M.O のコメント

今週も配信ありがとうございます。
「今の価値観を過去に適用する愚」とのことですが、朝ドラでタバコや労使交渉を描くのには私は懐疑的です。
よしりん先生は数年前の『あさが来た』についても、史実に沿って妾の存在も描くべきと書かれていましたが、朝ドラにそこまでのリアリティや生々しさは私は求めません。
理由は、1話15分という時間枠の限られたドラマなので、いたずらに情報量が増えてしまうと内容が入ってこないから。
出勤や通学の前の慌ただしい時間に見る人がほとんどなので、その日のストーリーが分かりやすく頭に入ってくることが優先されるのだと思います。
ゆっくり朝ドラを見られる専業主婦という身分でいられる人はほんの一握りで、子供が「タバコ吸ってる!」などとリアクションしても説明している時間なんてないし、面倒以外の何物でもありません。
そういう意味では、45分程度の時間枠になる大河ドラマや民放連ドラなどであれば、こういった時代考証はしっかり描かれていても良いと思います。
録画してじっくり見る人は多いし、制作側としても当時の文化や風俗についての説明的な描写を挿入する余裕があるからです。
今年放送された連ドラ『後妻業』では、裏社会の人たちは男女含めて喫煙していましたが、画期的なことだったと思います(過去の時代を描いていたわけではないですが)。

この問題と、「女性の人権」を過去に適用するという愚行とは、少し違いがあるのではないでしょうか。
後者は「人権」イデオロギーに囚われた人の歴史感覚の欠如ということだと思いますが、前者は――少なくとも朝ドラに関しては――情報の取捨選択というレベルであって、喫煙文化を「なかったこと」にしてしまおうという意図までは、制作者は持っていないのではないか、と思います。
あらかじめクレームを回避するという目的は当然あるでしょうけど、同時に忙しい現代人がいつものようにいつもの朝を過ごす、そこに寄り添う朝ドラ、というスタンスも意識しているのではないか、と。
一旦視聴率が低落し、放送時間を前倒しにしてからの復活を経た上で、なおかつ設定が突飛すぎた『純と愛』や朝から陰鬱すぎた『べっぴんさん』で世間のひんしゅくを買ったという経緯を踏まえて、今の時代の朝ドラの在り方、というものを慎重に模索しているのではないでしょうか。

ただ、非常に個人的な感覚なのですが、前の朝ドラ『まんぷく』であれば、喫煙の描写はアリだったなと感じます。
学究肌で反骨精神の塊だった萬平さん、瀬戸康史演じる少し亭主関白なところがある神部さん、要潤演じる悩める芸術家・忠彦さん、中尾明慶演じる一本気で喧嘩っ早い製塩会社の従業員など、タバコが似合いそうな男どもが揃っていました。
なので、男どもがスパスパやりながら喧々囂々話し合う、というようなシーンは、絵面的にも良いアクセントになりえただろうし、語らずとも説得力があるシーンにもなったのではないか、と思います。
一方で今作の『なつぞら』や、登場した女性がことごとく幸せを掴む『ひよっこ』などは、何となくコンセプト的にタバコが「不要な情報」のように感じられてしまいます。
正確な時代考証は大切ですが、フィクションの世界観との兼ね合いは意識すべきだと思います。

No.41 62ヶ月前

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