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ハイカルチャーからポピュラー文化まで、
「カルチャーを横断的にみる」ことは可能か?
(『石岡良治の視覚文化「超」講義外伝』第3回)
「カルチャーを横断的にみる」ことは可能か?
(『石岡良治の視覚文化「超」講義外伝』第3回)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.4.17 vol.306
本日は、”日本最強の自宅警備員”こと批評家の石岡良治さんによる連載『視覚文化「超」講義外伝』の第3回をお届けします。今回は石岡さんが著書『視覚文化「超」講義』で挑んだ課題でもある、ハイカルチャーからポピュラー文化まで、「カルチャーを批評的にみる」ということの現代的な困難について解説していきます。
「石岡良治の視覚文化「超」講義外伝 」これまでの連載はこちらのリンクから。
※本連載は、PLANETSチャンネルニコ生「石岡良治の『視覚文化「超」講義』刊行記念講義」(第1回放送日:2014年7月9日)の内容に加筆・修正を加えたものです。
■ 『「超」講義』は当初、「ポピュラー文化入門」というタイトルだった
前回までは『視覚文化「超」講義』のメタ解説が中心でしたが、ここからはオフレコ的なこぼれ話を織り交ぜて講義していきます。本書を本文通りに扱っていくことも可能なのですが、本書に書いていないことも、次回以降は扱っていこうと考えています。
本書では年代の話を直接的には語っていません。
50〜60年代は第2〜3回で語っています。この時代は動画・視覚イメージ的にいえば「テレビの時代」です。それも録画不可能な「テレビの時代」です。
70〜90年代は第3〜4回で語っています。ここはメロドラマ・ホビー・ゲームを扱っています。ここは「ビデオの時代」と考えます。いわゆるサブカル厨の「ノスタルジア」の由来は、DVD以前のビデオテープの時代です。ビデオテープはBlu-rayやDVDと異なり、何百回と視聴することで磨耗し観れなくなるんですね。したがって、この時代はアナログメディアの時代とも言えます。
00〜10年代については第4〜5回で語っています。人文分野では扱われることがあまり多くないミリタリー問題について、少し踏み込んで書いています。要するに人文系の芸術論・文化論ではミリタリーは扱いにくい題材だということです。兵器や軍隊を「ホビー」として愛好するまなざしですね。しかし、アニメを考えるときにミリタリー要素は無視できません。これを『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士 ガンダム』『新世紀 エヴァンゲリオン』問題として扱っています。この時代は「ネットの時代」です。
このようにユニットを設定しながら、第2〜3回、第3〜4回、第4〜5回と重なりながら少しずつ現在に近づく系列を作っています。本書がこういう構成になった理由の一つとして、複数のストーリーを脳内に走らせたがるという、私の性格が影響しています。文章ではこのようなことは上手くいきにくいんですね。複数のストーリーラインを同時に走らせようとする結果、悪文になってしまうからです。でも、本書では、時代や分野の問題など、複数のプロットを同時に走らせるつもりで書きました。物語的な文章の進行力も今後身に付けたいと考えています。「あとがき」にも本書には課題がたくさんあると書いてありますが、執筆中に私自身が色々と学びました。自分disメモをつけたりしましたね。時々その通りの批判がきたときには、やっぱり落ち込みますが、備えはできていた感じです。「散漫で浅い」みたいなのですね。
この講義では、そうしたあたりを補いながら語っていきたいと思います。有料会員の方にはより具体的なリクエストを後で受けつけていきたいと思っています。
さっそく話したいことは、「あとがき」に書いている話で、ここについてもう一度簡単に話したいと思います。集中講義を紙面で行うというのが本書のコンセプトです。ただし、私の屈折した考えもあって、本書をいわゆる学問分野の本にしたくはありませんでした。あえて学問の分野で定義するならば、表象文化論になります。私は人に「何の専門家であるか?」と問われると言葉に詰まるところがあるんですが、このような正直な心境もこの本には影響しています。
プロフェッショナルとアマチュアの区別があります。私は本書で扱っている分野のほとんどについてプロフェッショナルではないと思っています。私はアマチュアという言葉は良い意味で使えると思っています。アマチュアという言葉には「愛好家」という意味合いもあるからです。しかし、「プロ意識の欠如」のような甘えとしてはアマチュアを名乗りたくないです。
もう一つ、想定読者についても考えました。フィルムアート社ホームページでの動画では、高校生の私が欲しかった本と語っています。今高校生である90年代後半生まれの人が読んでくれるといいなという願望があります。高校生である私が好んで読み、大学生の私がdisるであろうバランスで執筆しました。つまり意識の高い大学生がdisるぐらいの感じが理想な感じです。ヌルくしているのではなく、削った要素の問題です。削っていった要素には、このままいったら雑誌「映画秘宝」系の雰囲気が生まれるかも、というものが多数あった。第2回の『BTTF PART.3』のウエスタンの世界の話で、マカロニ・ウエスタンというジャンルそのものの話を延々議論することを当初考えていました。しかし、これを全部削りました。『ジャンゴ 繋がれざる者』のレオナルド・ディカプリオの悪役ぶりがジェームズ・キャグニーに似ていた、みたいな話を延々していました。
『BTTF』のテーマソング『The Power Of Love』のダサい感じが私は大好きです。
この曲を演奏するヒューイ・ルイス&ザ・ニュースは、サブカルオタに時に盛大にdisられます。『アメリカン・サイコ』という映画で、クリスチャン・ベールがバブル期の広告代理店に勤める嫌なヤツの役を演じていますが、彼は劇中ヘッドホンで気持ちよさそうにヒューイ・ルイス&ザ・ニュースを聴いています。殺したい相手を部屋に招いて、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのアルバム『スポーツ』のうんちく話を述べる。バブル経済のもっともくだらないカルチャーに、役職の名だけの副社長の空疎なポストモダントークが混ざる、というネタなんですが、こういう話題についても語っていました。とはいえ私は秘宝系ボンクラ美学に違和感を持っています。全部が嫌いなわけではないけど、「ボンクラな俺」という自意識は批評性を失いやすいと考えています。
当初はタイトルも「ポピュラー文化入門・教科書」となっていたのですがが、入門とか教科書というのが嫌だったので削除しました。ハンドアウトとともに、パソコンを使用した動画および画像イメージの複窓講義をフィルムアート社で行いましたが、そこで重視したのは、ホビー分野がなぜ芸術・文化論で取り扱われにくいかということです。一部ホビーは国家主義に乗っかるものだったり、オカルトにありがちな非科学主義のようなものがあるので、取り扱いがクリティカルなんだと思うんですね。たとえばサブカルを扱うときに、「書泉」のフロアーの話はされない。これは現代の文化論の大きな隙間だと思っています。宇野常寛さんの『静かなる革命へのブループリント この国の未来をつくる7つの対談』の対談や、「ほぼ日刊惑星開発委員会」で宇野さんの色々な方へのインタビュー、このような話は現代の文化論に最も欠けている不可欠なパーツであると思っています。
本書のブックフェアでは、本文に登場しない本もいくつかあげています。ひとつが大見崇晴さんの『「テレビリアリティ」の時代』、本書はテレビドラマの話をあまりしなかったので載せるところがなくて削除しました。しかし、本書に載せたかった。ほかにアーネスト・アダムスとヨリス・ドーマンズの共著『ゲームメカニクス おもしろくするためのゲームデザイン』をあげています。この本はテクニカルな本なのですが、重要だと思っています。テレビゲームの研究は翻訳書があまりなかったので、ケイティ・サレンとエリック・ジマーマンの共著『ルールズ・オブ・ゲーム』しか紹介できなかったので、そのエッセンスをもう一歩先に進めている本として選びました。この2つの本が、本書から先に進めたいときに必要な本でした。最初の計画ではシューティングゲームの系譜について語ることも考えていんですね。東方プロジェクトなどについて、FPSの系譜を絡めながら色々語るつもりでした。しかし、この分野は端的に好きなので、クリティカルな部分が減ってしまうと考えました。
当初、本書は2300円の予定でした。発行部数を増やして200円価格を落とすという判断をフィルムアート社の方にしていただきました。リスクも大きかったのですが、なんとか重版が決まりそうです(2015年4月現在、三刷が出ています)。
もうひとつこぼれ話として、フィルムアート社ホームページの動画は21分バージョンと2分バージョンの2つが載っています。最初は7〜8分の動画1本と考えて即興撮りしたら、結果的に21分になってまいました。それで、この動画だけだと長いのでショートバージョンを撮ったところ、4分になってしまい、2、3回撮り直しました。見ていただければお分かりになると思いますが、ショートバージョンのほうはとてもすっきりしています。なぜかというとショートバージョンの動画はラストテイクだからです。ロングバージョンはファーストテイクです。
さきほどの繰り返しになりますが、私はディケイド区切りに意味を持たせたかったんですね。しかしそれは、ある時代について語るとき、別の人が語るとしたら別の歴史を語れるであろう、という考えからです。つまり、本書で語られるヒストリーがすべてであるという認識は持っていません。現代は情報が多いので、本書に載ってない方向からも歴史を語ることはできます。たとえば本書の「デロリアン」が「仮面ライダー」だったら、宇野さんの『リトルピープルの時代』のような本が出来上がる、といった感じです。
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