Doc のコメント

西浦教授をはじめとして理系研究者達がなぜ数十万人規模の死者数を想定しているのかについて、少しだけ説明させてください。コメントを書くのは何年か振りになります。

念のため、今から書く内容は、そうなるということを言いたいのではなく、どういう考え方なのかを説明するためのものです。

1927年からある古典的な疫病の数理模型にSIR模型というものがあります。

この模型は、総人口を未感染者(S)、感染者(I)、回復者・隔離者・死亡者(R)の3つに分け、日々、感染者の一部が回復者等になっていき、また、未感染者の一部が感染者になっていくという時間変化を記述する模型です。

ここで重要になるのは、感染によって増える感染者数の増加分の決め方です。この模型では、増加分は感染者数に比例すると仮定します。感染者が多いほど、感染が増えるということです。さらに、増加分は感染対象である未感染者数にも比例すると仮定します。免疫を持つ回復者や死亡者、感染者が増えると未感染者が減り、その分だけ感染が減ります。

この模型は、人の個性を無視して平均化・単純化している点を除くと、尤もな模型であり、特に対策を行わない場合には、この模型に近い状況になると考えられています。

この模型では、集団免疫獲得後の最終的な回復者・死亡者の総数は基本再生産数(R0)という一つの定数で決まります。さらに死亡者数は、回復者と死亡者の比率(もしくは致死率)で決まります。

具体的には、基本再生産数が2.5の時には、最終的な回復者・死亡者の総数は総人口の90%になり、致死率1%とすると死亡者は108万人程度になります。同様に、基本再生産数が1.6(現状の日本のデータに近い値)の時には、最終的な回復者・死亡者の総数は65%になり、致死率1%とすると死亡者は78万人程度になります。

もちろん、この模型は単純すぎるものですので、専門家はもっと詳細な模型とデータを用いて計算するわけですが、結果が数十万人規模になるというのは、どう計算しても変わらないため、大体そんなものなのだろうと認識されています。

なんでこんなに感染者や死亡者が増える計算になるのかというと、新規感染者数(増加分)が感染者数に比例しているからです。これは借金の利息の複利計算と同じ(借金=感染者数、利息=新規感染者数)で、集団免疫の効果が現れるまで、ねずみ算式に増えていきます。集団免疫が効いてくるのは回復者等が総人口の何割かを占めてきてからなので、どうしても大きな数になってしまうわけです。(インフルエンザが1000万人程度で済んでいるのは元々免疫を持っている人が多いからだとどこかで見ましたが、この辺は専門でないので分かりません。)

具体的に、上の模型で基本再生産数が1.6、致死率1%(医療崩壊は考えない)で、時間スケールを適当に合わせる(gamma = 1 / 7 days)と、累計の死亡者数はこんな感じで増えていきます(計算サンプルとして増加のイメージを見て欲しいというだけのものです)。100人になる(4月半ば)までに50日程度、5月頭は300人程度、6月頭は4千人程度、7月頭には4万人程度、8月頭には30万人程度、9月頭で65万人程度。

最後に自粛についてですが、模型上では自粛は基本再生産数を一時的に下げるということに対応し、その分だけ感染が減ります。ただし、やめれば基本再生産数は元に戻るので、最終結果は変わらず、被害を先延ばしにするだけです。時間を稼いで、その間に何とか対策しようとするためのものだと考えられます。

長くなってしまいましたが、理系研究者で悲観的な人は、大体以上のような感覚を前提にしていると思います。

私自身も、よしりん先生のように楽観的に考えることはできていません。ただ、日常生活を守ることが大切だという考えには賛成します。ずっと自粛を続けるというのは、戦争に例えるなら、無条件降伏して穴倉に引きこもるのと同じです。犠牲者数は最小化できるかもしれませんが、日常と平和は失われてしまいます。

No.183 49ヶ月前

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