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【後編】〈デザイン〉としての立体玩具
――レゴ、プラモデル、ミニカー、鉄道模型
(浅子佳英×門脇耕三×宇野常寛
「これからのカッコよさの話をしよう」vol.5)
――レゴ、プラモデル、ミニカー、鉄道模型
(浅子佳英×門脇耕三×宇野常寛
「これからのカッコよさの話をしよう」vol.5)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.7.24 vol.373
本日は、好評の鼎談シリーズ「これからのカッコよさの話をしよう」第5弾の後編をお届けします(前編はこちらから)。今回は、奇形的な進化を遂げた立体玩具の「フィクショナルなデザイン」をヒントに、ドローンや車など「リアルのデザイン」の未来を考えていきます。
▼「これからのカッコよさの話をしよう」これまでの記事
▼プロフィール
門脇耕三(かどわき・こうぞう)
1977年生。建築学者・明治大学専任講師。専門は建築構法、建築設計、設計方法論。効率的にデザインされた近代都市と近代建築が、人口減少期を迎えて変わりゆく姿を、建築思想の領域から考察。著書に『シェアをデザインする』〔共編著〕(学芸出版社、2013年)ほか。
浅子佳英(あさこ・よしひで)
1972年生。インテリアデザイン、建築設計、ブックデザインを手がける。論文に『コムデギャルソンのインテリアデザイン』など。
◎構成:有田シュン、中野慧
■ 80年代以降、日本のサブカルチャーは「ベースデザイン」を生んでいない
宇野 僕が今日考えたい3つの論点を振り返ると、まず一つ目は「20世紀には現実の縮小を欲望していた人類が、21世紀にそれらを欲望しなくなっていったのはなぜか」。二つ目は、こうした戦後日本の、特にキャラクター文化のベースデザインが60年代から80年代に集中しているのはなぜか。そして最後の三つ目が、「戦後的な男性性の問題が解消された結果として、奇形的な進化を遂げたデザインをどう評価するか」です。
浅子 一つ目と二つ目については、やっぱり「未来に対する明るい希望を信じられた時代だった」という部分が大きいんじゃないですか?
宇野 例えば、成田亨により60年代に生み出されたウルトラ怪獣って、ストレートに明るい未来を信じるフューチャリズムの感覚とつながっているとは思えないわけですよ。ウルトラマンの方の造形はフューチャリズムと結びついていると思うけれど、怪獣には当てはまらない。むしろ戦後復興から高度成長への狂騒の中で発生したひずみや余剰が、サブカルチャーの片隅に集中していたと考えた方がいい。もっと大きな、社会と暴力のイメージや男性性の関係の問題があると思うんですよね。それも、かなり日本ローカルな問題がある。戦後的ネオテニー・ジャパンの表現が幼児的な文化を発展させた、といった教科書的な解説には収まらないものが、ゼットンにもキングジョーにもジャミラにも恐竜戦車にもあると思う。
浅子 僕がもうひとつ気になるのは、三つ目の「奇形的な進化」が、なぜ現実におけるプロダクトデザインも含めた「デザイン」全体の本流にはならなかったののか、という問題です。
70年代末の『ガンダム』がベースデザインとなりえたのは、後になってフォロワーがどんどん出てきたからですよね。同じように、ウルトラマンで言えば成田亨がウルトラマンをスケッチブックに描いた瞬間にベースデザインになったのではなく、その後のフォロワーが生まれていく過程で、徐々にベースデザインとなっていったのだと思います。
話を少し迂回しますが、建築デザインの世界では、ここ50年くらいのあいだ、「建築家から新しい都市のヴィジョンが提案されて盛り上がる」ということがほぼなくなりました。キャラクターデザインも同じで、蛸壺化された社会では、誰かが提示した新しいヴィジョンを、みなで広く共有することができなくなったいうことでもあるんじゃないですか。
門脇 ベースデザインという意味で示唆的なのは、アノマロカリス(古生代カンブリア紀前半に繁栄した捕食性動物)に代表されるバージェス動物群です。バージェス動物群には、口がカメラのシャッターのような機構をした動物など、それ以降の時代には見られないデザインをした変な生物がたくさんいるんですね。そのベースデザインの多様さは圧倒的なのですが、その後、たまたま脊椎動物に連なる生物が生き残って、両生類や爬虫類、哺乳類のベースデザインになりました。
▲バージェス動物群の代表格のひとつ「アノマロカリス」(【最強最大の捕食者】アノマロカリスという大スター【カンブリア紀の覇王】 より)
脊椎動物が5本指をしているというのは、最初に両生類の指が5本になって、それ以降は基本的にまったく変化していないんです。1回ベースデザインができてしまうと、そのベースのなかで進化していくわけです。しかしベースデザインができる前は、バージェス動物群のようにそもそものベースデザインのバリエーションがたくさん出てきていた。さらに言えば、脊椎動物系が生き残ったのはあくまでも偶然であって、合理的な選択の結果ではないんです。
こうして考えていくと、「60~70年代はベースデザインのない時代だった」と言えるかもしれません。だからこそたくさんの実験的なデザインが花開いたのではないか、と。たとえば『ウルトラマン』なら、隊員が巨大化して怪獣と戦うという新しいベースデザインがここで生み出されたということではないでしょうか。
浅子 ベースデザインとして残ったものが、必ずしもプラットフォームとして優れていたわけではないということですよね。
宇野 たしかに、ジャンルの勃興とともにベースデザインは生まれるものなんですよ。特撮が生まれたから成田亨のベースデザインが生まれ、乗り物としてのロボットが発明されたからこそガンダムがベースデザインになった。要するに「近年はジャンルを作ることができていない」ということに収斂されていくんじゃないですか。
60~70年代にアメリカのサブカルチャーの受容とそのローカライズに基本作業は完了してしまっていて、それ以降サブカルチャーはベースデザインの枠内での進化を遂げていったわけです。80年代以降にジャンルそのものとして新たに生み出されたものは「テレビゲーム」ぐらいしかない。
浅子 しかし、そう考えると、特撮はこれまで人間が怪獣の着ぐるみに入っていたものが、CG全盛に変化したんだから、全く違うものが生み出されていてもおかしくないですよね。にも関わらず、新しいものが出てきていないのはなぜなのでしょう?
宇野 技術の進歩とジャンルの創出は、それほど相関していないんじゃないかと思います。円谷英二が『ウルトラマン』を撮影したときの特撮の技術はほぼ戦中に開発されていて、その技術を「テレビ番組として毎週一本作る」というフォーマットに合わせてはじめて『ウルトラマン』が生まれた。ジャンルの創出には技術の進歩よりもむしろ、メディア的な要請のほうが要因として大きい。
浅子 海外の映像業界で言えば、特に『24』以降、「テレビドラマ」がこれまでとは違う意味で勃興してきたと言えるとは思います。だけどテレビドラマという形式自体は昔からあるものなので、現代のテレビドラマの特徴は、予算や時間など様々な制約のために映画ではできないことを、テレビドラマという旧いフォーマットを再利用して新しい表現形式でやっている点にある。ただ、これだけでは「ジャンルを生み出した」とまでは言えないですよね。
門脇 ベースデザインを変えるのはものすごくエネルギーが必要ですが、今あるベースを開発側が改変し、二重三重にひねくれたストーリーを考えて、各世代の好みに合わせていく「コンテンツデザイン」は比較的エネルギーが少なくて済むというのはあるんじゃないですか。ハリウッドの映画と海外ドラマの関係もそうですし、もともとのロボットアニメである『ガンダム』シリーズと、その奇形的進化であるSDガンダムの関係などもそうなんじゃないかな、と思います。
■ キャラクターを現実の風景と対決させることによってベースデザインが生まれる
門脇 初期の『ガンダム』のモビルスーツは兵器であるという側面が強くあったと思うのですが、SDガンダムはそのエッセンス自体もなくなっていて、ベースとして残っているのは人型のロボットということくらいですよね。
宇野 ガンダムってそもそも基本的には重火力型ではなくて、高機動型でスマートなんですよ。つまりストレートにマッチョで力強いものではなく、むしろスピード重視の高機動なもので、これって日本人の文化的でインテリ寄りの男性の自意識に結びついていたと思うんです。
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なぜゲーム産業はIT産業ではないのか(稲葉ほたて『ウェブカルチャーの系譜』第6回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.372 ☆
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