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いま文化系にとって野球の楽しみ方とは?
――「プロ野球ai」からなんJ、
『ダイヤのA』、スタジアムでの野球観戦、
そしてビヨンドマックスまで
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.3.31 vol.293
http://wakusei2nd.com

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本日のメルマガは、「いま文化系にとって野球の楽しみ方とは?」をめぐる座談会です。文化系の野球好きが集い、腐女子的な楽しみ方から「体育会系と文化系」の関係、野球人気低下の真相、マンガやネットカルチャーとの関連、そして参加型スポーツとしての野球の可能性やビジネス的視点まで、(なぜか)2万字の大ボリュームでお届けします!

※本記事は好評につき全文無料公開しています。
 
▼座談会出席者
野条:82年生まれ。世を忍ぶ仮の姿として福井で弁護士業を営むが、その野球知識は他に右に出る者がいない。広島ファン。特に好きなジャンルは大学野球。
鯖野 鰯:86年生まれ。会社員。「プロ野球ai」を愛読する腐女子。同い年の横浜DeNA所属、荒波翔選手推し。
かしゅーむ:92年生まれ。PLANETSチャンネル「朝までオタ討論!」でおなじみ。アイドルだけでなく野球にも一家言持つ生まれながらの論客。高校まで軟式野球をやっていた。巨人ファンだが、最近は推し(PIPの空井美友さん)の影響でロッテにも心が動いている。
竹下ジャパン:89年生まれ。熊本出身。甘噛みマガジン編集長/グラビアアイドル評論家。会社員との二足の草鞋で活動している。ソフトバンクファン。
石丸:84年生まれ。『弱くても勝てます』で有名な某日本一の進学校・K高校の元4番・主将。現在は東京で会社員。横浜ファン。
中野:86年生まれ。PLANETS編集部。野球歴は10年ぐらい。横浜ファン。好きな選手は「ハマの番長」こと三浦大輔投手。
 
◎構成:かしゅーむ、中野慧
 
 
■ 女性野球ファンと「プロ野球ai」という恐るべき雑誌
 
中野 この座談会のお題として宇野編集長からもらっているのが、「いま文化系にとって野球の楽しみ方とは何か?」です。そこで今回は、「マンガやアニメ、アイドルなどが好きでオタク系文化も楽しみつつ、野球も好き/自分でもやっていた」というみなさんにお声掛けして集まってもらいました。
 最初に、みなさんがどういうふうに野球を楽しみ、親しんできたか?について聞いていきたいと思います。鯖野さんのお話がいちばんインパクトが強そうなので、では鯖野さんがトップバッターでお願いします!

鯖野 私は野球を好きになったのがここ3年ぐらいでわりと最近なんですけど、腐女子的に、キャラゲーとして野球を見ている感じなんですよ。
 「プロ野球ai」という雑誌があるんですが、これは女性ファン向けのアイドル雑誌のような感じで、プレイの分析やチームの順位予想とかっていうよりも、イケメン選手の写真が載っていて、記事では選手どうしを対談させてだいぶ意図的にイチャイチャさせたりしているので、それを楽しむ、という(笑)。今日持ってきた「プロ野球ai」の最新号の表紙は、「日本ハムの剛力彩芽」こと谷口雄也くんです。
 
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▲「北の剛力彩芽」こと谷口雄也きゅん(北海道日本ハムファイターズ)が表紙の「プロ野球ai」。
 
石丸 谷口くん! このあいだ女装コンテストに出て「かわいい」ということでネットで話題になっていましたよね(笑)。
 
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画像出典:http://www.nikkansports.com/baseball/news/f-bb-tp0-20141122-1399555.html
 
野条 僕も選手だった頃から「プロ野球ai」はよく読んでましたよ。人気選手ランキングが、一般的な男性の野球好きのものとは全然違って面白いですよね(笑)。

鯖野 そうなんです! たとえば2013年は田中将大投手が24勝無敗という前人未到の成績を残して楽天を日本一に導きましたけど、13年11月号「ai」の読者投票「いま光っている選手」ランキング(集計期間13年7月20日〜9月11日)では28位と決して上位ではなかったり。でも、かといって実力がなくてイケメンなだけの選手が上位にくるわけではなく、ちゃんと活躍しつつもイケメンな選手が人気なんですよ。2014年は、広島・堂林翔太選手と巨人・坂本勇人選手の二大巨頭体制でしたね。でも堂林選手、最新号(15年3月号)では前回2位から一気に15位と、まさかの10位圏外なんですよ! やっぱり枡田絵理奈アナウンサー(TBS)との結婚が響きましたかね(笑)。

竹下 あれは残念なニュースでしたね。どちらかというと枡田アナが結婚したことがですけど……。

野条 堂林のいるカープもそうですが、谷口くんのいる日ハムもイケメン選手が多いですよね。西川遥輝選手とか、上沢直之投手とか。このページ(日本ハムファイターズとかいうイケメン若手軍団 - NAVER まとめ)にけっこうまとまっています。

中野 このまとめには取り上げられていないですが、日ハムだと陽岱鋼(よう・だいかん)なんかは、男から見てもカッコイイですよね。イケメンではあるけど女性にそこまで好かれそうにないというか、プレーもファッションも、新庄みたいな独特の濃いスター性があって。僕は今どき珍しいそういう彼のスター性に注目して見ていたりします。
 ちなみに、その鯖野さんの言う「キャラゲーとしての楽しみ方」って、もう少し突っ込んでいうとどういうことなんですか?

鯖野 私はもともと産業としての“プロ野球界”が面白いなと思って興味を持ち始めて、そのきっかけも2012年のDeNAによる横浜ベイスターズ買収だったんです。そこから横浜DeNAに関するビジネス的な動向を追いかけていくうちに、野球って面白いなぁと思って好きになっていったんですね。
 でも、自分で野球をやっていたこともないし、これまで熱心に見てこなかったので、ただ漫然と試合を観ていたりニュースを観ていても、楽しみ方の視線が定まらないわけです。それで、なんとなく俊足好守の外野手が好きだな、という自覚を踏まえて、自分と同い年で同じ神奈川県出身(横浜高校卒)の荒波翔選手を推すことに決めたんです(笑)。そこから、彼を中心に横浜DeNAというチームを眺めるようになった。荒波くんって高校時代は1年生からレギュラー入りしていてスーパースターだったんですけど、高校を出てからプロ入りするまでに大学4年、社会人3年と7年かかっているんですよね。でも、同じ横浜高校で一学年下の石川雄洋選手は高卒ですぐプロ入りして、先にレギュラーとして活躍している。しかも2012年からはキャプテンまで務めていた。荒波くんは石川くんより1個上なのに、プロとしては7年後輩なんですね。インタビューを読んでいたりするとそこの微妙な関係性が出ていたりして、そういうところにグッと来ます。

中野 たしかに、巨人の坂本勇人と現ニューヨーク・ヤンキースのマー君は、小学校時代にバッテリーを組んでいたとかありますよね。しかも坂本がピッチャーで、マー君はキャッチャーだったという。

鯖野 そうそう、それでマー君と坂本も含めた「88年会」(参考リンク)でわちゃわちゃしてるのを見るのも好きです(笑)。最近だと、報道ステーションでダルビッシュとマー君の対談をやっていたじゃないですか。あのときの、先輩(ダルビッシュ)が後輩(マー君)をちょっとからかって後輩が「やめてくださいよ〜」みたいに、微妙にイチャイチャしている感じとか。他にはソフトバンクが秋山監督で、西武がナベQ(渡辺久信)監督だった頃とか、現役時代にチームメイトだったオッサン同士でキャッキャしている感じがすごく良いなぁ、とか。「プロ野球ai」はそのあたりの需要をよく分かってらっしゃるなーと思います。オタク的・アイドル的に何かを追っかける趣味を持っている子が、野球にいくかテニミュに行くかジャニーズに行くか、という違いでしかないのかもしれません。
 
 
■ 野球選手ファッション問題/「データを見る」のが男の子的な楽しみ方!?
 
中野 鯖野さんのインパクトの強いお話の後ですが、男性のみなさんが野球を好きになったきっかけも語っていきましょう。竹下ジャパンさんはどうですか?

竹下 僕は熊本出身なんですが、あまり娯楽がなかったりするのと、「プロ野球チップス」とか野球選手名鑑みたいな男子小学生文化のなかで好きになっていった感じですね。九州はもともと巨人の人気が高かったので、試合を観に行くとかっていうよりもテレビを通して野球に親しむ感じでした。

中野 プロ野球チップスとか野球カードって、男子小学生のなかではカードダスとかSDガンダム、ミニ四駆や特撮ヒーロー番組とかと同じようなカテゴリーの文化ですよね。あれでプロ野球選手の身長・体重や過去の成績や受賞タイトルとかのスペックに詳しくなっていく、という。選手名鑑にはなぜか愛車とかも載っていますけど、あれで「野球選手ベンツ乗りすぎ問題」とかも子どもながらわかっていきますよね。野球選手ってなんかもう、趣味がそういう感じなんですよね……。

野条 そうそう、プロ野球選手ファッション問題ってあるよね。たとえばこの「プロ野球ai」の表紙に広島の菊池涼介も映っていますけど、この「猿」って書いてある黒のTシャツとかどういうことなんですか!? 
 
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鯖野 「取材後記」によると、チームメイトの久本(祐一)選手からプレゼントされたものだそうですよ。「このTシャツ、ちゃんとアピールしといてくださいね!」という菊池選手本人のコメントが添えられているんで、お気に入りなんじゃないでしょうか(笑)。

野条 「野球選手 ファッション」でググると、とんでもないものがいろいろと出てきます(例:プロ野球選手の私服のダサさは異常 【画像あり】 | ニュース2ちゃんねる )よね。これは野球の楽しみ方なのかなんなのかよくわからないですが、とりあえずリンク先に行ってみるのがおすすめです。

中野 「なんJ」を中心に、野球選手のファッションいじりが最近はネットの楽しみ方として定着してますよね。僕は特にこの画像が大好きで……。
 
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▲左=三浦大輔投手(横浜)、右=マーク・クルーン投手(当時横浜→その後巨人へ移籍)
 
これは僕の尊敬する「ハマの番長」こと横浜の大エース・三浦大輔投手と、日本プロ野球史上最速の162km/hのストレートを投げたマーク・クルーン投手の2ショットです。組の若頭と、スーツの内ポケットからチャカを取り出そうとする凄腕の外国人SPという出で立ち。『メン・イン・ブラック』のトミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスのような完璧な佇まいで、ネット史に残る画像ではないかと思います。
 
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▲メン・イン・ブラック [Blu-ray] 
 
鯖野 私はそれでいうと、宮本慎也さんの引退試合に駆けつけたPL学園OBたちが『アウトレイジ』みたい、っていうネタが大好きです(笑)。スーツが妙に決まりすぎていておかしなことになってる。
 
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▲上段左から清原和博氏(元西武→巨人→オリックス)、片岡篤史氏(元日本ハム→阪神)、橋本清氏(元巨人)、下段左から立浪和義氏(元中日)、野村弘樹氏(元横浜)
画像出典:神宮球場にいるPL軍団が怖すぎwwwwwww : なんJ(まとめては)いかんのか? 
 
野条 なるほどね(笑)。僕が好きなのは、やや古い話題ですが92年に柴田勲(元巨人)がトランプ賭博で現行犯逮捕されたあとに、謝罪会見でトランプ柄のセーターを着て登場し炎上したエピソードですね。「そんなの謝罪会見に着てくんなよ!」という。わざとなのか何なのか、全然空気が読めていないんですよ。やっぱり「野球選手×ファッション」で注目すると面白いエピソードが尽きない。サッカーだと私服もかっこいい選手が多いですけど、野球選手は突っ込みどころが満載なのが面白いですね。
 ちなみに、僕はここに集まっている皆さんよりは少し年上なんですが、野球を好きになったきっかけは80年代末に「週刊少年ジャンプ」で連載していた『県立海空高校野球部員山下たろーくん』(作・こせきこうじ)という漫画ですね。これを子どもの頃に読んで「野球って面白いな」と思って実際に自分でも始めた。文化系から入っても、結局はプレイヤーになりたいって思うのが王道というか。

石丸 僕の場合はやっぱりテレビで見て面白いなと思っていたのと、近所の歳の近い子どもどうしで野球をやっていたのがきっかけ。ただ、中学・高校でも、同じクラスで野球部じゃなくても野球好きなやつってけっこういたけど、みんな「首位打者がどう」とか、数字を見るのが好きだったよね。

かしゅーむ 僕は小学校のときは柔道をやっていて、練習が少なくて暇で、近所の少年野球チームに通い始めて中学から本格的に始めた感じです。で、石丸さんのおっしゃるとおり、サッカーとかと違って野球ってデータが膨大にあるじゃないですか。そこが面白かったりしますよね。

中野 なるほど。ちなみに僕の場合はゲームがきっかけです。小学生の頃、初めて買ってもらったゲーム機がプレイステーションだったんですよ。まだプレステが出たてで、FFやドラクエも参入するかしないかの頃だったので、『リッジレーサー』『鉄拳』『ソウルエッジ』『エースコンバット』みたいなナムコ製のゲームを延々やっていたんです。当時のナムコってサブカル系というか、任天堂やスクウェア、エニックスのようなメジャーに対するアンチのような立ち位置だったんですよね。そのなかで単に「ナムコ製だから」という理由で『ファミスタ』の後継である『ワールドスタジアムEX』を買ったらはまってしまって、「このイチローって選手がすごい使える!」と思ってBSでオリックスの試合を見始めて、そのうち自分でもやるようになった感じです。というゲーム脳みたいな話なのですが…。

かしゅーむ そこで言うと今の代表的な野球ゲームである『実況パワフルプロ野球』の存在も、野球人気を下支えしている気がしますよね。あれも選手一人ひとりのデータに注目が集まるわけじゃないですか。男の子的な楽しみ方としてはやっぱりそういう部分はあると思いますよ。
 
 
■ 野球とマスメディアの相性――今やメジャーなもの=サッカー日本代表になった!?
 
中野 冒頭でも話しましたが、宇野編集長からもらっているお題は「いま文化系にとって野球の楽しみ方とは?」というものです。でも、そもそも「文化系から見た野球」ってどういう感じなのかなと思っていて。マジョリティとしては「体育会系的なもので怖い」というイメージが多いんじゃないでしょうか。なので、ここでは「外から見た野球のイメージ」についても話せたらと思います。

鯖野 やっぱり野球を好きになる前は「“野球界”には旧態依然としたシステムがまだ残ってる」というイメージはありましたよね。当時ファンでなくても、2004年の球界再編騒動は印象が強かったですし。

野条 ナベツネとかが独裁権力を振るってるイメージが強かったりしますよね。野球も一歩間違えたら部分社会っていうか、独特の論理で動いている感じはあるかもしれない。裾野が広いだけで、中身は独特な相撲とかプロレスと同じで特殊なものがある。

かしゅーむ 根本的にはマニア向けというかコアな構造のものなんですけど、ファンの母体数が異常に多いから、「なんとなくメジャーなもの」という位置には君臨している感じですよね。

野条 そう、だから「メジャーなマイナースポーツ」って感じ。

鯖野 でもそれで言うと、「メジャーなメジャースポーツ」ってなくないですか? サッカーでも我々のような門外漢が抱いているサッカーのイメージと、Jリーグをガチで見ている人では全然イメージが違うと思うんです。
 で、個人的な実感でいうと、私が野球にはまったのが3年前ぐらいからで、その頃には野球人気が下がり始めたという認識がもう一般的だったので、あんまり「野球が世間の王道」という感じはしないですね。
 むしろ、私のここ15年くらいのイメージでは、スポーツ関係における「世間の王道」ってサッカー日本代表だったんですよ。あれがいちばん皆が好きになるもので、お祭り騒ぎとしても盛り上がる。やっぱり文化系の人たちって「メジャーなもの」に対するアンチ意識ってどうしてもあるじゃないですか。自分は年齢的にそろそろそういう意識は減ってきたとは思いますが、まだそっちに乗っかるのはちょっと恥ずかしい、という感じはあります。と言いつつ、吉田麻也選手と内田篤人選手のツーショット画像はチェックしてますが(笑)。

かしゅーむ 僕も、あまり代表戦的なものには乗れないですね。

鯖野 サッカーの代表戦は世間であんなに話題になるのに、野球のWBCはそうでもないような感じがしてしまうのはなぜなのか。

中野 最近の野球日本代表の「侍ジャパン」ってちょっと滑ってる感じはありますよね。正直、ああいう名前付けを野球がやるのはどうなのか、余裕失いすぎじゃないかという気がしてしまいます。

竹下 広告業界的に言うと、オリンピックとかサッカーのW杯とかは主に電通がやっているんですけど、侍ジャパンって博報堂なんですよ。で、博報堂も侍ジャパンを正直持て余しているところがあるみたいですね。電通と違ってスポーツビジネスのノウハウの蓄積があまりないということもありますが、そもそもマスメディア的な仕掛けに侍ジャパンは馴染みづらいところがあるんですよ。

中野 今やマスメディア的なものと野球の相性が決定的に悪くなっているんですね。この話って、「文化系にとって野球は敵」みたいなイメージと関係があると思うんです。90年代以前のテレビの巨人戦と、今のサッカー日本代表って近い位置づけなのかな、と。
 
 
■ 「野球人気低下」の真相
  
中野 野球に対する負のイメージって、やっぱりマスメディアが原因として大きいと思うんです。例えば楽しみにしていたドラマやアニメが野球中継の延長で潰されて、野球に恨みを持っている、みたいな話ってあるじゃないですか。僕も小学校高学年まで野球好きじゃなかったので、日テレの巨人戦中継が延長して「『金田一少年の事件簿』が見れなくなる!録画が録れてない!」みたいなことがよくあったので、その気持ちはよくわかります。
 戦後のマスコミの中でプロ野球、特に巨人戦中継が独特の地位を築いていて、大きくなりすぎたがゆえに、本質的にはメジャーなものでもなんでもないのに、敵としてカウンターすべき存在になっていたんじゃないでしょうか。それがマスメディア的なものの影響力低下と一緒に盛り下がっていった。巨人戦中継の視聴率低下って、たしかにデータとしてもはっきり出ているんですよね。目に見えるところでも、テレビでの巨人戦中継の数自体も減っていますし。
 
(参考リンク)プロ野球の人気低迷がヤバい!巨人戦のテレビ視聴率が激減。若者の野球離れとファン高齢化 - NAVER まとめ
 
かしゅーむ ただ、今はネットで「なんJ」とかが流行っているし、「野球人気の低下」っていろんなレイヤーがある気がするんですよ。むしろネット的なニッチな盛り上がりのほうにシフトしているのかもしれない。

中野 そう!そうなんですよ! で、今日のためにいろいろ資料をつくってきたので、僕のほうから少しプレゼンさせてください。
 下の図は、日本野球機構のサイトからデータを引っ張ってきて、これまでのプロ野球の観客動員数をグラフ化したものです。こういう感じで、長いスパンでみるとプロ野球の観客動員数って漸増しているんですよ。
 
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野条 でも、一時期プロ野球の観客動員数を実動員数に変更したことってなかった?

中野 それが2005年の、このセ・パ両リーグともにガクっと下がっているところです。プロ野球の観客動員って基本的にどんぶり勘定で、シーズンシートで実際に来場していなくても動員にカウントしたりとか、2005年まではたしかに水増しが行なわれていました。このグラフで言うと、75年〜2004年ぐらいのデータは基本的に怪しいと思っています。
 ただ長期的なスパンで見るとおおむね漸増というのは当たっていると思っていて、実際に2005年の実数発表以降もトレンドとしては、実際に球場に足を運ぶファンの数は増えているんですね。
 ひとつ興味深いのは、プロ野球人気が絶頂だったのって長嶋・王が活躍したV9時代(1965〜1973年)というイメージがありますよね。でも実は、V9時代と比べると今のほうが観客動員は倍ぐらいに増えているんです。つまり「野球人気」と言われるものって、あくまでもラジオやテレビ、スポーツ紙などのマスメディアと結託したものでしかなかったんじゃないでしょうか。
 そしてもうひとつデータとしてあるのが、野球の競技人口の話です。ここでは高校野球を例に取り上げます。

鯖野 なんか、「サッカーに逆転された」みたいなニュースがときどき出てきますよね。

中野 そこはなかなか難しくて、サッカーって高校の部活に所属している人数は横ばいないし減少していたりするんですが、部活ではなくクラブチームに所属する高校生も増えているので、一概に増減を言うことはできないんです。あとは「同世代内でのスポーツとしての人気」を測る上では、単純な人数の増減だけではなく少子化も考慮しないといけないです。ここは是非、サッカー好きな人に調べてほしいですね。
 それで高校野球の部員数の推移なんですが、下の青い線のような感じで、これも統計のある80年代以降だと今が一番多いんですね。赤の線は高校生人口を示したものですが、やっぱり急速に少子化が進んでいる。それに比して、高校野球部員の数はかなり多くなっていると言えます。
 
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ちなみに、少子化を考慮して、高校生人口100人当たりに占める野球部員数の推移を示したのが、下の図の青いグラフです。これを見ると、高校生の中での野球の競技人気というのはむしろ今が絶頂期だと言えます。
 
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かしゅーむ 部活人気として高いんですね。

石丸 たしかに、93年のJリーグ開幕以降ってなんとなくサッカーに押されてプレイヤーレベルでの人気も下がっているように思っていたけど、そうでもないんだね。

中野 僕のプレゼンの結論としては、やっぱり「マスメディアを通して薄く広く」という野球人気はなくなってきていますが、球場に足を運んだり自分でやったりする人たちの人数は増えていて、濃いコミュニティがだんだん大きくなっているということなんだと思います。
 で、もういっこ、上のグラフで示したのが部活継続率というデータ(赤のグラフ)です。1年生のときに部員登録して3年生まで続けた人の割合なんですが、これも右肩上がりになっていて、これもなかなか興味深いんじゃないかと思います。
 
 
■ 体育会系=上下関係が厳しい、水を飲んではいけない?
 
野条 このグラフは面白いよね。高校野球を途中で辞めないで続ける子が増えているっていう。野球ってやっぱり「練習中に水を飲んではいけない」とか「うさぎ跳び」とか、理不尽な根性練をやらされるスポーツだっていうイメージがあると思う。で、僕が子どものときに野球をやっていた90年代頃は、そういう部分はたしかに少し残っていた。でも石丸くんとか中野くんのような80年代半ば生まれ以降になると、もうほとんどなくなっていたんじゃないの?

石丸 それはもうなかったですね。僕らぐらいの年代が端境期なのかなという気がします。

中野 むしろ今では「水は喉が渇く前に飲め」という指導のほうが普通ですよね。やや専門的な話になってしまいますが、やっぱり立花龍司さん(※1)のような人が出てきて、彼に代表される科学的・合理的なトレーニング手法がアマチュア選手のあいだでも大きく広がって、「根性練とかダメだろ」という雰囲気になっていったのが大きい気がします。

※1立花龍司…近鉄、ロッテ、ニューヨーク・メッツなどでコンディショニングコーチを歴任。アメリカなどで広まっていた最新のトレーニング理論を導入した立花の指導は、走り込み・投げ込みを徹底させる従来の長時間練習とは大きく異なり、当初近鉄のコーチからは反発も受けたが、負傷者の減少などの効果が出たことから監督の仰木彬や近鉄の選手の間で高く評価された。特に1990年に近鉄へ入団した野茂英雄からの信頼は厚く、両者の近鉄退団後も指導を続けることになった。著書多数。(Wikipediaより)

石丸 あとは「シンクロ打法」「ジャイロボール」を提唱した手塚一志とか、「初動負荷理論」の小山裕史とかですよね。野球ってアマチュアレベルまで根性論とか精神論が浸透してしまっていたからこそ、逆にそこに対する反動も大きくて、科学的なトレーニングやノウハウを取り入れる動きも早かった。最近流行りのセイバーメトリクスとかもそうですよ。
 
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▲手塚一志『バッティングの正体』ベースボールマガジン社
 
中野 「バッティングの正体」「ピッチングの正体」他の手塚一志さんの本は、球児のあいだではゲーム攻略本のように読まれていましたよね。僕はあれを読んで実践してみただけで、だいぶ色んなプレーが改善しました。
 他に、野球に対する外からのイメージだと、やっぱり「上下関係が激しい」とかがありますよね。

石丸 それも正直、もうあんまり当たってないかなぁ……。

かしゅーむ というか野球部で上手い後輩って、基本的に先輩のことナメてますよね(笑)。むしろ先輩のことをどんどんイジる文化のほうが強い気がします。

中野 僕なんかも、歳上の人とご飯食べに行って自分の料理が先に来ても「おあずけ」はしないですよ。なんか「野球部といえば後輩は先に食べない」みたいなイメージってありますけど、むしろ「先に食っていいですか?」と聞いて食べます。お互いそっちのほうがラクだし……。
 後輩が先輩に対してどんどん意見を言えるほうがチームワークとしてはいい状態なわけですよね。敬語こそ使いますけど気持ち的には対等で、先輩はイジり後輩からはイジられ、みたいな状態のほうが雰囲気としてもいいですし、野球をやっていてむしろそういうことを学んだ気がする。逆に今は体育会系出身の人よりも、「自分は文化系」と言っている人のほうがヘコヘコと上下関係みたいなのを無理に気にしてるな、と思う時がある。

石丸 ちなみにその「先輩の命令は絶対」とか軍隊的な野球部の在り方でいうと、『実録!関東昭和軍』っていうマンガがあって、これがめちゃくちゃ面白い(笑)。そういう軍隊的な高校野球のテンプレイメージにがっつり乗って戯画化して描いていて、要はギャグにされるぐらいに風化してしまったっていうことじゃないかな。まあ、ガチで厳しい強豪校の野球部には今もそういう部分はあるのかもしれないけど、大多数の高校球児には関係ない。
 
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▲田中誠『実録!関東昭和軍』(モーニングKC)
 
中野 たしかに、今でも名門校野球部では暴力とかいじめで出場停止になってたりしますよね。PL学園(大阪府)とか済美(愛媛県)とか。こないだ検挙(?)されていた済美は、後輩にカメムシを食べさせるいじめが行なわれていたらしいですけど、本当にいま平成何年なんだろうかという……。
 でも基本的にそういう悪い噂が立つと、選手が入ってこなくなります。済美も、県内出身の中学生が悪い噂を聞いて敬遠するようになって、結果として県外出身者が多くなって下級生と上級生の寮が別になり、「上級生から受けたいじめを後輩に対してやり返す」という軍隊的ないじめがしづらくなって、後輩に対するいじめがエスカレートしたらしいですね。
 ちなみに大阪府だと最近はPLではなく大阪桐蔭や履正社が強いですけど、やっぱりPLは不祥事が絶えないので中学生から敬遠されて大阪桐蔭のほうに流れているという話があります。PLでは寮で上級生と下級生を相部屋にしているせいでいじめが起こるということで、大阪桐蔭は最初から学年別で部屋を分けていたりするそうですね。
 で、僕は藤浪(現・阪神)や森(現・西武)がいて春夏連覇したときの大阪桐蔭の試合を甲子園で見たんですが、応援席に女子生徒が多くて華やかだし、応援の曲も嵐とかaikoとかでリア充っぽくて楽しそうだった。「これだったら大阪桐蔭行くわなぁ」と思わざるをえなかったです。

鯖野 2013年オールスターでの、西岡選手がけしかけて藤浪選手が中田翔選手にスローボールを投げて、という一幕は賛否両論ありましたけど、「大阪桐蔭は先輩後輩関係がフランク」という印象を強めましたね。「野球部は上下関係が厳しい」という世間のイメージの醸成には、PL学園の存在が大きいんじゃないか、と勝手に思ってます。いじめに関する報道が長年頻出していたというガチの問題に加えて、橋本清さんのように、PL出身のプロ選手がバラエティ番組で持ちネタとして高校時代の厳しさを話すことも多いじゃないですか。去年も『水曜日のダウンタウン』で「PL学園野球部この世の地獄説」って企画をやってましたよ。まぁ正直、「まだそのネタやるの?」という感じもしましたけど。
 
(参考リンク)http://daily-daily.hatenablog.com/entry/2014/08/07/005753
 
 
■『ダイヤのA』『おおきく振りかぶって』『砂の栄冠』『グラゼニ』――野球漫画を考えてみる
 
中野 ここからは、せっかくPLANETSなので「カルチャーと野球」という観点から少し話してみたいと思います。マンガを始めとしたサブカルチャーですとか、「なんJ」のようなネットカルチャーとのつながりについて、ですね。
 冒頭で鯖野さんから腐女子的な楽しみ方のお話がありましたけど、実は『テニスの王子様』や『弱虫ペダル』と同じような文脈で、最近は野球漫画の『ダイヤのA』(週刊少年マガジン連載中)がアニメ化を契機に女性ファンのあいだで人気が爆発してきていて、「spoon. 2Di」のような雑誌で特集が組まれたりしています。
 
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▲別冊spoon. Vol.56 2Di「ダイヤのA」表紙巻頭特集 / Wカバー 舞台「弱虫ペダル」
 
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▲スポアニ! (主婦と生活 生活シリーズ)
 
 で、「野球マンガ」というものを系譜として語るというのもやってみたいんですが、けっこう難しい気がしています。これをやるにはむしろ、スポーツマンガやヤンキーマンガという大括りのジャンルとの隣接関係を見ないといけない。
 たとえば60年代後半から70年代にかけてスポ根ものの元祖として『巨人の星』があるけど、その梶原一騎が高森朝雄名義で原作を手掛けたボクシング漫画『あしたのジョー』とかもあるわけです。前者は少年漫画的な必殺技も込みのスポ根もので、後者はほぼ同時期の矢沢永吉のような「ヤンキーの成り上がりストーリー」の変種としてボクシングが題材になった。

石丸 70年代はやっぱり高度経済成長の勢いに陰りが出てきて、「現実の暗い面も反映しながら成り上がる」っていうストーリーが受けたのかもしれないよね。

中野 そのあとはものすごいざっくり言うと、80年代になって『キャプテン翼』のようなルール・物理法則を無視気味のサッカー漫画が出てきた。それと少し前後して、『キャプ翼』ほどルールを無視しているわけではないけれど「ルールの範囲内で物理法則を無視する」という『ドカベン』をはじめとした水島新司の野球漫画が全盛期を迎えて、それと別の流れとして恋愛要素を入れ込んだ『タッチ』が出てきたというふうに整理できると思います。
 で、90年代以降は『SLAM DUNK』のような、あれが高校バスケのレベルなのかという話はさておき、漫画のなかではすごくリアリティを追求したものが出てきて、一方でミニマルなリアリティを突き詰めた『ホイッスル!』のようなサッカー漫画があったりした。
 だから「野球漫画」っていうもので歴史を語るって難しいんだろうなぁ、という感じがするんですよ。90年代だとヤンキーマンガの亜流として、『ROOKIES』とか『ストッパー毒島』みたいな作品があったりしましたけど。

かしゅーむ それで言うと『MAJOR』はわりと画期的だったんじゃないですか? あれはストーリー重視路線できましたよね。ただ野球漫画でいう「リアリティ」を突き詰める路線って、それこそ『おおきく振りかぶって』までなかったような気がします。これはどちらかというと、野球部の内情だったり、ルールなどの描写のディティールが細かいという感じですが。

中野 「『おおきく振りかぶって』って野球やってた人には不評なんじゃないの?」ってよく聞かれるんですけど、あれはディティールの描写が素晴らしいので僕は好きですよ。ネットの評価を見ると「高校球児はあんなに子どもじゃない」って書いてあったりするんですけど、むしろ『おお振り』のあのゆったりした感じの方が実態に近いです。

野条 リアリティ追求系の野球漫画でいうと僕は『ラストイニング』がおすすめですよ。

石丸 たしかに、『ラストイニング』はリアル系ではトップレベルに面白いですよね。高校野球のリアルを悪く描いているのが最近の『砂の栄冠』で、もうちょっと良心的なのが『ラストイニング』、すごく良心的なのが『おおきく振りかぶって』という感じがします。

中野 僕のなかでちょっと思っていたのが、女性にも読まれるスポーツ漫画って、古くは『キャプ翼』とか、最近だと『テニスの王子様』とかで、わりと物理法則を無視しないといけないのかなと思っていたけど、『ダイヤのA』はむしろリアリティ路線を突き詰めているのに人気が出ていて意外に思ったんです。

石丸 ただ、『ダイヤのA』って各キャラクターの造形が『テニスの王子様』と似ているよね。『おおきく振りかぶって』なんかも『ダイヤのA』と同じくリアリティ路線だけど、むしろ「男どうしの友情を綺麗に描く」とか「努力したらちゃんと報われる」というのが男女関係なく読まれるスポーツ漫画の条件な気がする。

中野 なるほど、たしかにそうですね。『ダイヤのA』、いろんなカップリングがあるみたいですけど、個人的には結城と伊佐敷の関係とかいいなと思います。

鯖野 あとはやっぱり、最近だと『グラゼニ』が人気がありますよね。
 
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▲森高夕次(原作)、アダチケイジ(漫画)『グラゼニ(1)』講談社
 

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石丸 『グラゼニ』は主人公である中継ぎ投手が、他の選手の年俸を「あいつはいくらで…」と値踏みしながら戦っていくんだけど、サラリーマン漫画っぽいリアリティで面白いですよね。
 そこでいうと「ファンタジーベースボール」ってあるじゃないですか。ユーザーが一定の年俸制限をもとに選手を集めてチームを編成して、実際の試合での選手の成績をもとに順位を競うというネットゲームの一種です。アメリカではすごく流行っていて、日本でも2000年代前半に盛り上がりそうになったんだけど、結局あんまり流行らなかった。このあいだPLANETSの鳥越規央さんのインタビュー記事でも話題になっていましたよね。
 
統計学者・鳥越規央インタビュー(前編)「セイバーメトリクス以降の優雅?で感傷的?な日本野球」 
 
 で、僕が思うのが、やっぱりアメリカは資本主義の国だから選手の年俸のようなお金の話を平気でする文化があるけど、日本では「年収はいくらで…」みたいな話って避けられがちじゃないですか。ファンタジーベースボールが日本で流行らなかった理由ってそういう国民性にあるんじゃないかと思っていて。で、最近になってようやくそういう空気が薄くなってきて、『グラゼニ』みたいにビジネス的な側面を主軸に据えた漫画が受け入れられているんじゃないかな、と。

中野 なるほど。やっぱり野球漫画語りって、これまでだと伊集院光さんの『球漫』とかがありますけど、まだそれほど系統的に語られてはいないですよね。これは突き詰めるとすごい分量になりそうなので、また機会があれば今後の課題にしましょう。
 
 
■ ネット的な人材はなぜ横浜から多く輩出されるのか?
 
かしゅーむ 今出てきた漫画のリアルな描写って、野球をやった経験のある人があるあるネタ的に楽しんでいる感じだと思うんですよ。もちろん、野球をやったことがないと漫画が楽しめないというわけではないんですが……。僕の推しメンの空井美友(PIP)ちゃんは千葉ロッテの大ファンで、どっちかと言うと文化系寄りでスポーツなんか絶対無理みたいな子なんですけど、野球だけは詳しくてなんJ語とかも知ってたりするんです。だからそういう「なんJ」に代表されるようなネタ的なアプローチって野球未経験の人や、いわゆる文化系の人でも野球を楽しめる方法のひとつですよね。

中野 そこで言うと、やっぱり2000年代に「なんJ」のようなネット的な文脈でスターになったのって、多田野数人(インディアンス→日本ハム→現・独立リーグ石川ミリオンスターズ)と古木克明(元横浜→オリックス)ですよね。なんかもう、このへんは、ググってください……。
 
TDNとは (タダノとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
多田野数人 - Wikipedia 
古木克明とは (フルキカツアキとは) [単語記事] - ニコニコ大百科 
古木克明 - アンサイクロペディア 
 
石丸 そこ出しちゃうのか(笑)。多田野の事件はやっぱり衝撃的だったよね……。まあプロ野球という組織はそういうことを受け入れる土壌がなかったんだよね。日本でドラフト指名されなかったのでメジャーに行って、いろいろと戦って最終的には日本プロ野球に戻ってきて、今は独立リーグか。
 古木に関しても、「ホームラン22本、打点37」という衝撃的にアンバランスな成績とか、プロ野球選手を引退して格闘家に転身しボビー・オロゴンの弟と大晦日に対決したりとかそういうネタが取り上げられるけど、元々はすごく才能があるバッターだった。本当は伸び伸びプレーさせてあげないといけなかったんだけど、当時の横浜の監督は緻密な野球で有名な森祇晶だったりして相性がよくなかったのもあると思うし、その後はまさに暗黒時代を象徴する山下大輔政権で、古木をちゃんと育てる余裕がなかったんじゃないかな。

中野 古木の他には村田(横浜→巨人)の「優勝受取人」とか、内川の「横浜を出る喜び」といった秀逸なネットスラングが生まれていますが、やっぱり2000年からの13年間で9度の最下位を記録した暗黒時代の横浜から、ネット的な人材が輩出されていった感じはありますよね。

かしゅーむ そこで言うと、内川コピペってありますよね。今でもよくネタとして使われることがあるんですけど、これって当時ダントツの最下位・横浜で孤軍奮闘していた内川選手(2008年には右打者の年間打率歴代1位となる.378を記録)の孤独感、その後ソフトバンクに移籍した心情をよく表していると思うんですよ。
 
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内川コピペ - 新・なんJ用語集 Wiki* 
 
中野 内川が、横浜が日本一になった1998年にタイムスリップするという夢だよね(笑)。これを作った人は本当に才能があると思う。ちなみに内川本人がネットでイジられることに関してどう思っているかは、村瀬秀信さんの『4522敗の記憶』という本に詳しく書かれていて、この本は21世紀最初のスポーツノンフィクションの金字塔と言ってもいいぐらい大傑作なのでおすすめです。
 
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▲村瀬秀信『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史』双葉社、2013年
  
鯖野 なんか本当に横浜DeNAばかりですね(笑)。近年急にハマった野球ファンとして、「なんJ」は確かに大きい入り口ではあったし、一応地元出身なりに1998年の熱狂からその後の凋落は聞きかじっていたというベースになんJ的なノリが乗っかって、余計横浜DeNAにハマることになったのかもしれません。“大正義巨人軍”には目が向かなかったなぁ。

かしゅーむ 巨人選手のネタって意外と少ないんですよ。ネタとしていじりづらいとかはあるのかもしれない。

石丸 ネット時代になって、弱さをネタにしてひたすらいじり続けるという楽しみ方が普及したというところはありますね。

野条 90年代に阪神の暗黒時代ってあったじゃない。せいぜい新庄・亀山・桧山あたりしか目立った選手がいなかったという。その阪神の暗黒時代がもし2000年代に来ていたら、こういうネット的な楽しみ方ってむしろ阪神ファンのあいだで普及していたかもしれないよね。要はネットが普及していった2000年代に、横浜が暗黒期と言えるほど弱かったというタイミングの問題でもあるんじゃないかな。
 
 
■最近のネットでの「野球」批評を考える
 
中野 ネットとの関連でいうと、最近は花巻東の選手の「カット打法」とか、「おにぎりマネージャー」のように「野球」がネットの燃料になっている感じがありますよね。これについてはどうですか?

かしゅーむ やっぱり、そういう問題じゃないよなと思ってしまいますよね。「野球」をちゃんと批評できる論壇が成立していないことが問題なんです。カット打法に関しては、スポーツだってマリーシア的な「ルールの範囲で攻める」というのは当然で、「高校球児とはかくあるべき」とか「高校野球は教育なんだからセコいことするな」っていうのは違うと思います。おにぎりマネージャーの子だって本人がやりたいからやっているのであって、問題の本質はフェミニズムとか性別役割分業とかそういうことではないと思っちゃうんですよ。

石丸 まあ高校野球には男子マネージャーだってたくさんいるし、そのことはあんまり取り上げられたりしないよね。そもそも会社だって、経理とか総務みたいなバックヤード的な仕事が得意でやりたいって人もいるわけだし、むしろ「バックヤードは女がやるもの」って決めつけてしまうのもどうなのかなと。

中野 僕が思うにメディアの問題もあって、マスメディアって「熱闘甲子園」的に美談として報道してしまうし、一方でネットではマスメディアでのカウンターが好まれるから「こんな時代錯誤なことやっているなんて信じられない」というあまりよく考えられていない脊髄反射と、両極端な反応になってしまう。

かしゅーむ 「熱闘甲子園」は周囲の人が死んでるのを見つけ出すのが得意ですよね(笑)。マスメディアって、「感動をありがとう」を押し付けてくる。「熱闘甲子園」にしても、球児たちが負けて悔しくて泣いているのは共感できるんだけど、変に演出しちゃうことによって感動が薄れるんですよね。感動って本来は受け手が自分で文脈を作って感じるものなのに、メディア側から押し付けられちゃうとちょっと違うよなーって思うことはありますね。正直、僕は高校の時はほぼ控え選手だったので、レギュラー選手の美談みたいな話には共感なんて出来ないですよ。

中野 野球をやっていてたまに「感動をありがとう」的なことを言われることがあったんですけど、「こっちはあんたに感動を与えるためにやってんじゃねーよ」、と思わざるをえないですよ。基本的にはほとんど自己満足なので。

鯖野 あー、野球経験者はやっぱりそう思ってるんですね。ただ、結局ライトな観戦者からすれば、「感動」って言葉でパッケージされたものを渡されるのはわかりやすいんだと思いますよ。それが悪いとは僕はあんまり思わないです。あからさまな“美談”的消費に関しては鼻白むし、「別に彼らはこっちを感動させるためにやってるわけじゃないでしょ」と思ってはいるんですけど、そんなに野球を知らない人から「どういうところがおもしろいの?」って聞かれたときに、いきなり「荒波選手と石川選手っていうふたりがいて……」と言い出してもたぶん興味は持ってもらえない。腐女子の方なら響くんですけど(笑)。だから、「期待をかけられながら怪我に泣いた投手が一軍に上がって、先発勝利上げたときとか、感動するよ」って「感動」でまとめて説明したほうが興味を持ってもらえたりしますし。それで「観てみようかな」って思う人が増えるんだったら別にいいんじゃないか、と思うところもあります。まぁ、それは自分がプレイヤーとしては未経験者で、ファンとしての歴も浅いから、というのはあるでしょうが。

石丸 プロ野球選手も「感動を与えたくて…」ってたまに言ったりするけど、あれはリップサービスで、基本的に自分が活躍して楽しいというのと、お金を稼ぐためにやっているだけだからね。

中野 マスメディアを通してしか野球に接していないと、どうしてもそのあたりの機微に鈍感になってしまうんですよね。一方でネットのように「燃料キター!!!」ってイキイキし始めるのもちょっと違いますよね。野球とかスポーツ自体が悪いのではなく、全力や頑張りというものを美談として消費してきたマスメディアの問題にすぎない気がするんですよね。
 
  
■観戦か、参加か――野球をどう楽しむ?
 
鯖野 やっぱりここまで話をしてきて思うのは、今回の参加者の皆さんはほとんどが野球経験者だからか、試合にしても選手にしても見方が自分と全然違うんですよね。自分は「キャラゲー的に楽しんでる」とは言いましたけど、やっぱり野球を好きになったからには、ポジションとかシフトとか、野球をやってた人みたいに細かく見て楽しみたいな、って思うことがあるんですよね。「今の、この守備位置はなぜこの形なのか」みたいな感じで。

中野 うーん……やっぱり実際に野球をプレイしてみたりしないと、技術的な部分に注目して野球を見るのってなかなか難しいところはあるんですよね。

石丸 たしかにそうなんだけど、最近古田がこんな本を出していてけっこう面白いですよ。やっぱりポイントをいくつか絞って見ればいくらでも面白くすることができる気がします。
 
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▲古田敦也『古田式・ワンランク上のプロ野球観戦術』朝日新書、2015年
  
竹下 音楽は好きだけどバンドをやらない人は多いし、演劇とかドラマの評論だって、俳優じゃない人がするわけですから、もちろん観戦メインであれこれ言うという楽しみ方がちゃんとできたほうがいいですよね。でもその一方で、自分でやってみるのもいいんじゃないですか。

鯖野 あ、それでいうと、野球にハマった後でバッティングセンターに行ってみて、びっくりするくらい打てなくて、「プロ選手ってやっぱりすごいんだなー」というアホみたいな、なんJ的に言う「小並感」を抱きましたね(笑)。ちょっとでもやってみることによって、本職でやっている人に対する畏敬の念がより強まるという。

中野 でもバッティングセンターって、コツを掴むとどんどん打てるようになりますよ。たまにOL風の女性でめっちゃ打ち込んでる人とかいますけど、別に高校球児みたいに練習しなくても、その境地まで行くのってそこまでハードなわけではなくて、わりとボーリングに近い感覚ですね。
 ただ、これは宇野編集長もよく言っていますが、「松井のバッティングには1mmも参加できないけど、AKBは投票のようなかたちで自分が参加できる」という問題がありますよね。やっぱり野球をエンターテインメントとしてみたときに「参加できない」という実感はたしかにあると思います。
 これに関しては、ひとつスポーツジャーナリズムのこれまでのありかたの問題かなと思っていて。スポーツ雑誌だと「サッカーダイジェスト」「ナンバー」「スポルティーバ」でも、「週刊ベースボール」とかでも何でもいいですけど、ほとんどが観客目線の記事なんですよ。
 でも「自分だったらどうする」というのまで考えられた方が楽しいし、「やってみたい」と思えるようなものでもいい。その意味ではゴルフの在り方が面白いと思っていて「パーゴルフ」とか「ゴルフダイジェスト」みたいなゴルフ雑誌ってプロのインタビューとかも載っているけど、プレイの解説がほとんどだったりするんですよ。
 「参加する」「自分でやってみる」という方向性の雑誌では、「Tarzan」とか「Number Do」みたいな雑誌が流行っていたりしていて、これはランニングとか体幹トレーニングのような、健康を主眼に置いたものが中心です。で、ランニングとかって「参加型」といっても自分ひとりで続けるのはつらくて、友達がいないとなかなか続かなかったりする。逆に友達がいたら続くし楽しいし、それが一番やりやすいのって球技のようなチームスポーツなんです。
 これってコンシューマーゲームとソシャゲと同じで、どうしてもソシャゲのほうが勢いがあるのは、コミュニケーション要素があるからですよね。体を動かすという意味では、黙々とランニングやるよりもコミュニケーション要素やゲーム要素があったほうが楽しい。ちなみに今、「コーディネーショントレーニング」という考え方が来ているんですが、ランニングやウエイトトレーニングのような単調な運動ではなく、体全体を協調させて動かすというもので、要は「運動神経」を鍛えるトレーニングです。これは球技で鍛えられることが多い。だから「健康のための運動」って、草野球とかでもいいと思うんですよね。
 
コーディネーショントレーニング/JATIトレーニング講座|ザバス|株式会社 明治【公式】 
 
石丸 草野球よくやるけど、人集めが大変(笑)。で、フェイスブックで募集したりしてますよね。

中野 SNSに写真をUPしてリア充アピールを偽装した集客をしている(笑)。「いいね!を付けたこいつはやりたそうだな…」ということで網に引っかかった人に声をかけていくんです。
 ちなみに、このあいだの鳥越さんのインタビューで、「サッカーはボールとゴールだけあればできるしルールも単純だから伝播しやすいけど、野球は用具が多くて高いしルールも複雑だから普及しづらい」という話がありました。
 
統計学者・鳥越規央インタビュー(後編)「ゲームデザインはポピュリズムとどう向き合うか――スポーツからAKBまで」
 
 でも実は野球って用具が多いからその分、用具でカバーしやすかったりするんです。ミズノから発売されている、軟式野球専用で飛距離を上げるハイテクバット「ビヨンドマックス」というのがあったりして、パワーがなくてもそれなりに楽しめるようになってきています。
 
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▲これまで金属ないしカーボン製の固い素材が使われていた軟式野球用のバットだが、この「ビヨンドマックス」は打球面がウレタン製の柔らかい特殊素材でできていて、硬い素材のものよりも打球が飛ぶ。
画像出典:ビヨンドマックスメガキング|こだわりの逸品|MIZUNO 
 
かしゅーむ そういえばミズノが昔、「フィールディングマックス」っていうボールを絶対取れるグローブを発売したけど、すぐに生産中止に追い込まれたりしていましたね(笑)。他にも公式大会では使えない、めちゃくちゃ太いバットが発売されたこともあったし、野球ってツールの発達によっては参加性が上がりやすいスポーツですよね。
 
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▲ミズノ「フィールディングマックス」。よく見るとグローブの中にウレタン製の突起物が付いており、ボールを逃さない。こちらはビヨンドマックスと違ってチートすぎたのか、すぐに生産中止に……。頑張れば今でも入手可能です。
画像出典:草野球の守備に救世主、ミズノが「エラーしにくいグローブ」を発売。 
 
中野 これは『PLANETS vol.9』でも同じような議論をしていましたが、複雑なルールだとむしろ人によって運用を変えたりもできるわけですよね。たとえば僕の大学でゼミ対抗ソフトボール大会というのを毎年やっているんですが、「女の子ルール」というのがあったんです。女子はバッティングでは前に飛んだらヒット、守備ではグローブに触れたらアウト。だから女の子はパワーなくてもちょっとしたバレンティンみたいになっていたし、打線にどれだけ女性メンバーを組み込むかという、車椅子バスケのような状態になっていたりしていて。別に性別で分けるのが必ずしもいいわけではないですが、人によってカスタマイズして運用しやすいのも複雑なルールを持つ野球の強みなのかなと思います。フットサルとかも楽しいですけど、ハンデのつけようがないじゃないですか。

かしゅーむ もともと野球って運動神経が低くても参加しやすいんですよね。体育の授業とかで、サッカー部はヒーローなんだけど、野球部はだめな場合が多い(笑)。野球部の人たちは草野球でエラーとかしても笑って許してくれるし、運動神経悪い人につらく当たらないですよ。

中野 たしかに(笑)。これは男性だったら多くの人がわかるんじゃないかと思うんですけど、たとえば体育の授業でサッカーをやっていたとして、運動が苦手なオタクの子が左サイドバックとかに配置されて、たまにボールが来て空振りしちゃって失点につながると。するとサッカー部のガチ勢の子たちに「チッ…!」って舌打ちされる、みたいなことがありますよね。その点、野球は基本的にヌルいスポーツですし、野球経験ある人でも下手な人が多いので、非常に意識が低いですよ。

鯖野 そうなんだ……。自分がめちゃくちゃ運動神経が悪いこともあって、基本的にプロ野球に関しては「びっくり人間」とか「超人」の集まりを見てる感じなんですよね。だからさっき「野球をエンターテインメントとしてみると『参加できない』」という話を中野さんがしてましたけど、参加できなくていいじゃん、と思っちゃう。これは自分がハマるものに関しては野球に限らずそうなんですけど、自分の身体とは無縁のもので、自分にはできないことをやってのける人たちがそこにいる、それを一種崇めるようにして観ている、というのが楽しいから。どんなにルールや成績、あるいは選手のキャラクターを知ったところで、例えば18.44メートルを挟んで対峙する打者の気持ちも投手の気持ちも、およそ与り知らないものなわけです。その絶対に立ち入れない領域のことを想像するとき、「あー、野球好きだわー」って一番思ってるかもしれません(笑)。

中野 なるほど、でも、そもそもプロスポーツってそういう部分が魅力だったりしますよね。僕がここ数年のスポーツで一番すごいと思ったのって、第2回WBC決勝の韓国戦で、延長10回にイチローが韓国の抑えのエース・林昌勇(イム・チャンヨン)から決勝打を放ったシーンなんですけど、もう参加も何もなくて、世界トップレベルの二人の個と個の対決でしかない。

かしゅーむ 本来スポーツって経験者とガチで応援している人が多いじゃないですか。野球は「なんJ」とかが入り口になって、その中間からヌルっと入り込めると思うんですよね。

竹下 でも、野球って観るスポーツとしてはダラダラしすぎじゃないですか?

中野 まあ、そこがいいところでもあるんですよ(笑)。たとえばサッカーって見に行ったらなかなか目が離せないですし、ダラダラ見る場所もそんなにないですけど、野球はプレーの中断が多いのでよそ見しててもいいし、プロ野球観戦とかも基本的に一生懸命みないで、ビアガーデン代わりに広い空の下で友達とビールを飲みながらダラダラ見るとか、気楽な感じがいいんじゃないですかね。
 ちなみに東京ドームはボールパークとしては全然ダメなんですが、最近では広島のマツダスタジアムみたいに素晴らしい球場が出てきてますし、首都圏なら古いけれど神宮球場や横浜スタジアムはとても気持ちのいい空間だと思います。

石丸 その反面だけど、西武プリンスドームとかQVCマリンフィールド(旧・千葉マリンスタジアム)は微妙だよね。

鯖野 あちこちの球場行ってみるのも楽しみ方の一つですよね。野球はフェス的に、球場に観に行くっていうのがこれからもっと盛り上がるんじゃないかなという気はします。どこかのファンというわけではないけれど、なんとなく友達同士で球場に行ってみる、みたいなライトな楽しみ方。やっぱりそのあたりも、今度球界初の女性オーナーに就任した南場智子さんが、横浜DeNAにどうファンを巻き込んでいくのかが気になります。個人的には、去年の横浜スタジアムでやった「ショコラガーデン」というイベントにはちょっとびっくりしましたけど……女性向けってそういうことかなぁ、という(笑)。

中野 うーん、たしかに、単に「女性向け」という企画だけやってもあんまり意味がない気がしますよね。鯖野さんはもともと、産業的な意味でプロ野球に興味を持ったんでしたよね。

鯖野 そうなんです、単純にナベツネ問題みたいなものに対して新興企業がどう立ち向かっていくのかに興味があって。

かしゅーむ 昭和のマッチョな企業に対して平成のインテリジェンスな企業がどう戦っていくのか、という構図ですよね。

鯖野 プロ野球のオーナー会社の産業の種類によって、その時々の産業の中心がどこにあるかが見えるって言うじゃないですか。戦前なら映画会社だったり、戦後は鉄道会社とか新聞社だったけれど、今は楽天やソフトバンク、DeNAといったIT企業になってきているわけですよね。そうそう、ちょっと蛇足ですが、それでいうとまさに『南海ホークスがあったころ――野球ファンとパ・リーグの文化史』という本が、南海ホークスを軸にして、戦後のプロ野球界の発展と日本社会、都市の発展という話をじっくり書いていて、すごくおもしろかったです。選手の語りおろし本だけでなくて、もっとこういう野球の本が出てほしいですね。
 
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▲永井良和、橋爪 紳也『南海ホークスがあったころ---野球ファンとパ・リーグの文化史』河出書房新社、2010年
 
中野 ここ2年は日本一が楽天→ソフトバンクときているわけですけど、楽天の三木谷さん、ソフトバンクの孫さん、そしてDeNAの南場さんというIT業界のレジェンドたちが、今なぜかプロ野球のオーナーとして雌雄を決しようとしている。そういう意識高い系のフィルターで見るのも面白いですよね。
 
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▲南場智子『不格好経営――チームDeNAの挑戦』日本経済新聞出版社、2013年
 
 ここまでは起業家精神バリバリで野心家の三木谷さん、孫さんがプロ野球オーナーとしても結果を出してきた。一方で夫の看病をしたいということで一旦DeNA本社のCEOを退任した南場さんが、今回プロ野球チームのオーナーとして再び第一線に戻ってきたんですよね。その南場さんが、まだまだ旧態依然とした体質のプロ野球界に対してどう取り組むのか、っていう。
 僕が思うのは、もっと野球に関していろんな角度から批評してみたら楽しいんじゃないかということです。野球=日本文化の縮図のようなところがあるし、AKBでもサッカーでも何でもいいと思うんですが、いろんな比較対象を持ってきて、みんなが色んな意見を言い合うということがもっとできたら面白いんじゃないかと思います。
 
(了)
 

【4/7(火)開催!】「クリエイティブの生存条件―― これから勝つメディア、生き残るクリエイター」佐藤詳悟×佐渡島庸平(コルク)×古川健介(nanapi)×宇野常寛×【司会】高宮慎一

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▼概要
今メディアビジネスの争いが熾烈だ。SmartNews・Gunosy・NewsPicks といったニュースキュレーションメディアから、マンガボックス・comico などマンガアプリ、Amazon Kindle・楽天Koboの電子書籍、YouTubeとニコニコ動画、流行りのバイラルメディアまで、それぞれの領域で主導権を握るための競争が始まっている。問題は、そのすべてがプラットフォーム側の争いだという点だ。ひとたび覇権を握ったプラットフォーム側が料率を下げれば、苦しむのは創り手(クリエイター)でありコンテンツ提供者(パブリッシャー)である。
 
本イベントはネット以降、コンテンツそのもの(本/CD/DVD等)の価格が下がり続けるなか、クリエイターやパブリッシャーがどう生き残るべきか、激変するメディアビジネスを見通すためのトークイベントだ。音楽業界を中心にモノ(CD等)からコト(ライブ体験等)へマネタイズの中心が移るなか、本当にモノ自体に価値は発生しないのだろうか?
 
今回の渋谷セカンドステージも出演者は多彩だ。大手出版社出身ながら作家エージェントに未来を見出したコルクの佐渡島庸平氏、同じく大手芸能プロダクションから「ヒト」にかけて起業したQREATOR AGENTの佐藤詳悟氏、暮らしのレシピをコンセプトに自らメディアを立ち上げて運用するnanapiの古川健介(けんすう)氏、そしてPLANETS編集長の宇野常寛の4名である。司会にはマネタイズのビジネスモデルを見極めるプロであるグロービズの高宮慎一氏を迎えた。新聞、テレビ、ラジオ、出版、ネットなどすべてのメディア産業に携わる者、クリエイターやパブリッシャーが知っておくべきメディアビジネスの未来を縦横無尽に語り尽くす。
 
▼出演者(敬称略)
佐藤詳悟(QREATOR AGENT代表)
佐渡島庸平(コルク代表)
古川健介(nanapi 代表)
宇野常寛(評論家、PLANETS 編集長)
【司会】高宮慎一(グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/CSO)
 
▼スケジュール
4月7日(火) 18:30 open / 19:00 start
 
▼会場
渋谷ヒカリエ 8階 8/01/COURT(渋谷駅 直結)
〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1
 
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