uki のコメント

東大論文ですが,週明け,周りのコロナ脳・マスク脳の方々がこれに基づいて攻めてきてもこちらもロジックで対応できるようにしておこうと思って原文を読みました(今回のは専門外ですが,論文作成・査読は仕事としてよくやっています.).
皆さんがコメントしている通り,マスクによるウイルス減少が感染成立の抑制にどの程度寄与するかどうか,また,実際の会話とかけ離れた設定であることが最も疑問です.しかし,予想通りといってはなんですが,論文から隠された結果が透けて見えます.

対面マネキンの距離を25㎝,50㎝,100cmと離していますが,この閉鎖空間内でも,マスクなしで,25㎝に比べ,100㎝では31%ウイルス量が減少しています(この解釈を「100cmになったら31%までも減少した」とせず,「100cmでも,ウイルスは検出された」と書くのは,おそらく下の,医療者へのメッセージ性を意識した書き方だと思います).その後の(マスク着用 or 非着用)x(spreader感染者側 or receiver受け手)の検討は50cmのみであり,100cmはやっていません(myaさんの指摘通り).チャンバーは120cmあるので,普通に,研究者の立場で考えると,「100cmのマスク着用or非着用の実験は実際はやっていて,結果があるのではないか?本当にやってないなら絶対やるべき.」と考えるのが妥当です.なお,本文の中に,"it is desirable for individuals to wear masks in public spaces." つまり,「個々人が公共の場でマスクをするのが望ましい」とありますから,著者らが公的な場を意識した距離感でのマスクの必要性に関しての論文を作成しようとしていたと考えられるのもそう考える根拠です.120cm以上のチャンバーなどはできなかったのは予算の関係でしょうか?にも関わらず,最終的な概要(abstract 著者らの伝えたい重要なメッセージが記載される)では,公的な場所でのマスクの必要性には言及せず,「医療者(medical worker)に対してマスクの有効性,適切な着用方法の理解を本論文は助けるだろう」と述べるにとどまっています.

以上から,想像するのは,
「普通のマスクはもちろんのことN95でさえも,100cm離すとマスクの効果は認められなかったのではないか?(少しでも有意差があれば結果を出すはず)」
「そのため,50cm近接だと有意な実験結果が出たことだけを利用して,その近接距離で仕事をしうるmedical workerへのメッセージとしてうまくまとめるようにしたのではないか?」
ということです.これは論文を批判的にみて正しい科学的事実だけを残す手伝いをするという基本的な作法であり,別に意地悪ではありません.かつ,これまでマスクはほとんど意味がないと幾多の研究で言われてきたことにも矛盾しない自然な科学的な問いです.

謝辞(acknowledgments 資金源などを記載する欄)を見ますと,著者らは感染症に関する国費(研究費)で研究をしておられます.研究室存続のためにも何らかの形でもいいので業績を残す必要があるでしょうし,上記の解釈に気をつければ論文自体の一抹の理はありえます.ただし,東大がプレスリリースを行い,そこで「公共の場でマスクを着用すべき」という本論文からは言いすぎだと考えられる言説を広めた以上,彼らには科学発展に寄与したいという以上の,もっと俗っぽい「色気」が出たと私は判断します.また,「マスクは公的な空間ではほぼ無意味である(近接50㎝で20分軽い咳されっぱなしの時は意味がある)」ということも言える可能性があったにもかかわらず,WHO,世間の批判が怖くて逃げて(ひよって)穏便にすませようとしたのかもしれません.

本来,科学論文にはcorresponding authorといって著者に連絡を取りたいときに著者のemail連絡先があることも多く,上記疑問点を問いたいと思ったのですが,この論文にはないですね.機会あれば上記に対する反論を聞く機会を持ちたいのでいろいろ画策しようと思います.

No.167 50ヶ月前

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