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「国民的RPG」シリーズが迎えた曲がり角
〜『FFX』『キングダムハーツ』
『ドラクエVIII』
(中川大地の現代ゲーム全史)
〜『FFX』『キングダムハーツ』
『ドラクエVIII』
(中川大地の現代ゲーム全史)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.5.1 vol.315
本日は、隔週掲載となった「中川大地の現代ゲーム全史」最新回をお届けします。PS2が登場した2000年代前半、『FF』『ドラクエ』という二大タイトルはどのように変わっていったのか? 北米市場との関係、オンラインゲーム化や表現手法の変化のゲーム史的位置付けを考えていきます。
「中川大地の現代ゲーム全史」
第9章 和ゲー成長期の終わり/二極化してゆくゲーム産業
2000年代前半:〈仮想現実の時代〉終期(4)
前回までの連載はこちらのリンクから。
■『FFⅩ』の到達点と北米圏へのハイブリッド・アプローチ
一方の『FF』シリーズもまた、『ドラクエVII』とは別の意味で臨界を迎えつつあった。プレステ移行ののちはリリーステンポがさらに上がり、『VII』『VIII』『IX』とほぼ毎年のようにナンバリングタイトルが発売されていった勢いは衰えずにプレステ2にも流れ込み、ハード発売の翌01年という最適なタイミングで『X』が発売されるに至る。
▲『ファイナルファンタジーX』スクウェア、2001年
プレステの命運を決定づけた『VII』の制作陣が手がけた『X』は、プレイヤーと主人公とを演出的になるべく一致させようとする「自分の物語」志向の『ドラクエ』シリーズとは対照的に、「他人の物語」に寄り添わせるシリーズ特有の手法をさらに洗練させていく。
『Ⅶ』では主人公クラウドが、プレイヤーに隠された過去の記憶が物語中盤で暴かれていくというかたちで、「自分自身が知らない主人公の秘密」を探求するシナリオ構造を特徴としていたが、『X』では主人公ティーダがいきなり物語冒頭で元いたザナルカンドの世界から別の世界スピラに飛ばされるという構造で、プレイヤーにとって未知の世界を旅するという立場を重ね合わせた。シリーズで初めて声優による台詞芝居が導入され、状況への心象を語る主人公のモノローグが多用される演出が採られたこともまた、元の世界とは異なるルールが支配する異世界への戸惑いや、出会った仲間たちとは共有できない心情をプレイヤーにだけ伝える効果を生んだ。
こうしてプレイヤーの立場をティーダという独自の内面を抱える主人公に寄り添わせる一方で、ティーダには旅の能動的な主体者ではなく、スピラ世界を悩ませる自然災害に似た脅威である「シン」を調伏する使命を負った大召喚士を目指すヒロイン・ユウナのガード役という従者の立場が与えられ、異世界人の立場で事件を観察していく視点を得ることになる。これにより、一本道のシナリオを歩まされる立場をストレスにせず、むしろ主人公の心情にプレイヤーを二重の意味で同期させて臨場感を高めるストーリーテリングに昇華させた点は、本作が見せた円熟味であった。
かくして、「異世界人であるティーダだけが知らないスピラの悲しい理」として、歴代の大召喚士にはシンを完全に倒すことはできず、自らの命を捧げる究極召喚によって数年から数十年単位でのシンの不活動期間である「ナギ節」を得られるばかりであるという真相が、物語中盤でティーダに知らしめられることになる。善悪を超越した仏教的な生老病死の象徴とも言えるようなシンの存在感や、その対処のための循環的な人身御供の必要性を説くエボン教の設定など、ここで示されるアジア的・民俗学的な世界観は、従来のRPGで表現されてきた文芸性の水準を大きく超え出るものだ。
その上で、シナリオはティーダとユウナの恋愛を描きつつ、シンによる死と破壊への一定の諦念を説くエボンの因習を克服し、シンの完全打倒を目指すという近代的な解決の模索へと導かれていく。そしてそのための道を探る主体として、それまで状況の客体だった異世界人ティーダが物語を牽引する立場になるのに加え、彼の出自をめぐる謎がクローズアップされていき、最終的には「相手を慮って真実を隠しながら自らが犠牲になる」側が入れ替わるという作劇で、悲恋と世界の救済を儚く描ききるものになる。
元々の『FF』シリーズの作品性は、海外RPGのシステムやハイファンタジーの意匠題材のうちから『ドラクエ』が採り入れていない先進的な要素の先取りを重ねつつ、1980年代以降の日本アニメや少年漫画などの作劇パターンを採り入れていくというパッチワークの積み重ねによって進歩してきた。ここで『Ⅹ』に至っては、シリーズを通じてのテーマやモチーフをアレンジして突き詰めていくうち、RPGという語りの様式と作劇内容とが高度に調和させた、日本発のオリジナル・ファンタジーとしての、ひとまずの到達点に達したと言ってよいだろう。
そして『VII』以来、3DCGによるムービー演出を追求してきた『FF』の攻勢は、ついに純粋な映像作品の制作にまで至る。『X』発売後の01年中に、シリーズ産みの親である坂口博信を監督に、フルCG映画『ファイナルファンタジー』を日米で公開。ピクサーが1995年の『トイ・ストーリー』を公開して以来、アニメーション映画のカテゴリーではフルCG作品が登場していたが、生身の人間の役者を置き換える質感での実写的なフルCG映画は、世界初の試みであった。
それまでの邦画では、高度な特殊効果(SFX)を活用したスペクタクルなハリウッド映画のような表現をどうしても技術的・予算的に実現することができず、日本映画の積年のコンプレックスであり続けてきた。しかしゲーム作品のムービーCGによって、プレステ時代には『バイオハザード』や『メタルギアソリッド』シリーズのような〝和製洋画〟とも呼べる表現が成立していた。このスタイルの延長線上に、フルCGでならば役者の人種の壁も超えることができるし、本当に日本発で成立するハリウッド映画が作れるのではないか。そうした蛮勇を実行に移したのが、ファミコン時代から「映画的」な表現を追求してきた『FF』シリーズだったわけである。
しかしながら、その意気込みとは裏腹に、過去の『FF』から星の生命エネルギーやシドという人物名といったモチーフを再構築しつつ、地球外生命体との戦いを描くSF作品として制作された映画『ファイナルファンタジー』は、記録的な興行的失敗を遂げることになる。先行する〝和製洋画〟系のゲーム作品と同様、本作はアメリカ映画的な見かけの質感のもと、日本アニメ的なキャラクター表現やストーリーテリングを盛り込んだものとなったが、それが中途半端なパッチワークに終始したためだ。
基本設定を描写しきれない構成の失敗や、最終的に『ナウシカ』『マクロス』など1980年代に流行したエコロジカルな平和主義的解決に落とすなどの未成熟なシナリオは、ハリウッド映画の工学的に構築されたエンターテインメントの快楽原則の域に遠く及ばず、日本ゲームの挑戦は夢と終わる。奇しくもアメリカと日本での公開の合間の時期に9.11テロが起こったことは、本作が描いた価値観の無効を残酷に宣告するかのようでもあった。
結局のところ、この映画の興行的失敗が響き、スクウェアはエニックスとの合併を余儀なくされるのである。
▲FINAL FANTASY ― ファイナルファンタジー ― (スタンダード・エディション) [DVD]ミン・ナ (出演), アレック・ボールドウィン (出演), 坂口博信 (監督)
映画でこそ失敗した『FF』だったが、翌02年、スクウェアはアメリカ文化との融合を図る、また別のアプローチを行っていた。アメリカのキャラクタービジネスの雄であり、日本産コンテンツの古くからの範でもある、ディズニーキャラクターとのコラボレーションを成し遂げた3DアクションRPG『キングダムハーツ』であった。版権管理のハードルがきわめて高いディズニーだが、本作ではドナルド・ダックやグーフィーといったキャラクターたちが、野村哲也デザインのオリジナルキャラクターや『FFVII』のゲストキャラクター陣と共演し、『FF』的なトーンの複雑でシリアスな世界の危機に立ち向かうという、シュールないでたちのハイブリッドが実現。北米市場でも成功を果たし、人気シリーズ化していくことになる。
これは『FF』ブランドの世界展開にとってみれば、映画での失敗を返上し、アメリカ的なキャラクター意匠を拝借しながら日本的なストーリーテリングの中に活かす手法が奏効したケースだと言えるだろう。
▲『KINGDOM HEARTS(キングダム ハーツ)』スクウェア、2002年
■『FF』『ドラクエ』の大転換
一方、『FF』ナンバリングタイトルのリリース・ペーストは衰えることなく、同じく02年には、シリーズ初のオンライン対応タイトルとなる『Ⅺ』が発売される。ちょうどアメリカの元祖二大RPGシリーズとして『ウィザードリィ』と双璧をなす存在だった『ウルティマ』がMMO−RPGの時代を切り拓いていったのと同様、コンシューマー機で発売される初の本格的な大人数同時参加型のオンラインRPGとしての役割を、『ドラクエ』に先んじて果たすことになる。
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