リカオン のコメント

女性の地位向上の議論をゴー宣DOJOで行うとお聞きしました。女性の地位向上と不妊治療は関連があるのではないか、仕事をしながら不妊治療をしていた自身の体験も話題提供になるのではと思い、筆をとりました。

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かつて結婚したら寿退社が当たり前の時代がありました。しかし30年ほど前、私が就職する頃はちょうど共働き世帯が増加して専業主婦世帯数を追い抜いた時期です。「飛んでる女」と言う言葉が流行り、仕事も家庭も軽やかに両立するぞと私も胸を高ならせて就職しました。

会社は妊娠出産に対する社会保障も整っていたので良いところに就職できたと思っていましたが、現実はそう甘くありませんでした。バリバリ働いていた同僚女性が二人目の子育てのために職場を去りました。能力も実力も兼ね備え、ゆくゆくは女性管理職第一号かと思うほどの実力の持ち主が休職ではなく退職したので、二度と彼女と一緒に仕事ができないのかと寂しい気持ちになりました。その一方で子育てというのは甘いものではないとも感じました。

やがて私も結婚し、職場では中堅になると私に対して面と向かって苦言を言う人は少数になります。おかげでマタニティハラスメントに対しても精神的に余裕を持って対処でき安心して妊活できる、子どもは2〜3人欲しいと夢を描いていました。

しかし私は36歳で結婚したので生物的にはすでに繁殖機能が低下してくる時期。
一般に初産の場合35歳、経産婦では40歳以上を高齢出産といい、流産リスクや妊娠にまつわる種々の病気、難産の可能性が高まると言われています。私もなかなか子供ができず、仕方なく不妊治療のため婦人科の門を叩きました。

不妊治療の初歩はまずはタイミング療法。毎朝体温を測定し、体温の上下で排卵日を推定し今夜決行という、古典的方法です。

それでも妊娠しないのでさらに検査をしたところ、沢山子宮筋腫があると判明。子宮筋腫は良性腫瘍で、わずかなら妊娠に影響はないのですが、子宮を圧迫するほど多いと妊娠しにくいというので摘出手術を受けました。それでも妊娠せず。

最後にやっと主人の精液を調べました。検査の結果、精液に問題があり、私も高齢で夫婦ともに不妊の原因があると判明。不妊と言えば女性ばかりが問題視されますが、現代の日本において不妊の原因は男女半々。最初から男性の精子を調べればもっと早く治療のステップに進められたのではと悔やまれます。

そこで今度は体外受精が始まりました。卵子を取り出して体外で精子と受精させ、子宮に移植します。男性に問題があっても結局麻酔を受けたり針を刺したり痛みを伴うのは女性です。

男性は精液を採取して病院に提供します。冷凍保存した精液を医者は必要に応じ解凍して受精に使うのです。主人はAVビデオやグラビア雑誌のおいてある個室に入り、しばらくすると精液を容器に入れて看護師さんに渡していました。一度の採材で数回の受精に使います。

女性は卵子をたくさん育てるために注射をしたり薬を飲んだりし、成熟した卵子ができたら体に針を刺して卵子を体外に取り出します。投薬によって体内のホルモンが乱高下し、体が変化してお腹が張ったり、ひどい頭痛に襲われる事もありました。体の色々な臓器が老化に向かっている中、無理矢理ホルモンで働かせようとするので、体が悲鳴をあげるのも無理ないです。状態の良い卵子を採取したら精子を人工的に受精させ冷凍保存しておきます。

次に受精卵を受け入れる状態に子宮や体を整え、移植を受けるために来院します。受精卵を子宮に入れてもらったら、しばらくベッドで2〜3時間安静にし、子宮に受精卵を定着させます。その後自動車を運転して帰宅。そのまま仕事に向かう時もありました。移植を受けたら仕事中でもなるべくお腹に衝撃を与えないようにそろそろと歩き、体も冷やさないように気をつけていました。

最初通っていた地元の病院は卵子を採る際に麻酔をかけたり、受精卵の移植後妊娠状態を維持させるために黄体ホルモンの注射を受けに毎日通っておりました。
不妊治療をしている事は会社に話していなかったため、通院のために早退したり、日中2時間休みをとって会社を抜けていたら頻繁なため同僚の男性に咎められました。しかしこの病院で体外受精を4回繰り返しましたが妊娠しませんでした。

短時間とはいえ頻繁に仕事を休むと会社に迷惑がかかるので別の病院を探すことにしました。隣の県に評判の不妊治療専門病院があると聞き訪問。高速道路を使って車で1時間半かかり通うのに時間がかかるものの、注射ではなく飲み薬が主体なので、通院も月に3回だけと減り、時間的拘束も少なく職場への影響は減ります。

費用はべらぼうに高額で、当時は保険診療でないため10割負担。一回の移植に30〜40万円かかります。こんな高額、お金持ちでなければ夫だけの給料ではとても賄えない。仕事を持つ女性は子どもを持ちたがらないという偏見がありますが逆です。共働きじゃなければ払えない金額なのです。女性が仕事をしているからこそ不妊治療が出来るのだと思いました。

またこの頃から自治体で不妊治療に助成をするようになりましたが、それは41歳までとされました。42歳から急激に妊娠率が悪くなるから助成されないのです。ちょうどこの時私は42歳でしたのでギリギリ認められず。税金を使う訳ですから、無駄な事には出資しないと言う事でしょう。不妊宣告されたようにも感じましたが、状態の良い卵子は採取できていたので治療を継続しました。

一度は妊娠が成立し、エコーで胎児の心拍が確認できた事もありましたが、次の検診で心臓が動いていない事が判明し流産してしまいました。さすがにこれには落ち込み、一人ぼっちで夕日を眺めて佇んでいたところ、心配になった主人がやってきて「俺のために申し訳ない」と謝られた事がありました。その言葉に救われもしましたが、一方で違和感もありました。それは誰が悪いとか謝るとかそういう話ではないと。

男性不妊が認識されるようになり、それを理由に妻が夫をなじる例がネットでも話題になっていました。しかしそれは昔の子宝に恵まれない妻を夫が離縁し、跡取りを産ませるために新妻を娶るのと何ら変わらない考え方で、男女の立場が逆転しているだけだと。それでも妻が夫を責めるのであれば、それはルサンチマンの復讐にしかならない。本来、夫婦の愛が上位で、その結果の子どもなのではないかと思いました。

流産したものの一度は妊娠できている訳なので、この年齢でも妊娠の可能性はあると気をとりなおし、受精卵を移植する事10回。保存していた受精卵を全て移植尽くしたところで最終的に妊娠する事ができました。44歳の時でした。医者は「リカオンさんなら2人目も行けるよ」と言いましたが、私はこの時気力も体力も貯蓄もつきたため不妊治療を終わりにしました。
これからお腹の子どもが大人になるまでの20年間、定年過ぎても働きながらしっかり育てなくてはならないのに、さらに同じ事を繰り返して2人目は考えられない。その時自分はお腹の子1人で精一杯だと判断しました。

以上が不妊治療の顛末です。20年も前の治療ですので今にしてみれば時代遅れの技術を書いたかも知れません。

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No.118 7ヶ月前

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