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本日のメルマガは、真実一郎さん・石岡良治さんと『妖怪ウォッチ』を語った鼎談です。なぜ妖怪ウォッチはここまでのメガヒットコンテンツになったのか? レベルファイブの過去作や水木しげる、『おぼっちゃまくん』『クレヨンしんちゃん』『ポケモン』といった他の児童向け作品と比較しながら考えます。
▼作品紹介
『妖怪ウォッチ』
企画・シナリオ原案/日野晃博 監督/ウシロシンジ シリーズ構成/加藤陽一 制作/OLM 放映/テレビ東京
『レイトン教授』『イナズマイレブン』など多数のヒット作を生んできたゲームメーカー・レベルファイブが手がけるクロスメディア展開作品。さくらニュータウンに住む小学5年生・天野景太(ケータ)と、妖怪執事ウィスパー、ネコの地縛霊妖怪・ジバニャンを中心に展開するギャグタッチの妖怪アニメ。ネットスラングや他作品のパロディネタが多く含まれ、大人でも笑える。
▼座談会出席者プロフィール
真実一郎(しんじつ・いちろう)
広告から音楽、マンガ、グラビアアイドルまで世相を観察するブログ「インサイター」運営。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(洋泉社新書y)。
石岡良治(いしおか・よしはる)
1972年生まれ。跡見学園女子大学ほかで非常勤講師。専門は表象文化論。近著に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)。
◎構成:藤谷千明
宇野 今年は、黄色いネズミ(=ピカチュウ)が赤いネコ(=ジバニャン)に食われた年として記憶されるんじゃないかというくらい、『妖怪ウォッチ』の勢いがすごかった。
真実 ここまで急速にビッグなコンテンツになるとは、予測されていなかったんじゃないでしょうか。僕には小学生の子どもがいるんですけど、子どもたちを見ていて思うのが、ほかのコンテンツと比べて『妖怪ウォッチ』はメジャーになるスピードが速い。『妖怪ウォッチ』のマンガ版が載っている「コロコロコミック」(小学館)も、それまでは60万部くらいだったのが、付録に妖怪メダルをつけた途端130万部が完売になったそうで、今でも安定して100万部は売れているようです。妖怪メダルは2014年末までに1億5000万枚出荷と聞きます。あの大ヒットした『仮面ライダーオーズ』のメダルでも3300万枚といわれているので、その凄さが分かりますね。
宇野 アウトドア雑誌でも親子向けのグッズ付録を付けたり、セブン-イレブンやピザーラなど、企業コラボの節操なさもすごい。
真実 ヒットしているコンテンツって、普通は売れれば売れるほどタイアップ先選びに慎重になるんですけど、『妖怪ウォッチ』はなんでもありですよね。経営不振のマクドナルドが、妖怪ウォッチとコラボしたことでハッピーセットの売り上げが3倍くらいになったらしく、「神風が吹いた」と言われています【1】。「hulu」のような動画配信サイトも、どこもこぞって『妖怪ウォッチ』の配信を売りにしている。12月公開の映画も特別協賛がサントリーや花王、日本生命など大企業が8社もついている。これはもう、日本経済を動かしているといえるかもしれません。
【1】マクドナルドと『妖怪ウォッチ』
日本マクドナルドでは、ハッピーセットなどで『妖怪ウォッチ』グッズを展開しており、今年9月には開始5日間で当初予定の3倍となる販売数を達成。11月には「妖怪ウォッチ カレンダー2015」を発売した。
宇野 今年発売された3DSソフト『妖怪ウォッチ2 元祖/本家』も、累計300万本を超えた。玩具の妖怪ウォッチも品薄が続いています。もはや国民的タイトルになっているにもかかわらず、特にアニメ版は、あそこまで好き勝手にやっていいのかと思ってしまう。21世紀の夕方にこういうアニメが放送されているって、奇跡的なことに思える。ゲームも工夫されているとは思うけど、『妖怪ウォッチ』の直接のブレイクのきっかけはアニメでしょう。徹底的に俗悪に風俗と一体化するような形で、キャラクターを新しく作っている。同じ幼年向けコンテンツでゲーム原作の『ポケモン』と比べても、アナーキーさが違う。むしろ今の『ポケモン』アニメは、上品にまとめようとしていてつまらない。
石岡 ジバニャンの可愛さを盾にして、好き放題やっている感じがいいですよね。『ポケモン』も初期は“ユンゲラー”【2】みたいなパロディに代表されるように、黒い要素が満載だったけど、今はそうではなくなっている。『妖怪ウォッチ』にはまだ、「子どもに見せたくない感じ」があります。あのパロディの節操のなさは異常でしょう。39話がネット配信休止になった時も「ピンクレディーのパロディが原因じゃないか」とかいろいろ理由が推測されてましたが、「ほかの話のほうがヤバイだろ!」と思いました(笑)。
【2】ユンゲラー
ねんりきポケモン。当然モデルはユリ・ゲラーで、当の本人から損害賠償を求める裁判を起こされた。
宇野 23話でロボニャンがアナル開発される回【3】や、27話のスティーブ・ジョブズをパロったスティーブ・ジョーズの回【4】なんか、特にひどかった(笑)。ジョブズなんて、まだ亡くなって3年くらいしか経っていないのに、容赦なくネタにしてしまっている。しかもあの回って、玩具の「妖怪ウォッチ零式」の発売直前で、視聴者に対して「零式もiPhoneみたいに並んで買えよ」と暗に言っているわけで、悪意がすごい。
【3】ロボニャンがアナル開発される回
ロボニャンは、ロボットのような外見をした「未来のジバニャン」。決め台詞は「I’ll be back」。27話では妖怪「からくりベンケイ」と戦い、剣で体を突かれて頬を赤く染め「さぁ、もっと来い!」と叫ぶドMぶりを発揮した。
【4】スティーブ・ジョーズの回
妖怪世界で「妖怪ウォッチ零式」を開発したとされる「スティーブ・ジョーズ」が登場。ジーパンに黒いタートルネックでプレゼンする姿は、完全にスティーブ・ジョブズだった。「妖怪ウォッチ零式」買いたさに、多くの妖怪がガラス張りのショップに長蛇の列をなし、ウィスパーも「乗るしかないです、このビッグウェーブに!」とケータを連れて参戦。
真実 昔の『飛べ!孫悟空』【5】的なパロディというか、『サウスパーク』的な風刺というか、サブカルチャー的な過去のネタ引用がめちゃくちゃ豊富ですからね。アニメというより、まるでバラエティ番組です。石岡さんが「子どもに見せたくない感じ」とおっしゃいましたが、『妖怪ウォッチ』のあのブラックさは、教育上はよろしくないかもしれないけど、親も一緒に観ていて楽しめてしまう。うちの子供もニャン八先生の真似とかしてますよ。
【5】『飛べ!孫悟空』
77~79年にTBS系列で放送された、ザ・ドリフターズの人形劇。ドリフのメンバーそれぞれを『西遊記』の登場人物に見立て、よく似た人形を登場させて声をあてていた。毎回ゲストを招き、そのタレントとギャグを展開するつくりになっていた。
宇野 『サウスパーク』は社会風刺としてのパロディだけど、『妖怪ウォッチ』にはそれすらない。同じ幼年向けアニメの『ケロロ軍曹』は大人のオタクの想像の範囲内、安全圏でパロディをやっているけど、『妖怪ウォッチ』は原作に配慮がないというか、ある種、殺伐としているのが面白い。もちろん、幼年向け作品の中でパロディというのは昔からあって、『ドラえもん』だって、ミニ四駆やガンダムが流行ればそれを取り入れたエピソードを出していた。けれど、それは児童誌で連載しているから流行を追わなければならないということであって、『妖怪ウォッチ』のあの節操のなさとは全然違う。
石岡 1970~80年くらいの子ども向けのドラマだと、古典落語や時代劇の教養を前提としていて、大衆演芸の歴史を意識した脚本家は結構多かったと思うんですよ。話の中で忠臣蔵パロディが突然始まる、みたいな。今それをやろうとすると、ネタの参照源としてちょっと前のハリウッド映画や海外ドラマ、日本の『金八先生』みたいな作品が古典として出てくる。数十年前の日本のドラマやマンガといったものが、古典としてリサイクルされている感じがある。各話完結で話数がめちゃくちゃ多い幼年向けアニメは、どうしても穴埋め回が増えてしまう。だからその分、脚本家の素のネタがバンバン出てくるわけです。話数が膨れ上がると、そういう穴埋めや引き延ばしが出てくるのは避けがたい。大人が幼年向けアニメーションを見ることの厳しさの理由のひとつとして、穴埋めによる物量の極端な水増し感にあると思うんですよね。『妖怪ウォッチ』はその水増しも穴埋めも、まったく考え抜かれていないがゆえに、かえって結果的にコンテンツとして面白いものになっているのが興味深い。
そういえば水増しという意味では、古典妖怪【6】の存在はどんどん使い倒していくのかなと思いきや、そうでもなかったのが意外でしたね。現代の子どもに怖がられなくなった古典妖怪たちがホラーDVDを見て、怖さを学習して子どもたちをビビらせるというエピソードはいいなと思いました。現代メディアを活用しない懐古性みたいなものは一切持ち合わせていないところが徹底している。
【6】古典妖怪
『妖怪ウォッチ』内で、伝統的な妖怪につけられた種別名。「一つ目小僧」「ろくろ首」「唐傘お化け」などが登場する。ウィスパーがへりくだる。
宇野 古典妖怪も、ジバニャンの持っている「ニャーKB」【7】のチケットで買収されるしね。
【7】「ニャーKB」
『妖怪ウォッチ』作中に登場する、国民的アイドルグループ。ジバニャンが大ファン。
真実 全体を通じて、『クレヨンしんちゃん』につながる猥雑さがありますよね。
宇野 『ドラえもん』『ポケモン』『妖怪ウォッチ』というラインで考えると、『クレヨンしんちゃん』は補助線として大事ですね。もしかしたらアニメから風俗を感じる作品って、『クレしん』以来かもしれない。90年代に『クレヨンしんちゃん』が出てきたときに、『サザエさん』世代でもない、ポストバブルの核家族のリアリティが強烈にあった。そういった作品群の現代版が『妖怪ウォッチ』なのかもしれません。
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