"もし現実にいたら"を具現化する力――造形師・竹谷隆之に聞く三次元の〈美学〉と可能性 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.295 ☆
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本日のメルマガは造形師・竹谷隆之さんのインタビューをお届けします。竹谷さんはフィギュア、映画美術などさまざまな原型を担当し、最近では庵野秀明さんプロデュースの「特撮博物館」(2012年〜)で巨神兵のコンセプトデザインを務め、2013年には3331アーツ千代田にて「竹谷隆之の仕事展」として個展も開催された造形界のトップクリエイター。サブカルチャーから出発し、現在ではアートの文脈からも注目を集める竹谷さんの創作の裏側に、宇野常寛が迫りました。
▼プロフィール
竹谷隆之(たけや・たかゆき)
1963年12月10日北海道生まれ。造形家。
卓越した造形力と、独自の解釈で描かれるデザイン力が高く評価されている。特に異形のクリーチャーや有機的なデザインのメカニックを得意とする。
モデルアート社を経て、1985年頃からフリーとして活動を始める。1994年から足かけ5年にわたり、モデル&ホビー雑誌『S.M.H.』誌にオリジナル作品『漁師の角度』を連載。 1999年には初の作品集『竹谷隆之作品集 漁師の角度』がホビージャパン社より発売され、翌年2000年には、渋谷パルコ3にて『竹谷隆之の仕事展 ~「仮面ライダー」から「漁師の角度」まで~』が併せて開催され、好評を博す。
現在は、映画、玩具、フィギュアなど様々な領域において活躍。 フィギュア原型は、『ファイナルファンタジーⅧ』、『エイリアン』、『プレデター』、『仮面ライダー』、『デビルマン』など多数。海洋堂の『百鬼夜行妖怪コレクション』、『妖怪根付』では、原型総指揮をつとめ、数々の日本妖怪を現代に甦らせた。 同じく海洋堂の『リボルテック・タケヤ』シリーズでは、著名な仏像を全身フル可動化してしまうという前代未聞の造形作品を現出させた。従来のデザインに竹谷流のアレンジを加えることによって、キャラクターの今までに無かった側面を浮き彫りにすることに成功している。また、『牙狼 〈GARO〉』など、映像作品の美術デザインの参加も多い。
近年では、2012年開催の『館長庵野秀明 特撮博物館』で上映された『巨神兵東京に現わる』の「巨神兵」のコンセプトモデルを制作して話題を集めた。2013年には、ライフワークとも言える『漁師の角度』の完全増補改訂版が講談社より発売されている。
2015年放送中の「仮面ライダードライブ」のクリーチャーデザインを担当している。
◎構成:有田シュン
◎取材撮影:小野啓
宇野 本日は僕の尊敬するクリエイターさんであり、初期『S.I.C.』からファンである竹谷さんにお会いできることをすごく楽しみにしていました。
▲『S.I.C.』シリーズの仮面ライダー旧1号。『S.I.C.』とは、バンダイのフィギュアブランド「魂ネイションズ」による、芸術美に焦点を当てたフィギュアシリーズ。98年からリリースされており、「キカイダー」や「仮面ライダー」が中心。造形界のトップクリエイターである竹谷氏や安藤賢司氏らによる、オリジナルのデザインをリスペクトしつつも大胆な解釈を加えた造形が特徴。
「S.I.C.VOL.7 仮面ライダー1号」http://tamashii.jp/item/26/
その他の「S.I.C.」シリーズについてはこちらのリンクから。
竹谷 ありがとうございます。
宇野 日本には造形師と呼ばれる人はたくさんいると思うのですが、竹谷さんのようにキャラクターデザイナーであり、造形師でもあり、でも人目に一番触れるのは映画美術的なお仕事……という風な独特の守備範囲で活動されてる方は意外といないのではないでしょうか。
竹谷 そうですね。特に「こっちをやりたい」とか「広げたい」というようなビジョンは若いときから全くなくて、たまたま知り合いから仕事いただいて、それをやってきたらこうなったっていうだけなんですが。知り合いにパワフルで才能の溢れる人が多かったので、その人たちに協力していただけなんです。
宇野 足場はあくまでも造形にあるという認識なんですね。
竹谷 はい。中にはデザインだけという場合もありますけどね。ただ、映像物でもなんでも、何かを作るためのデザインをすることが多いです。僕はあまり自分の才能を信用してないので(笑)、「なぜコンスタントに仕事をいただけてるのか?」と問われると、「わりと言うことを聞くから」「要望に応えるから」だと思うんですよね。
もともと僕は人とコミュニケーション取るのそんなに上手じゃない方なんです。だからこそ気をつけて、「相手が何を求めているのか?」とか、「何を必要としているのか?」というところに気をつけてコミュニケーションを取るようにしてきたんです。多分その辺が、「あいつに頼んだらあんまり変なことはしないだろう」みたいな安心感につながって、仕事を頼んでくれているのかな、と自分では思っています。
宇野 今おっしゃった「作るためのデザイン」ですが、最近、そのデザインというものについてすごく気になっていることがあるんです。
そもそもなぜ、映像系のクリエイターたちが竹谷隆之のデザインを必要としたのか? それは、やはり彼らは三次元のために特化したデザインという、洗練されたものを必要としていたからだと思うんです。アニメや特撮の基本的な造形物は、「二次元の劇中のイメージをいかに再現するか?」ということが課題なのだと思っていたのですが、最初に竹谷さんのお仕事を見たときに、撮影の都合とか二次元の線の質感とかを一切取り払って、「本当にこのキャラクターが世界に存在していたらこうなる」というシミュレーション的な感覚が強くアレンジに入っていた。そこに大きな衝撃を受けました。
竹谷 まさにそれに尽きると思います。なぜかと言うと、やっぱり子供って『ウルトラマン』とか『仮面ライダー』とかを見ていても、「チャックは付いてないんだ」とか「ロボットだから、本当はこの服のしわっぽいのはないはず」とか、脳内で変換すると思うんですよ。そういうふうに「ちゃんと現実に出てきたらどうなるか?」っていうシミュレーションをして見ていたので、その子供の感覚のまま具現化してみただけなんです。
宇野 個人的な趣味の領域であるアマチュア時代のモデリングの段階で、そういったアレンジをされていたんですか?
竹谷 そうですね。やっぱり最初はそういうマナーでやる仕事ってあんまりなかったし、あのとき(モデラーとして活動を開始した80年代初頭)は版権の縛りがまだ緩かったこともあり、『ホビージャパン』で「アレンジしてもいいよ」ってお話をいただいたからこそそういうことができたという面はあります。それから、いつの間にかアレンジするのが仕事になって、それで食うようになりましたね。
▲取材は竹谷さんのアトリエで行なわれました。
■「本当はこう見えてほしい」イメージに近づける
宇野 竹谷さんの作品には、そういった「現実にいたらこうだろう」とシミュレーションする作品や、共通するモチーフが非常に多いと思うのですが、それはやはり郷里である北海道での体験のようなものが一つのベースになっているのでしょうか。
竹谷 北海道で暮らしていた若い頃は、人口の少ない漁村みたいなところで育ったので、SF的な所とか、ハイテクで最先端な科学の感じとかはあんまりなかったのですが、自然はいっぱいあったんですよ。特に注意して観察していたというつもりはないんですが、生き物とか錆とかは染みついているかもしれないですね。
▲アトリエ内で「S.I.C.仮面ライダーシン」を発見
宇野 60~70年代の日本のテレビカルチャーを支えていたクリエイターたち、たとえば円谷英二さんや、石ノ森章太郎さんなんかは、自分たちの作っている作品はSFだと思って作っていたと思うんです。でも竹谷さんは、それほどSF的なモチーフというものを受け取らずに、どちらかというと自然との対話という面を受け取ったように感じるのですが、いかがでしょうか。「何か未来的なものを人工的に作っていく」というよりは、「何か人間と環境とのコミュニケーションで生まれてきたもの」というイメージの方を強く受け取っていたように感じます。
竹谷 今考えてみると、やっぱりそういう方が好きですし、仕事としてもそういうものが多いですね。その頃は──今もなんですが、深く考えていませんでしたが、ただやはり環境として、『ウルトラマン』とか『仮面ライダー』が出始めた時代にたまたま居合わせたというのが大きいと思います。僕らの世代はそういう人が多いんじゃないかな。
宇野 そうですね。先日、樋口真嗣さんとお話しする機会があったのですが、「宇野くんと違って俺たちの時代は0が1になる瞬間を見ていて、その呪縛から逃れられないんだ」と言われました(笑)。
竹谷 ははは(笑)。うまい言い方しますね。
宇野 その話を聞いて、「あぁ、そうなのか」と。僕は78年生まれなので、初代『ウルトラマン』とか『仮面ライダー』は全部本で知った世代なんですよ。
竹谷 樋口さんの方が僕より若いですけど、多分僕は彼よりももっとボーッとしてたんですよね。ただただ受け入れたというか、「こっちに行くぞ」「こっちで楽しむぞ」みたいに決断することもありませんでした。
宇野 二次元のものを劇中のイメージで、そのまま再現するという方に行かなかったのはなぜですか?
竹谷 それは多分、そこに到達するのが難しいし、その時間もかかるし、苦労してイメージに合わせたところで、最終的なものはテレビとかで見えてるじゃないですか。それに近づけるよりは、「本当はこう見えてほしい」というイメージに近づけたほうが楽しいし、きっと楽なんです。
宇野 ただ、僕は「現実にあったらこうだろう」というイメージを実現するという発想が、新しいものや未来を生んでいくときに大事だと思っているんです。つまり、マイケル・ベイの『トランスフォーマー』では、「こんなの絶対に中に入ってないだろう」みたいなパーツがニョキニョキ生えてロボットに変形しますよね。あれを見ていると爽快なんだけど、あのビジョンで止まってるうちは世の中って何も進歩しない気がするんですよ。本当にバンブルビーを形通りに変形させようと思って、一生懸命三次元にそれを置き換えようとするから人間の想像力は膨らんでいく気がするんですよ。
竹谷 そうですね。『トランスフォーマー』は宇宙の生命体みたいな謎の設定が付いてますし、CGだしね。オモチャでアレが欲しいなって思ってる人にとっては、「んなわけねぇなだろ」って気持ちはありますよね。オモチャってあの通り変形するんですかね、大変な変形ですよね。
宇野 このインタビューシリーズで、『トランスフォーマー』のデザイナーの方にインタビューしたことがあるんですが、その人は実際に「差し替えなしに変形させてやろう」と考えて、実践している。そういう、「もし実際にこれが存在できたら、ということを形にしていく想像力」というのはすごく大事なんじゃないかなとここ数年考えていて、僕がそれを一番感じるのが竹谷さんのアレンジなんです。
▼参考記事
竹谷 アレンジって既にあるものの、いい所を伸ばして整理する作業なんで楽っちゃ楽で楽しいんですよ。責任もあんまりないし、既に立ったキャラクターがあってそれに乗っかってるわけですからね。「いつも無責任で申し訳ないな」って思いながらやっています。
宇野 「リボルテックタケヤ」とかもそうで、昔の人は仏像に向かって祈ってたわけですよね。「もしかしたら来世かもしれないけど、この仏像は実際に自分たちを救いに来てくれるかもしれない」とか、みんな仏像を見ながら本当に動いて何かを語りかけてくる仏様を想像しているはずなんですよ。それがオモチャ、フィギュアとはいえ、実際に形になって出てくるという事実に対して、みんな何事もないかのように捉えてるけど、実はものすごく大事なことなんじゃないかな、と思うんです。
▲リボルテックタケヤシリーズ 阿修羅+四天王(木彫版)
▲阿修羅(彩色見本)
▲多聞天(彩色見本)
リボルテックタケヤ 公式サイトはこちらのリンクから。
竹谷 わりと誰でもイメージすると思いますよ。僕も10年くらい前から「カチカチって関節が動く仏像があったら良いのにな」って山口隆君と話し合ってて、やっとそれができるようになったからやらせていただいたという感じです。もともとは「あればいいのに」っていう発想から始まったわけなので、やはり妄想することが大事なんですよね。
宇野 でもなぜ仏像だったんですか? 僕も「リボルテック タケヤ」が好きでいくつか持ってますけど、竹谷さんは仏像のどんなところに惹かれたんでしょうか。
竹谷 子供の頃は、仏像の写真とか見ても「今から見ると稚拙な表現じゃないかな」と思うことが多かったんですけど、大人になってから見たら日本の独自性を感じるようになったんです。天平時代とかにもいい物があるんですが、特に鎌倉期の彫刻とかはいいですね。「ダントツにうまいな」という作品が多いです。僕はそんなに詳しくないし信仰心もないんですけど、普段彫刻をする立場としては運慶快慶の系列は彫刻として好きです。
宇野 僕が初期の『S.I.C.』で特に印象に残っているのが、「ハカイダー」です。あのハカイダーをああいう風に鉄臭くアレンジしたということが、僕にとっては衝撃的でした。
▲『S.I.C.』VOL.4 ハカイダー http://tamashii.jp/item/7/
竹谷 確か『S.I.C』でやる前に、雨宮慶太さんが監督した『ハカイダー』に参加していたので形的にはそれに近いですね。その雛形を作るときに雨宮さんが大まかに描いた絵を二人で話し合いながらだんだん具現化していきました。ただ最初に作ったのが、「おっさん臭い」と言われたので映画の方はシュッとしたデザインになったんですけど、『S.I.C.』の方はちょっとおっさん臭くしてみようかなって思って作ったんです。
宇野 竹谷さんにとって昔小さい頃に衝撃を受けたデザイナーはやはり石ノ森章太郎さんですか?
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