八千代視点
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 尾道は、のんびり過ごすには良い街だ。
 静かで、落ち着いている。波の音は心が穏やかになる。
 それほど栄えているとは言い難いが、意外に居心地が良い店も多い。
 それに入り組んだ狭い坂道は、冒険心をくすぐられる。
 とはいえここで2泊したのは、ゆっくり休むことが目的じゃない。もう一度あの山本という少女に会うためだった。
 彼女はこちらを警戒しているだろうから、どうコンタクトを取るのかは少し迷った。ワイルドカードになりそうなのは、久瀬という10年前に失踪した少年。だがそちらの情報はなかなか手に入らない。
 最悪、次のコンタクトは24日の朝でいい。そう考えていると、熊本を訪れていた友人が、新幹線で戻ってくるというから合流することにした。

       ※

「で、書店にはなにがあった?」
「忘れた」
「つれないねえ。友達だろ?」
「いつからそうなった?」
「オレはね、並んでお好み焼きを食ったら友達だって決めてんだよ」
 そのとき、オレとニールは狭いお好み焼き屋で肩を並べて飯を食っていた。
 本当に狭い店だ。スライド式のドアを開けば、4人ほどが座ると満席になるカウンターがあり、それだけ。民家の玄関で飯を食っているような気分になる。
 だが味はいい。
「これで500円だぜ。べらぼうだろ?」
 とオレは割り箸で暴力的な量のキャベツが入ったお好み焼きを指す。
 ニールは、は、とつまらなそうに笑う。
「だとしてもそれはお前の手柄じゃねぇ」
「そりゃひどいな。君の好みに合わせてわざわざ探したんだぜ? こういう、安くて美味いジャンクなのが好みだろ」
「飯屋で勝ち誇る馬鹿は嫌いだよ。いちいち人の趣味がどうこう語る馬鹿もだ。おい、水」
 オレはニールのグラスに水を注いでやる。
 と、そのとき、スマートフォンが震えた。
 番号は非通知。応答すると、女性の声が聞こえた。
「ゲストに会員の一人が接触した」
 ――アルベルト。
 なんの前置きも注釈もない電話だ。
「わかりました。場所は?」
 わざわざ連絡が来たのだから、様子を見に行けといいたいんだろう。
 要点のみ聞きながら、ニールに「出るぞ」と声をかける。
「おい、まだ食ってる途中だぞ?」
「ねぇおばちゃん。これ、テイクアウトってできる?」
「勝手に話を進めてんじゃねぇよ」
 通話の切れたスマートフォンをポケットに突っ込み、パックに詰まったお好み焼きを手に、オレたちは店を出る。細い通路を駆け抜けて、止めていた車に飛び乗った。

       ※

 現場はすぐそばだ。ほんの数分で到着する。
 助手席でお好み焼きを食っていたニールが、窓の外をみて「ん?」と唸った。
 そこにいるのは山本美優という少女――それから、眼鏡をかけたひとりの青年。確かに聖夜協会員だったはずだが、名前は覚えていない。
 少女の、意外に大きな叫び声が聞こえる。
「何に嫉妬してるんだか知らないけど、クリスマス懇親会に行くのは私よ」
 なかなか元気がいい。余計な手間が省けたようで、オレは笑う。
 眼鏡のすぐ背後に車をつけた。
 運転席のドアを開けようとしたオレに、ニールがお好み焼きを押しつける。
「オレが行く」
「どうして?」
「そういう気分なんだよ」
 ドアを開けて車を降りるニールに、後ろから声をかけた。
「じゃ、貸しひとつだ」
「どうしてそうなる?」
「女の子を助けられる機会を譲ってやるんだ。当然だろ?」
 舌打ちして、ニールは律儀に車のドアを閉めた。
読者の反応

ねこくん@3Dbell長崎コラ班猫神雅 @kun_inu
ニールかっけえなw


ミズノ@名古屋(_・ω・)_ダァン!! @painterstudent
父「もし山本ちゃんがいる世界がプレゼント無いとしたらめんどくせーなー」
私「ああ確かにニールさん電車乗ってるしプレゼント壊れたか無いかだよね」


セトミ @setomi_tb
[ワイルドカードになりそうなのは、久瀬という10年前に失踪した少年。」ってどういうことよやっぱり記憶が・・・?


パイロ亭@川越ソル @pyroteeeeeeeee
八千ニーの掛け合い良いね 





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