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國分功一郎×宇野常寛 特別対談
「哲学の先生と未来の話をしよう」前編
(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.1.22 vol.500
http://wakusei2nd.com

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毎週金曜は「宇野常寛の対話と講義録」と題して、本誌編集長・宇野常寛本人による対談、インタビュー、講義録をお届けしていきます。
今回は、現在イギリスに留学している哲学者・國分功一郎さんとの対談です。右派・左派陣営共に旧来的な勢力が復活しつつある世界的な趨勢の中で、イギリスから見える日本の状況、さらには政治的なコミットの可能性について議論しました。

毎週金曜配信中! 「週刊宇野常寛」過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。

▼プロフィール
國分功一郎(こくぶん・こうちいろう)
1974年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。高崎経済大学経済学部准教授。専攻は哲学。著書に『暇と退屈の倫理学 増補新版』(太田出版)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『統治新論』(共著、太田出版)、『来るべき民主主義──小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(幻冬舎新書)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波書店)など。現在、英国キングストン大学に留学中。

◎構成:鈴木靖子


宇野 ロンドンから哲学者の國分功一郎先生にスカイプでご参加いただいての特別対談、「哲学の先生と未来の話をしよう」です。國分さん、ロンドンはどうですか?

國分 ゆっくりできて、充実した時間を過ごしています。2015年、日本はいろいろ大変だったみたいだけど。

宇野 たしかに、2015年の日本はネガティブな話題が多かったですが……。國分さんからは事前に「イギリスの政治の話がしたい」というリクエストをいただいているのですが、それはあまり日本の話題はしたくない、ということだと思っているのですが。

國分 いや、今年イギリスで起きたことは、今の日本の問題と強く関係していると思っていて、そのために少しイギリスの話をしたいと思ったんだよね。イギリスは2015 年5月に総選挙があったんですよ。俺は4月にロンドンに来たから、ラッキーなことに1ヶ月間の選挙戦も選挙の投開票も見ることができた。どういう選挙だったかと言うと、野党の労働党が大負けしたんですよね。
 労働党というのは皆さんご存じのトニー・ブレアが党首を務めていた党です。トニー・ブレアは2003年、アメリカのブッシュと手を組み、イラクへの軍事介入を始めた首相ですね。今回の選挙の時の労働党党首はエド・ミリバンドという人でしたけど、やはり労働党はブレア的なものから脱却できていなかった。そしてそれが完全にダメ出しされたわけです。ブレア的なものへの反省を踏まえたビジョンを示せなかったわけですね(スコットランド国民党という地域政党の躍進も労働党大敗と大きく関係しているんですが、今日はその話はやめておきます)。
 面白かったのはその後で、労働党はもうしばらくダメだと思われたんだけど、選挙後の党首選に66歳の「ハード・レフト」、ジェレミー・コービンという人が出てきたんです。最初はイロモノ扱いだったんですよ。「あんな古い左翼、どうせ電波だろ」ってみんな思ってた。ところが選挙戦が進むにつれて、どんどん人気が高まって、結局、半数以上の票を獲得して党首の座についた。コービンを支持したのは、主に若者だったと言われていて、彼らが党員になったので、労働党は党員の数も大幅に増えた。野党の党首に過ぎないというのに、今でも新聞やテレビでコービンについての報道は絶えません。もちろん批判も多いんだけど、それだけ世間の注目を集めているということです。
 ブレア的なものというのは、左派の労働党であろうとも、必要があればアメリカと一緒に戦争もするという「現実主義」ですね(もちろん、軍事介入の口実であった大量破壊兵器はなかったんで、実際には“現実”主義でも何でもなかったわけですが。イギリスでは、2016年の夏に詳細な「イラク戦争報告書」が公表されるということで話題になっています。ブレアの責任を問うことになる公的な文章で、7年の歳月と1000万ポンド(約18億円)の費用をかけて作成した、200万語にも及ぶ長大な報告書です)。それが徹底的に批判された後で、「ハード・レフト」、古いタイプの左翼的なものがものすごい人気を集めるようになった。この状況は日本の状況と非常によく似ていると思うんですよ。日本も共産党の人気が明らかに高まっている。政権が極右化しているからなんですが、世論では左翼的なものへのシンパシーが強くなっている。

宇野 戦後的な保守と革新が、びっくりするくらい息を吹きかえしていますね。

國分 完全に復活しているわけでしょ。左翼的なものへの共感の高まりについて指摘しないといけないのは、この力の舵取りは非常に難しいだろうということです。その際にジェレミー・コービンが参考になるのは、ハード・レフトとしての主張を掲げつつも、党内運営とか世論への訴えかけをそれなりにうまくやっているんですよ(シリアのイスラム国への爆撃の賛否を巡っては党内から大量の造反者がでるとか、核兵器に対する考え方の違いから年明けに早速シャドウ・キャビネットを改造するなど苦労もしているんですが、あれだけ強い主張をしながら世間の注目も集めつつそれなりのまとまりを維持している。年末の補欠選挙でも労働党候補者が圧勝した。たいしたものだと思います)。日本の場合、これは印象論ですけど、主張は強くなる一方、うまく落としどころを見つけて勢力をまとめるという動きがうまく作れていない。今、問題になっている選挙協力が典型でしょう。


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