何年にも渡って実父にレイプされ続けることを真から自由意思で望む人間なんて、まずいません。それが「常識」です。しかし、現代民主社会とその法律は自由意思の礼讃と尊重の上に立脚している。だから訳知り顔は、人の意思の発現が「完全に阻害」されたのでなければ自己責任だと主張せずにはいられない。そして、大抵の場合、ああすればよかった、こうすればよかったという後だしジャンケンが始まる。このジャンケンは言われた側が負ける出来レースです。

しかし、そんなに人間は万能じゃありません。自由意思にも明度や彩度があります。故意に未必の故意というあいまいなものがあるのはそういうことでしょう。心理的抗拒不能も「完全な屈従」のみで判断するのではなく、度合いを考慮すべきではなかったか。長期に渡る異常な抑圧状態でＡさんの自由意思は相当に制約された状態にあった＝心理的抗拒不能があったとすれば、まったく無理はなかったはずです。それを逆手にとって、Ａさんの現実への抵抗の意思を自己責任論の論拠にしようとは、いささか職業倫理に欠けた行為にも思えますが、いかがでしょうか。