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キッズアニメはなぜ「シュール系コメディ」
として機能するのか
『石岡良治の現代アニメ史講義』
キッズアニメーー「意味を試す」〈2〉
として機能するのか
『石岡良治の現代アニメ史講義』
キッズアニメーー「意味を試す」〈2〉
【毎月第3水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.2.17 vol.521
今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は、2010年代のアイドル系女児アニメ『アイカツ!』『プリパラ』を取り上げつつ、キッズアニメがなぜ「シュール系コメディ」としても機能するのかを考察します。
▼プロフィール
石岡良治(いしおか・よしはる)
1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。跡見学園女子大学、大妻女子大学、神奈川大学、鶴見大学、明治学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて毎月のレギュラー番組「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。
3.現代のキッズ・アニメの射程(1)アイドル系女児アニメについて
今世紀を代表する女児アニメは『プリキュア』シリーズ(2004〜)でしょう。
『プリキュア』は1990年代の『セーラームーン』モデルを更新し、バトルアクションを強調したシリーズです。『Yes!プリキュア5』(2007-08)以降はセーラームーンの要素を取り入れたりするなど、長寿シリーズということもあり作風は様々ですが、私がシリーズ中一番だと考えているのは『ハートキャッチプリキュア!』(2010-11)で、いくつかのモチーフについては『魔法少女まどか☆マギカ』よりも優れていると考えています。けれどもこのシリーズにも近年は翳りが見えていて、『ハトプリ』を強く意識した『ハピネスチャージプリキュア!』(2014-15)がシリーズ中最も低評価に終わり、存続が危ぶまれていました。続く『GO!プリンセスプリキュア』(2015-16)は、個人的にはプリンセスモチーフを現代の女性像とどう折り合わせていくのかについてやや疑念もあったのですが、危機意識もあってか、シナリオ面でもかなり力が入っており、総じてかなり良い作りでした。
『プリキュア』シリーズを考える上で、EDのダンスCG(『フレッシュプリキュア!』2009年以降)は重要です。近年の『プリキュア』に翳りが見えていた理由は、明らかに他のアイドル系女児アニメとの競合によるものなのですが、淡々と進化を続けるCG技術は他の追随を許していません。一年の長期シリーズ作品なので、全話見るのが厳しいという人は、CGの変遷だけでも見てみるとそのことがわかると思います。そもそも、『プリパラ』や『アイカツ!』のようなアイドル系女児アニメのCGモデルが、『プリキュア』EDを手本としているところがあります。現代のセルルック3DCGを考えるならば、OPやEDでしばしば見られるダンスCGの系譜をたどる必要があります。初期作の印象もあって、『プリキュア』はゼロ年代アニメであるという印象をもつ人が多いと思います。現在放映中の『魔法つかいプリキュア!』も、原点回帰の上、魔法学校という舞台が若干『ハリーポッター』めいていますが、EDのダンスCGにおいては10年代型のアニメであり、この点には今後も注目したいと思っています。
『アイカツ!』(2012〜)と『プリパラ』(2014〜)が担う「アイドル系女児アニメ」については、私がこれまで定点観測的に何度か語ってきたことを改めてまとめ直して語りたいと思います。特に先行する深夜系アイドルアニメ(『THE IDOLM@STER(アイマス)』『ラブライブ!』)との差異を語ります。もちろん深夜系アイドルアニメは重要なのですが、私自身はキッズ枠アイドルアニメのポテンシャルに惹かれます。さて、『アイマス』はもともとアーケードゲームとして出て、Xbox360に移植されて、その後プレイステーション3に移植されます。当初から男性オタクがターゲットで、メディア展開とともにファンを広げていきました。他方『アイカツ!』と『プリパラ』は、アーケードカードゲームとしての面を持ち、かつターゲットが女児であるのはもちろんですが、実在アイドルをモデルとしていないことがポイントだと考えています。『アイカツ!』はキャラクターの声優とシンガーは別の人を起用しており、対して『プリパラ』は声優とシンガーが同一人物なのですが、既存のアイドルグループとの類似はあまりみられません。
『アイマス』の初期にはかなりの程度ハロプロ的な感触がありました。けれども『アイドルマスターシンデレラガールズ(デレマス)』はイロモノ系の登場人物が増えており、ハロプロから少しずつ遠ざかっていき、まさに『アイマス』としか言いようのない世界へと発展していきました。『ラブライブ!』にも似たところがあって、初期はあからさまにAKB48『ギンガムチェック』のPVなどの参照から始まっていますよね。劇場版の『SUNNY DAY SONG』の場面も、そこはかとなくAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』のPV風味でした。けれどもスマホアプリ『スクフェス』の独自の存在感などを含め、「ラブライバー」にまつわるイメージが独自に広がっている現在では、そうした関連性は見えにくくなっていると思います。このように『アイマス』も『ラブライブ!』も、一見すると実際のアイドル界と関係のないように見えて、接点を持っています。「二次元vs三次元」のような対立がときに煽られるのは悲しいことです。2015年末にはμ’sの紅白歌合戦出場もあり、『ラブライブ!』は10年代を代表するアニメの一つになりました。
近年のアイドルアニメについて興味深い事実としては、『アイカツ!』と『ラブライブ!』の両作にサンライズが関与していて、数々のロボットアニメを差し置き、すでに主力シリーズとなっていることでしょう。それに加えて、『アイカツ!』と『プリパラ』は、ゼロ年代のカードゲーム『オシャレ魔女♥ラブandベリー(ラブベリ)』(2004~2008)の継承という面があります。セガの開発した『ラブベリ』は『甲虫王者ムシキング』の女の子版として作られ、結果的には短命に終わりました。今見るとローポリゴン感満載で懐かしさすら感じます。この話をもう少し展開させて言うなら、任天堂がDSや3DSで展開しているセレクトショップシミュレーションゲーム『わがままファッションガールズモード』シリーズと関連付けることができるかもしれません。『アイカツ!』と『プリパラ』はプレイアビリティが高い、つまりカードゲームのプレイ経験と直結しているからこそ、実在のアイドル世界から離れていてもかまわないのだと考えられます。両作ともカードゲームとの連動が特徴的で、ターゲットの女児以外のプレイヤーである「〜おじさん・おばさん」を大量に生み出しています。
もう一つのポイントはアイドルおなじみの「ダンス」や「ポーズ」でしょう。男性女性問わず、子どもをターゲットにする時「ごっこ遊び」との結びつき方が重要になってきます。変身バンクがポーズを生み出す側面ですね。「ダンス」と「ポーズ」そして「着せ替え」が3DCGモデルに結びついているところが、これらの女児アイドルアニメの特徴になります。『アイカツ!』は最初期にカクカクだった動きがどんどん改善されていきました。『プリパラ』もシーズンごとに3DCGモデルを改良しています。このようなことはアイドル系女児アニメが長丁場であるからできることです。つまり話数の多さに優位点があるということです。話数が多いからこそ、CGモデルを随時更新し続けていけるわけです。
■ 長期シリーズであることがシュールさをもたらす
キッズアニメの重要な特徴として、ワンシーズンが基本の現代アニメにおいて珍しく、長期シリーズ中心ということがいえます。だからみなさんも「とても全話は観られないな」と考え、そもそも視聴しないことも多いでしょう。ですが、キッズアニメはそもそも子どもが想定視聴者なので、ある程度適当に観ていい作りになっていることが多いんですね。もちろんシナリオ上重要な話を飛ばすと若干厳しいときもありましが、少なくともワンシーズンアニメと比べれば、途中からでも入れるように作ってあるので、たまに気が向いた時に見てみると良いと思います。私もいくつかのシリーズは途中から見て、あとから遡ったりしています。
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