に参入の敷居を下げたことで、爆発的なゲームの種類を増加させることに成功した。148Appsによるとアメリカで販売されているAppleのiOS向けのApp Storeだけで、約14万本のゲームがリリースされている途方もない状況だ。大半のゲームは小規模の独立系開発会社でなければ、収益を上げることはできない厳しい市場状態だが、この多様性には家庭用ゲーム機は追いつくことができない。
■ビジネスモデルで負けたPlayStation Vita
そのため、破壊的なイノベーションに直面した企業が選択しがちな、よりハイエンドの市場に移行することで付加価値を上げ、一定の市場規模を維持しようという戦略をSCEは選択しようとしている。この状況は長期的な戦略としては望ましいとは言えない。
11年に発売されたポータブルゲーム機のPlayStation Vitaは、まさにその戦略を採ったことで、非常に苦戦している。当時の携帯型ハードウェアのスペックとしては最高水準の物を搭載したものの、パッケージのゲームソフトを中心に販売していくモデルは変わっていない。パッケージを発売すると同時にダウンロード版も用意するという折衷案を選んだが、結局は、既存の小売店への配慮が大きく足を引っ張っている。
PS Vitaはハードウェアのアーキテクチャそのものは、スマートフォンに近いために、開発そのもののハードルは決して高くない。
しかし、旧態依然としたビジネスモデルは、世界的に厳しい状態を生んでいる。PS Vitaは全世界で450万台売り上げているが、数億台の普及率を持つスマートフォンに比べるとかすむ。もちろん、スマートフォンでは誰もがゲームを遊ぶわけではないが、それでも利用されるアプリの比率は、圧倒的にゲームが高い。
PS Vitaはこの状況に対してもっと新しい提案が行われることが期待されたが、それがまったくなかった。欧米圏では、現状、PS Vita向けの有力なタイトルが発売される可能性は今後も薄い。同じようなタイトル不足にPS4も直面する可能性が高い。
■新しいビジネスモデルの提案が見えないPS4で予測できる苦戦
PS4の販売価格帯の予測は、3万円〜4万円といった範囲で振れ幅がある。
しかし、より大胆なビジネスモデルを選ぶなら、無料で配布するようなインパクトがなければならない。マイクロソフトはXbox360であれば、すでに無料で配布が選択肢の選択が可能であると考えられている。それは、ネットワーク対戦など様々なサービスを行う場合には、有償の「ゴールドメンバーシップ」を必要とするためだ。
これはプリペイドカードでの購入では12ヶ月で4760円(2013年4月8日現在)程度を必要とする。自動更新の場合は月額819円となる。ハードは、Xbox 360 4GB〈フラッシュメモリ版〉の販売価格は1万9800円であるため、単純計算では4年で回収できる。ただ、実際のハードウェアの製造コストはもっと低く、ユーザーはゲームを購入する可能性が高いため、そのライセンス収入でより短い期間で回収できる可能性が高い。
一方で、PS3のネットワーク対戦機能は無料で提供する仕組みにして、それをXbox360と対比した際の売りにしてしまった。そのため、逆にハードウェア単体での回収が難しくなっている。もちろん、マイクロソフトもすでにXbox360の後継機の準備をしており、ハイエンド志向を止めてはいないため、無償で配布する戦略を採る可能性は低い。
ただ、SCEの方が選択できるオプションは狭く、厳しい状態に置かれていることには変わりがない。PS4の成功を手放しで期待しているゲーム開発者の様子が感じられなかったのは、その点にある。ただ。一言付け加えるならば、任天堂のWii Uへの評価も同じような状態にある。
■PS4などの成功の鍵は新しいエコシステムを設計できるかどうか
しかし、悪いことばかりではない。PS3向けの「風ノ旅ビト(Journey)」が、GDCの開発者の投票で決まる、Game Developers Choice Awardsで、ゲーム・オブ・ザ・イヤーを始め10部門中6部門を制する圧倒的な評価を得た。このゲームは、独立系開発会社(インディペンデントゲーム会社)のthatsgamecompanyをSCEが資金的に援助をして、成功に導いたタイトルだ。独立系開発会社を取り込み、質の高いゲームを出すSCEの戦略が、ある程度、成功していることも意味している。
PS4やPS Vitaの成功の鍵は、Appleやアンドロイド端末で成功させたGoogleの戦略に近い多くの独立系開発者の参入を容易にし、新しいエコシステムを設計できるかに掛かっているように思える。しかし、現状のSCEは歯切れが悪く、そうした戦略を積極的に展開しようとする点が感じられないところも大きな課題ではあるのだが。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
ニコニコ生放送「アゴラチャンネル」のご報告
アゴラのニコニコチャンネル「アゴラチャンネル」毎週金曜日、夜21時より、池田信夫が司会を務め、ゲストをお招きして生放送中です。http://ch.nicovideo.jp/agora
◯日本の大学教育はこれでいいのか? 茂木・常見のデスマッチ--アゴラチャンネル報告その1
言論プラットホーム・アゴラの映像コンテンツ「アゴラチャンネル」http://ch.nicovideo.jp/agora。3月28日木曜日は午後10時から、脳科学者の茂木健一郎氏、著述家の常見陽平氏を招き「日本の大学教育はこれでいいのか?−茂木・常見のデスマッチ」を放送した。
時間はいつもと違い2時間。2人の論客は初顔合わせ。就活やキャリア作りを考える大学生と高校生にとって、そして大学との関わりを考えるすべての人にとって、参考になる対話となった。視聴者は事後視聴を含めると約6000ビューだった。
茂木健一郎氏は、脳科学者でありながら、テレビ司会者、執筆など多彩な活動を行っている。
常見陽平氏は、リクルート勤務、メーカーの人事担当のキャリアづくりの経歴を活かして、若者の就活、キャリア作りで提言を行う著述家だ。
茂木氏の主張は要約すると、「世界と闘える人材を育てるために偏差値や新卒一括採用を廃止すべきだ。そして偏差値教育は創造性を奪う害悪だ」というもの。一方、常見氏は「99%の学生にとってはもっと実用的な職業教育が必要だ」という意見だった。
これを聞いた池田信夫氏は、「日本の大学教育の二つの欠点であり、一つの問題の二つの側面」と指摘していた。これは無意味な苦行に耐えるシグナルをみており、途上国型の初等教育モデルとしては優れている。しかし、先進国に必要な創造性という点では決定的に欠けていると指摘した。
2人の議論は平行線をたどったが、「どちらの話に共感したか」という問いには、茂木氏対常見氏で6対4となった。
◯『天皇』は日本のどこにでもいる――ゲスト島田裕巳氏・アゴラチャンネル報告その2
「アゴラチャンネル」は4月5日、宗教学者、作家の島田裕巳氏を招き、池田信夫アゴラ研究所所長と「「天皇」は日本社会のどこにでもいる」という対談を放送した。
島田氏は日本人が日常生活の中でなかなか意識しない宗教について、分かりやすく解説する著作や講演活動で知られている。
天皇は思想対立、右左、政治文脈で語られてきた。ところが、「日本人とは切っても切れない存在なのではないか」というのが、島田氏の持論。天皇制は世界でもまれにみる平和主義的な統治機構で、平安時代以後は例外は少しあるものの、ほぼ実権をもたないまま「万世一系」の天皇家が続いてきた。精神的な権威と軍事的な権力を分離して相互に牽制させる制度は珍しくないが、日本のような特定の家系による支配が1000年以上も続いた例は他にない。
これをパターンにして、日本は、社会のあらゆる場で、権力が分散する構造ができていると、池田氏と、島田氏は意見が一致。しかし競争では当たれば勝ち残りやすいトップダウン型の組織、企業が生き残る。多くの新興宗教や企業は、創業という困難なときはトップダウン型が多い。しかし、
「改憲が語られるが、どの立場の人も、天皇制には手をつけない。日本人とは切り離せない存在だが、平和になると、似た構造が現れるのは不思議だ」と、天皇制の問題に付いても二人は一致した。閲覧数は3000人。地上波テレビでは、語られない天皇制の分析が聞けたことを、意義があるとした視聴者がコメントで多かった。
agora編集部
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