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山田玲司のヤングサンデー 第70号 2016/2/8

勝ち馬に乗るようじゃおしめえよ

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「今期のアニメで1番なのは、何と言っても『昭和元禄落語心中』ですね」
と、おっくんの後輩の「フジイちゃん」が教えてくれたので、さっそくそのアニメを観てみました。

フジイちゃんは、「リアルタイムアニメウォッチャー」なので、彼の情報はあなどれないのです。

しかも、このアニメの題材は「落語」ときた。

実は僕は子供の頃から落語が好きで、志ん生はもちろん、東京生まれなのになぜか上方落語の「桂枝雀」にハマって、彼の芸を丸暗記したりしていた中学生だったのです。

番組でこの話をしたかはよく覚えてないんだけど、当時の僕はその暗記した落語を発表する場がないのが不満でした。
それなら「生徒会の選挙」に立候補したら、全校生徒の前で演説ができるじゃん、そこで勝手に落語やっちゃえばいいじゃん、と思いついてそれを実行したのです。

「えーこの度、生徒会の議長に立候補した2年7組の山田玲司です」と、全校生徒の前で演説を始めて、その後はもう枝雀の落語のコピーです。

そんな事する候補者はいないので、「生徒のための生徒会を・・」なんてつまんない演説を聞かされていたすっかり飽きていた中学生達には当然大ウケでした。
そんなわけで、僕は圧倒的勝利をおさめて当選したのだけど、落語ができればそれで満足だったので、あとは適当にやりすごして漫画を描いていたのですけどね。

そんな落語好きな自分は、ドラマだの漫画だのに落語が出てくると、何か嫌だったんです。
「俺のもの」という意識が強いから、誰かに好きに語って欲しくなかったんですね。
そんなわけで、クドカン(宮藤官九郎)の落語ドラマも観てなかったんです。


とはいえ、フジイちゃん絶賛、となれば、スルーするのも大人げない。
観てもいないヤツは語る資格もないですからね。

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脳内ユートピアとしてのオールド東京

で、そのアニメがどうだったか?と言えば、なるほど「昭和元禄」な雰囲気のアニメです。
落語家が高座で演じるのを、アニメにするという意欲的な試みまでしてます。

フジイちゃん曰く、このアニメは本格的な落語を現役の人気声優にやらせる試みがすごい、ということらしいんだけど、なるほどお馴染み山寺宏一さんの落語芸が聞けるのは中々に新鮮です。
制作側の意図であろう「BL感」と「戦前の昭和レトロ感」を出す事には見事にその期待に応えてます。
椎名林檎の曲を林原めぐみに歌わせる、という選択も、狙い通りの効果を上げています。
そもそも「知らない昔は新しく感じる」という法則があるので、今の人には新鮮だとも思います。

どうやら原作の漫画は昭和50年代を舞台にして始まる物語らしいのだけど、おそらく制作サイドが「戦前の昭和」を新鮮に描く事に賭けたんじゃないかと思って観ていました。

このアニメで描かれている戦前の東京は「ユートピア」に見えます。
20年代のパリや、60年代のニューヨークのように、「あの時代は良かったんだろうな」という夢が乗っているので、一種の「脳内ユートピア」としての「戦前ワールド」です。

「戦前の人たちの人情ある暮らし」には、僕もあこがれを感じます。
戦争の後に全てを失うことになるこの国に、かつてあったという「庶民が助け合う暮らし」です。
ヨーロッパでも第1次世界大戦前の映像を見ると、豊かさに溢れているように見えます。
おそらくは戦前のヨーロッパにも「それなりに悲惨な事」もあったのだとは思うけど、世界大戦の悲惨さに比べれば可愛いものでしょう。


このアニメは僕の個人的な趣味とは違うので「ああ、なるほど、こういう見せ方なんだ。大衆演芸に対して真面目に向き合ってるなあ・・」なんて思いながら観ていたんだけど、1つ引っかかったのが「その時代の言葉の手触り」でした。

おそらく製作陣は、本当の江戸落語に出てくる言葉と、下町の古い言い回しを研究したのだと思うんだけど、自分のことを「あたしはね・・」という男達の言い回しには、ちょっとやられます。

僕の知っている昭和の東京には、本当にそういう言い方をする男の人たちがいたからです。
(今回の写真は僕が昭和の東京下町の子供だった時代のものです)

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アニメの言語感覚

アニメにはアニメならではのセリフ回しが沢山あって、その出処も様々です。