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【新連載】市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第1回「元祖・フィジカルエンターテイナーとしてのYOSHIKI」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.338 ☆

2015/06/05 07:00 投稿

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【新連載】市川哲史×藤谷千明
『すべての道はV系に通ず』
第1回
「元祖・フィジカルエンターテイナー
としてのYOSHIKI」
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.6.5 vol.338

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本日は、新連載の第1回をお届けします! テーマは、「ヴィジュアル系(V系)」。
90年代の黄金期にアーティストたちとシーンを並走した音楽評論家の市川哲史さん、そして現代のヴィジュアル系に詳しいライターの藤谷千明さんの二人で、過去と現在を往復しながらこの日本独自のポップカルチャーの本質を考えていきます。

 
■ はじめに
 
 「ヴィジュアル系 (ビジュアル系)」という言葉が誕生して四半世紀以上が経ちました。そもそもこのジャンルが世の中に認知され始めたのは〈1990年〉前後だと言われています。プログレ&ニューウェイヴ雑誌だった『フールズメイト』(13年に休刊)がXやBUCK-TICKといった”ヴィジュアル系”バンドを中心にした編集方針へと大きく舵を切り、”ヴィジュアル系”専門誌『SHOXX』(音楽専科社・現在も刊行中)が誕生した年です。その後、奇抜な衣装やメイク、独特の美学や世界観をもったロックバンド”が世間的にも注目され始め、シーンが形成されていきました。
 〈ヴィジュアル系の始祖鳥〉といわれるBUCK-TICKがメジャーデビューしたのが、1987年。そして89年にX(92年にX JAPANに改名)が、92年にLUNA SEAが、94年に黒夢やL’Arc~en~Ciel、GLAYが続々とメジャーデビューしていきます。
 そして97年にSHAZNAがメジャーデビューと共に大ブレイクし、「ヴィジュアル系ブーム」はピークを迎えます。ちなみにヴィジュアル系が「新語・流行語」にノミネートされたのもこの年です。
 
 どのバンドも100万枚単位でアルバムを売り、ドーム公演はもちろん10万人以上の観衆を集めるライヴまで次々と実現させました。しかし97年12月にX JAPAN、00年12月にLUNA SEAが解散(※LUNA SEAは「終幕」と表現)していく中、徐々にブームも沈静化したーーというのが「世間一般」の”ヴィジュアル系”認識ではないでしょうか。
 思えば98年5月、X JAPANのギタリストでシーンの牽引者でもあったhideが急逝したことも、象徴的な出来事だったと言えます。
 
 「もう”ヴィジュアル系"は終わった」という人もいる一方で、今日も都内のライブハウスでは新しい”ヴィジュアル系”バンドと、それを求める沢山の女の子(と少数の男の子)がライブに熱狂しています。
 また、この十数年の間にヴィジュアル系バンドの海外公演も当たり前になりました。単発ライブはもちろんのこと、ヨーロッパからアジア、南米まで回る長期ツアーに行くアーティストも少なからず存在し、Instagramなどで「JROCK」と検索すると出てくるのはtheGazettEなどのヴィジュアル系バンドが目立ちます。他ジャンルのアーティストの海外進出がニュースになるなかで、それより以前から成功していたヴィジュアル系については、あまり国内メディアから注目を浴びないまま、海外での人気を拡大しているといういびつな状況も起こっています。  
 
 ”ヴィジュアル系”といってもいまだに定義は曖昧ですし、X JAPANとゴールデンボンバーの映像を並べるだけでもそのカテゴリーのおそるべき広さは理解できると思います。
 
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 そして”ヴィジュアル系”という言葉を積極的に使うメディア、アーテイストもいれば、逆にその言葉を使うことに慎重になっているケースもいまだに存在します。
 
 この四半世紀、”ヴィジュアル系”は存在しているのに、そのシーンの総体を語ろうという試みはほとんど行われてきませんでした。そこでこの連載では、ヴィジュアル系黎明期〜黄金期にアーティストたちとシーンを並走した音楽評論家の市川哲史氏とともに、過去と現在を往復しながら、”ヴィジュアル系”という日本独自のポップカルチャーの本質を考えていこうと思います。(藤谷千明)
 
▼プロフィール
市川哲史(いちかわ・てつし)

1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント!」などで歯に衣着せぬ個性的な文筆活動を展開。最新刊は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)。

藤谷千明(ふじたに・ちあき)
1981年山口生まれ。思春期にヴィジュアル系の洗礼を浴びて現在は若手ヴィジュアル系バンドを中心にインタビューを手がけるフリーライター。執筆媒体は「サイゾー」「Real sound」「ウレぴあ総研」ほか。
 
 
■「V系の文化史」を語るために
 
藤谷 この連載を始めるにあたって、ヴィジュアル系の歴史を語っていくとしたら時系列でやっていくのが普通だと思います。たとえば「ヴィジュアル系シーン」が成立したの90年前後だと言われていますが、その前段階としてはメジャーシーンにBOOWY、ジャパメタ(ジャパニーズ・メタル)シーンにはDEAD END……だったりが固有名として挙げられるわけですよね。
 でも90年以前の「ヴィジュアル系前夜」の時代って、「BUCK-TICKが人気ある」とか「Xはジャパメタとして人気がある」というかたちで個々のバンドとして認識されているのに留まっていて、「ヴィジュアル系シーン」というものはまだ輪郭がハッキリしていなかったんじゃないかと思うんです。

市川 たしかにV系を通史として語るのは難しい、というかあまり意味がない(苦笑)。たとえばBUCK-TICKは〈V系の始祖鳥〉として崇められてるけど、そもそも彼らが現われたときV系なんて存在しなかったし、本人たちもV系の自覚はないし、世間的にも「チェッカーズに続くアイドルバンド!」的な捉えられ方だったから(失笑)。文脈も何もあったもんじゃないよねぇ。
 それよりは、「90年代にはヤンキー文化の最新型だったはずのものが、現在ではオタク文化の象徴になっている」という、V系の特異なスタイルと本質についてしっかりと語ったほうがいいと思う。「日本人はヤンキーとオタクに二分できる」じゃないけども、その両極端をこの30年間で渡り歩いているという、他に類を見ないストレンジなポップカルチャーですから。だははは。

藤谷 そもそもヴィジュアル系の成り立ちって「80年代に文化系の人たちがやっていたゴシックだったりニューウェーブの耽美の園にヤンキーがズカズカ踏み込んできた」という側面が強いですよね。

市川 そう。80年代後半、東京には繊細な耽美系のロックが存在してたんだけども、そんな文科系特有の感性と知識で丹念に手入れした花壇を、ヤンキー的感性でドカドカと土足で踏み荒らして蹂躙したのがV系。外来文化ならではの繊細で粋なスタイル性を「ウチの美学が最高だから、矛盾上等!」的なアバウトさで駆逐したところ、踏み荒らした花壇の土壌が逆に強くなり、新たな雑草や毒々しい花々を大量に咲かせちゃったんだね。

藤谷 身も蓋もない言い方ですね(苦笑)。

市川 「闇」とか「絶望」とか「破滅」とか「堕落」とか「破壊」とか、要するに〈ネガティヴィティーの大博覧会〉状態なのに、具体的な美意識はサウンド同様ひたすら過剰な〈足し算の論理〉だった。その発想はやはりヤンキー的だし、その大雑把さというか勘違い具合が日本人ならではで、素敵だったわけです。
 そんなヤンキー文化直系だったはずのV系がなぜ、オタク文化の象徴へと変容していったのか考えると、要するにアーティスト本人たちが自発的に変わったというより、おそらくファンの子たちがどこかでチェンジしたから。それに合わせて、出てくるバンドも変わっていったんじゃないかと思う。本末転倒だけども(失笑)。

藤谷 そうですね。市川さんはヴィジュアル系の草創期から90年代の黄金期に評論家兼呑み仲間として彼らに接してきて、私は00年代〜10年代の最近のバンドを取材していますし、現役のバンギャルの友人も多いので、この連載ではそういった環境の変化について相補的に語っていければと思います。
 
 
■ 2.5次元演劇とフィジカル・エンタ
 
藤谷 ヴィジュアル系という文化をきちんと語るためには、今で言う「2.5次元」の感覚が大事だと思っているんです。いわゆるネオヴィジュアル系以降のバンドって衣装ひとつとっても「キャラっぽさ」が顕著じゃないですか。昨年フランスのJAPAN EXPOに行ったんですが、アニメ中心のイベントということもあって現地のファンはアニメキャラと同列にV系ミュージシャンをみてるような印象を受けたんです。
 たとえば最近だと己龍(きりゅう)というバンドが面白いと思っていて、今度武道館でライブをやるんですよ。近年の若手ヴィジュアル系バンドで武道館公演をやったのはゴールデンボンバー(12年に初公演)くらいですね。
それぐらいにヴィジュアル系バンドにとってハードルが高い場所になっていたなかで、これは快挙と言っていいと思います。
 
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市川 現在54歳のおっさんには、アニメの実写版にしか見えない(愉笑)。

藤谷 正確には「和製ホラー・痛絶ノスタルジック」というコンセプトです。先ほどおっしゃっていたように「ヤンキーからオタクになった」ということも影響していると思いますが。
 ここ数年で、ミュージカル「テニスの王子様」や舞台「弱虫ペダル」(以下ペダステ)といった「2.5次元演劇」はすっかり人気ジャンルとして定着しました。俳優さんやキャラクター人気だけではなく、ロードバイクやテニスを舞台上でいかに表現するかということがよく考えられているんですね。
 
▼参考記事
 
市川 あのー、その「2.5次元感」ってよくわかんないんだけども、最近やたら増えてきたいわゆる生身のリアリティーが希薄な映画やドラマ、みたいなあの感じ?(焦笑)。

藤谷 まあ、遠くはないです(笑)。要は、ヴィジュアル系の文脈でいうとゴールデンボンバーがわかりやすいんじゃないかと思います。彼らも、「演奏していない」のに、どうやって生のドラマを生み出すかにものすごい労力を注いでいる。ゴールデンボンバーのライブで歌広場(淳)さんが弦の一本無いベース抱えてヘドバンしたり、喜矢武(豊)さんが身体を張って熱湯風呂に入っていたら、爆笑しつつもなぜか心が動かされますよね。
 
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 たとえば『ペダステ』もハンドルしかない状態なのにロードバイクを漕ぐ演技、つまり中腰で足踏みをずっとしている状態だから、汗がダラダラ落ちてきていて、そこに説得力が宿る。2.5次元的な感覚って単にアニメやマンガのキャラの格好をしてる舞台のことではなくて、キャラクターを生身の人間が引き受ける過程のことだと思うんです。
 

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