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山田玲司のヤングサンデー 第216号 2018/12/10

不安遺伝子

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日本人は世界で1番「不安を感じる遺伝子」が多いらしい。


詳しい研究結果についてはよく知らないんだけど、これが本当なら色々な事が納得できる。


自分も含めてとにかくみんな不安を抱えて生きてる。

いつの時代もそうだった気がするけど、経済と政治の具合が悪い時は余計に「不安遺伝子」が騒がしくなると思う。


不安の原因は主に「明日食うものがない」という問題で、これが深く遺伝子に刻まれているのもわかる。

何しろ人類の歴史は「飢えとの戦い」だったからだ。


なので、当面の不安を解消するために「まずは金!」となるのも納得できる話。

バブル時代に僕はお金がなかったので、不安を抱えて生きてたけれど、当時景気の良かったサラリーマン達はみんな浮かれてて、不安なんかないみたいな顔をしてたので、お金が不安を解消してくれるのはある程度本当だろう。


そんなわけで、バブル期は余裕があって「チャリティー番組」なんかも流行った。

お金があると人は「優しくなる」というのも皮肉な話。



とはいえ「貧しい」と人は「考える」というのもある。


「なんでこんな目にあうんだ」


貧しさの中で「世の中の不条理」に向き合う人が増える。



戦後間もない極貧の時代に多くの知識人が現れたのはそのせいだと思う。

手塚治虫先生や瀬戸内寂聴さんやトキワ荘の人達も、そんな極貧期を越えてきている。


お金がないと「哲学者」は育つ。

なんか「悪妻が偉人を育てる」みたいな話だけど、これもよくわかる。

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バブル期に僕が1番感じていたのは「知性の劣化」だった。

あの頃から、真面目に何かを考えている人を馬鹿にする傾向が拡大していった。

「ノリだけ主義」になった若者に、大人達の多くも「バカ」だった。




そんなこんなで訪れた「バブル崩壊」による貧困期の混乱。

これに対応できる知性は絶滅寸前になっていた。


本来知性的な研究者の流れをくむ「オタク」の世界でも、明らかに知性は劣化していた。


物事の本質を考える健全な思索は、ポストモダンで駆逐され、「スノビズム」という「まがいものの知性」が威嚇と自意識の防御に駆使された。


「エヴァンゲリオン」がその代表で、作品の背後に建設的思想は(ほぼ)なく、そこでは「悲鳴」と「ニヒリズム」が満ちている世界が展開され、広く共感された。


それでもまだ「世の中に訪れた未知の恐怖(宴の終わり)」に向き合っている分「最後の知性派」と言ってもいい作品が「エヴァンゲリオン」と言っていいのかもしれない。


そして「オタク以外の人達」はさらに悲惨な劣化を遂げていた。

その証拠は「バブル後の貧困」に対して取った態度に現れている。


支配層は「政財官結託しての保身」(失われた20年)に走り、国民は「拝金主義」「見た目第一主義」「自己責任論」などに染まった。

漫画で言えば「カイジ」「ウシジマくん」のような気分が普通になったのだ。



落語に出てくる「貧しくても心豊かな暮らし」や、「男はつらいよ」「北の国から」などに描かれた「人間の価値はお金やら見た目で決まるのかい?」という「深さのある知性」は消え失せ、「金がすべて」という殺伐とした空気が今も続いている。



つかの間の「金持ち体験」で失われた「庶民の知性」は、不況の中暴れだす「不安遺伝子」に対して、「とにかく金だ!」という答えしか出せなくなった。


そこで切り捨てられたのは「人情」「問題意識」「美意識」「無意味」「思索」「哲学」

今だからこそ、マイケル・ジャクソンの持っていた、あの無垢な優しさや問題意識が恋しい。