こんばんは。ライジングいつも楽しく読ませていただいております。 都内の医療機関で実際に新型コロナウイルス感染症の診療に携わっております。 今回はライジングではなくてゴー宣ネット道場でもくれんさんがPCRのサイクル数について言及していてびっくりしたと同時にその着眼点の鋭さに感銘いたしました。 新型コロナウイルスの検査で行っているPCR検査(厳密にはRT-PCR:Reverse Transcription polymerase chain reactionで逆転写PCR検査といいます。)はリアルタイムに反応のサイクル数を測定します。PCR検査をする際に検体にあるウイルスの核酸(新型コロナウイルスはRNAウイルスなのでRNAとなります)が多ければサイクル数は少なくて済みます。また反応の回数を何度もすれば、RNAの量が少なくても検出することができます。PCRの反応が得られたと判定されるまでにどれくらいの反応を要した(何サイクル行ったか)ということを示す値としてCt値があります。Ct値が低いほうが標的とする核酸(この場合はウイルスのRNA)が多く、核酸の量が少なければCt値は高くなります。Ct値の値と核酸の量には相関関係があるので、それによって検体の核酸量がわかります。つまりCt値がわかればだいたいのウイルスのRNA量がわかります。 ちなみに、日本で行われているとある検査会社のRT-PCR検査はロシュ社のを使っておりだいたいウイルスのRNAが50コピー/mLぐらいが検出下限となります。つまり50コピー/mL以上あればRT-PCR検査で陽性となります。その時のCt値はロシュ社は非公表ですのでわかりませんが、検査会社が50コピー/mL でRT-PCRを行ったときのCt値はだいたい37になるといわれております。 実はこのCt値、台湾では35でカットオフとなっており、台湾で陰性でも日本では陽性となる場合もあり得ます。Ct値は検査会社を通じてRT-PCRを行っている医療機関等は測定困難だと思いますが、大学病院など自前でRT-PCRを行える機関であればCt値を算出することは可能と思います。しかしそれができるところは多くはないです。 ではウイルスのRNAが50コピー/mLでウイルス自体は検出されるのか?という疑問が出てきます。これについてはNatureが論文として出しており(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2196-x.pdf)、その結果を参考にするとウイルスの検出率(ウイルスのRNAが検出されるのではなく、新型コロナウイルス自体が分離される)が10%(0.1)であるときのRNAコピー量は1.0×10の6乗/mL、つまり1000000/mLぐらいのRNA量があっても10%しか検出されません。以上のことを考えると、Ct値が37とかそれぐらいの値でギリギリ陽性になる場合、ウイルス自体が存在している可能性はほとんどないと言っていいでしょう。その場合は文字通り、ウイルスの残骸であるRNAをRT-PCRで検出し陽性となった、ウイルスの残骸を検出しているだけということになります。Ct値が35でもほとんどウイルス自体が検出されることはないと判断されたため、台湾ではCt値のカットオフを35としているのだと思います。 しかしCt値がわからないので、実際にウイルスの残骸としてのRNAを検出しているのか、それともウイルス自体がいるのかということがわからないという意見もあります。先ほど紹介したNatureの論文でどのくらいの期間、ウイルス自体が検出されるかどうか検討されており、だいたい発症後9日間でウイルス自体が検出できなくなります。他にもだいたい発症後9日ぐらいでウイルス自体が検出されなくなるという報告があるため、厚生労働省が作成した新型コロナウイルス感染症 診療の手引きでは症状が出現してから10日以上経過し、発熱や呼吸困難、SpO2値などの症状が3日以上改善が持続すれば療養解除となると療養解除指針が変更になりました。つまりウイルス量は発症前後が一番ピークでその後は減少していきます。なので発症してしばらく日時(1週間前後)が経過し、なおかつ症状が軽快している人には必ずしもRT-PCRを行って隔離をする必要は、本人の経過、人に感染させるリスク両方を考えてもないということになります。(検査してはいけないという意味ではなく、別の要件で必要であればRT-PCRはすべきと思います。) ちなみに無症状でも人にうつすという意見もありますが、『何をもって無症状とするのか?』ということに個人差がありますので、無症状でもごく軽度の症状があるかもしれません。そうなると、ごく軽症の症状でも人にうつすということになります。そんな状況でも爆発的に感冒様症状がある人が街中にあふれているわけではないので、感染力はやはり低いと思います。多くの人には問題はないのですが、高度肥満(BMI35以上など)や心血管系疾患を患っている方にとっては重症化するため、『全員が怖がる』疾患であるかというとそれは大げさな印象です。 このコメントはもくれんさんたちもお読みになっていると伺いましたので、Ct値などについてコメントさせていただきました。もくれんさんの考察の参考になっていただければ幸いです。ホント、もくれんさんの勉強熱心さと情報収集能力には感銘しております。
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こんばんは。ライジングいつも楽しく読ませていただいております。
都内の医療機関で実際に新型コロナウイルス感染症の診療に携わっております。
今回はライジングではなくてゴー宣ネット道場でもくれんさんがPCRのサイクル数について言及していてびっくりしたと同時にその着眼点の鋭さに感銘いたしました。
新型コロナウイルスの検査で行っているPCR検査(厳密にはRT-PCR:Reverse Transcription polymerase chain reactionで逆転写PCR検査といいます。)はリアルタイムに反応のサイクル数を測定します。PCR検査をする際に検体にあるウイルスの核酸(新型コロナウイルスはRNAウイルスなのでRNAとなります)が多ければサイクル数は少なくて済みます。また反応の回数を何度もすれば、RNAの量が少なくても検出することができます。PCRの反応が得られたと判定されるまでにどれくらいの反応を要した(何サイクル行ったか)ということを示す値としてCt値があります。Ct値が低いほうが標的とする核酸(この場合はウイルスのRNA)が多く、核酸の量が少なければCt値は高くなります。Ct値の値と核酸の量には相関関係があるので、それによって検体の核酸量がわかります。つまりCt値がわかればだいたいのウイルスのRNA量がわかります。
ちなみに、日本で行われているとある検査会社のRT-PCR検査はロシュ社のを使っておりだいたいウイルスのRNAが50コピー/mLぐらいが検出下限となります。つまり50コピー/mL以上あればRT-PCR検査で陽性となります。その時のCt値はロシュ社は非公表ですのでわかりませんが、検査会社が50コピー/mL でRT-PCRを行ったときのCt値はだいたい37になるといわれております。
実はこのCt値、台湾では35でカットオフとなっており、台湾で陰性でも日本では陽性となる場合もあり得ます。Ct値は検査会社を通じてRT-PCRを行っている医療機関等は測定困難だと思いますが、大学病院など自前でRT-PCRを行える機関であればCt値を算出することは可能と思います。しかしそれができるところは多くはないです。
ではウイルスのRNAが50コピー/mLでウイルス自体は検出されるのか?という疑問が出てきます。これについてはNatureが論文として出しており(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2196-x.pdf)、その結果を参考にするとウイルスの検出率(ウイルスのRNAが検出されるのではなく、新型コロナウイルス自体が分離される)が10%(0.1)であるときのRNAコピー量は1.0×10の6乗/mL、つまり1000000/mLぐらいのRNA量があっても10%しか検出されません。以上のことを考えると、Ct値が37とかそれぐらいの値でギリギリ陽性になる場合、ウイルス自体が存在している可能性はほとんどないと言っていいでしょう。その場合は文字通り、ウイルスの残骸であるRNAをRT-PCRで検出し陽性となった、ウイルスの残骸を検出しているだけということになります。Ct値が35でもほとんどウイルス自体が検出されることはないと判断されたため、台湾ではCt値のカットオフを35としているのだと思います。
しかしCt値がわからないので、実際にウイルスの残骸としてのRNAを検出しているのか、それともウイルス自体がいるのかということがわからないという意見もあります。先ほど紹介したNatureの論文でどのくらいの期間、ウイルス自体が検出されるかどうか検討されており、だいたい発症後9日間でウイルス自体が検出できなくなります。他にもだいたい発症後9日ぐらいでウイルス自体が検出されなくなるという報告があるため、厚生労働省が作成した新型コロナウイルス感染症 診療の手引きでは症状が出現してから10日以上経過し、発熱や呼吸困難、SpO2値などの症状が3日以上改善が持続すれば療養解除となると療養解除指針が変更になりました。つまりウイルス量は発症前後が一番ピークでその後は減少していきます。なので発症してしばらく日時(1週間前後)が経過し、なおかつ症状が軽快している人には必ずしもRT-PCRを行って隔離をする必要は、本人の経過、人に感染させるリスク両方を考えてもないということになります。(検査してはいけないという意味ではなく、別の要件で必要であればRT-PCRはすべきと思います。)
ちなみに無症状でも人にうつすという意見もありますが、『何をもって無症状とするのか?』ということに個人差がありますので、無症状でもごく軽度の症状があるかもしれません。そうなると、ごく軽症の症状でも人にうつすということになります。そんな状況でも爆発的に感冒様症状がある人が街中にあふれているわけではないので、感染力はやはり低いと思います。多くの人には問題はないのですが、高度肥満(BMI35以上など)や心血管系疾患を患っている方にとっては重症化するため、『全員が怖がる』疾患であるかというとそれは大げさな印象です。
このコメントはもくれんさんたちもお読みになっていると伺いましたので、Ct値などについてコメントさせていただきました。もくれんさんの考察の参考になっていただければ幸いです。ホント、もくれんさんの勉強熱心さと情報収集能力には感銘しております。