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アニメーションは日本の戦後をどう描いたか
──「理想」と「虚構」の時代の終焉と、
ロボットアニメが描いたもの・前編
(宇野常寛の対話と講義録)
【毎週金曜日配信】
──「理想」と「虚構」の時代の終焉と、
ロボットアニメが描いたもの・前編
(宇野常寛の対話と講義録)
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☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.2.26 vol.528
今朝の「宇野常寛の対話と講義録」では、宇野常寛の講義の内容をお送りします。テーマは戦後日本とアニメーションです。アメリカから輸入された技法をローカライズする過程で生まれた日本独自のサブカルチャーについて、ロボットアニメを題材に読み解きます。
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■ 戦後サブカルチャーの変遷
今日の授業のテーマは、「戦後のアニメーションは何を描いてきたか」です。今となってはニュアンスを伝えることが難しいのですが、かつて、若者のサブカルチャーについて語ることは、なによりまず「音楽」について語ることと同義でした。まず欧米圏のジャズやポップスがサブカルチャーの中心にあって、その周辺に国内の音楽や演劇といった周辺のジャンルがあった。しかし今、国内でサブカルチャーといえば、アニメやボーカロイド、ニコニコ動画などの国内のオタク系ネットカルチャーを想像する人が多いと思います。この傾向は、ここ15年から20年くらいの間に生まれたものです。僕が思春期の頃は、もうちょっとオシャレな文化がサブカルチャーの中心でした。一応、アニメや漫画も含まれてはいましたが、メインはやはりあくまで音楽や演劇です。映画は昔からメインカルチャーとサブカルチャーの中間にありましたが、その中でも若者向けのジャンクな映画が、ぎりぎりサブカルチャーに属している、という状況でした。
それが90年代後半から2000年代初頭になると、日本のアニメが「ジャパニメーション」と呼ばれて海外で流行っているらしいということに日本人が気付くわけです。あまり好きな言葉ではありませんが「クールジャパン」という呼称も生まれ、メディアで報道される機会も多くなりました。
さらに、屈託なくアニメや漫画を好きと言える人が増えました。以前はアニメや漫画が好きというだけで、クラスの中で「何だコイツ」という目で見られていたのが、僕の5歳〜10歳くらい下の世代では「普通じゃん」と思われるようになりました。
その結果、いつしかサブカルチャーの中心は、音楽や演劇からアニメや漫画になりました。そういった変化を背景にして、僕のような人間が、若者向けサブカルチャーを語る評論家として世に出てきたという歴史があります。
■ アメリカ発祥の双子──自動車と映像
以上のように、サブカルチャーと言ってもいろいろあるわけですが、今回、なぜアニメにこだわって授業をするのかというと、アニメを語ることによって戦後日本の社会をきちんと語れるのではないか、と考えているからです。
戦後の70年間で、日本が世界への輸出に成功した二大巨頭が「アニメ」と「日本車」です。戦後日本が、「ものづくり」の分野で成功したのが自動車なら、文化的側面での成功を象徴するのがアニメであるとも言えます。
現在においても、自動車が日本の製造業の代表であることに異論を挟む人はいないでしょう。日本にはトヨタという世界的な巨大企業がありますし、ここに入社すれば一生安泰と考えている人も多いでしょう。それに対してアニメは、50代以上の世代からはいまだに「え、アニメ?」みたいな扱いを受けがちですし、海外での日本アニメの人気も、一部のマニア層に支持されているに過ぎず、自動車と比べるとまだまだ成功しているとは言えません。
しかし、この両者は非常によく似た存在だと言えます。まず、どちらもアメリカ文化のローカライズです。最初に車が発明されたのはヨーロッパですが、人々の日常の足として普及したのはアメリカです。つまり、自動車文化とはもともとはアメリカ文化なのです。アメリカは国土が広く、自動車がないと生活できない地域も多いですからね。
それが日本に入ってきたことで別物に進化します。あまりかっこよくはないけれど、燃費がよくて使いやすい、明らかにアメリカの車とは別の思想に基づいて作られた自動車。この「日本車」は、1980年代に世界中を席巻します。
1985年公開の映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』では、主人公のマーティ・マクフライが1955年にタイムスリップして、当時のアメリカ人に「日本製が一番だよ!」と言うシーンがありますが、それを聞いた1955年のアメリカ人は驚いて信じようとしません。当時の日本製品は粗悪品の象徴とされていました。それが、わずか30年で劇的な進化を遂げ、世界中を席巻するようになった。その象徴と言えるのが日本車でした。
アニメについても同様です。アニメーションの大衆化に成功した米国のウォルト・ディズニーに憧れた手塚治虫から、日本のアニメの歴史は始まります。既に漫画家として名を成していた手塚は制作会社を設立し、『鉄腕アトム』を皮切りに、国産アニメーションの製作に着手します。
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