【ほぼ惑ベストセレクション2014:第2位】
【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛
「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.12.31 号外
http://wakusei2nd.com

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2014年2月より約1年にわたってお送りしてきたメルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」。この年末は、200本以上の記事の中から編集長・宇野常寛が選んだ記事10本を、5日間に分けてカウントダウン形式で再配信していきます。第2位は、デザイナー・根津孝太さんと「レゴ」について語り合った対談です!(2014年6月11日配信)

 

▼編集長・宇野常寛のコメント
ツイッターに上げたりしているので気づいてくれている人もいると思うけれど、この一年半ほど僕はレゴに凝っています。そのなかでスケールモデルとの違いをすごく考えてしまう。僕は小学生の頃からスケールモデルには親しんでいてすごく好きなんだけれど、一方でレゴのようにある程度ディフォルメされた玩具のほうが、スケールモデルよりもリアルに感じる瞬間がある気がする。この感覚について、僕の知る限り一番のレゴマニアであるデザイナーの根津孝太さんと語り合ったのがこの対談です。
ここまで配信してきた年末ベストセレクションでも登場したトランスフォーマーの記事もこの対談から派生していて、この一連の玩具論というのは僕が今年、理論的に持ち帰った一番大きなもののひとつだと思っています。


▼プロフィール
根津孝太(ねづ・こうた)
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。賛同した仲間とともに「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク『zecOO (ゼクウ)』の開発に取組む一方、トヨタ自動車とコンセプトカー『Camatte (カマッテ)』などの共同開発 も行う。パリ Maison et Objet 経済産業省ブース『JAPAN DESIGN +』など、国内外のデザインイベントで作品を発表。グッドデザイン賞、ドイツ iFデザイン賞、他多数受賞。
 
◎構成:池田明季哉
 
■小さいときからレゴ大好き!――根津孝太とレゴ
 
宇野 僕がレゴを買いはじめたのって、実はここ1年くらいなんですよ。ずっと買おうと思っていたんですが、手を出したら泥沼にハマることがわかっていてなかなか買えなかった(笑)。でもとうとう我慢できなくなって「レゴ・アーキテクチャー」シリーズに手を出してしまい、それから「レゴ・クリエイター」の大型商品を買ったりとか、あとは「レゴ・テクニック」の3つのモデルに組み替えられる小型商品とか、あとはヒーローものが好きなので、バットマン・シリーズを買ったりとかしています。
 根津さんは昔からのレゴファンという風に聞いています。今日はレゴについて、いろいろなお話を伺えればと思います。

根津 僕はレゴが小さいときから好きなんです。ただ最初に買ってもらったのがレゴってだけだったんですけど、子供ながらに発色の良さとかカチッと組み合わさる感じとかにクオリティを感じていて。レゴ新聞に載ったこともあるんですよ!
 
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▲楽しそうに話してくれる根津さん。「CAST YOUR IDEAS INTO SHAPE」と書かれたレゴのTシャツが素敵。
 
宇野 レゴ新聞! そんなものが……。やはり後に根津孝太になる人間は、小さい頃から根津孝太だったということですね(笑)。

根津 街づくりのコンテストに妹と一緒に出したら入賞しちゃって。そしたら依頼が来て、小学校6年生くらいのときにF1を作ったんです。同じF1の、ひとつすごい大きいのを作って、もうひとつすごい小さいのを作って、ブロックの差こんだけです! みたいなことをやったんですね。
 例えば、これは僕のデザインしたリバーストライク「ウロボロス」をレゴにしたやつなんです。アメリカに自分がデザインしたモデルをパッケージに入れて届けてくれるサービスがあって、それで作ったんです。これも大きいものと小さいもの、両方作っています。

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▲異なる解釈のふたつのウロボロス。資料の右上が大きいもの、左下が小さいもの。レゴファン諸氏は、ウィンドシールド部分の大きさから全体のサイズを推し量っていただきたい。
 
 ウロボロスのレゴも実物の写真を見ながら作るわけですけど、小さく作るとよりディフォルメしないといけない。だったらやっぱりこのフェンダーの丸いところと、タイヤの表情がウロボロスらしさだよね、それ以外は大胆に省略しよう、ということで、自分の解釈を出してるんです。
 
 
■解像度と見立ての美学――ディフォルメだけが持つ批評性

宇野 根津さんはずっと小さいときからレゴをほとんど途切れなく作ってきてるわけですよね。それなりに長いレゴの歴史をずっと追ってきたと思うんですけど、レゴの歴史のターニングポイントみたいなものってありますか?

根津 一時期、解像度を上げるために、専用パーツが一気に増えたことがあったんですよ。絶対にそのモデルでしか使えないような。
 でもレゴがさすがだなと思うのは、必ずそうじゃない使い方も用意して提案してくるんですよ! 「これ他に何に使えるんだよ……」みたいなパーツでも、後で必ずなるほどと思うような使い方をしてくる。それは最初からそれがあってパーツを作っているのか、それとも後からレゴの優れたビルダーが使い方を考えているのかはわからないんですけど。
 例えば僕が作ったこの装甲消防車も、このコックピットの横の板の部分は、チッパー貨車っていう列車のすごく特徴的な部品を使ってるんですが、パッと見わからないと思うんですよね。あとは有名なビルダーさんには、ミニフィグだけで何かを作ってしまう人とかもいますし、このオウムが人間の鼻に見えるんですとか、いろんな見立てができるんです。

宇野 レゴってある時期から、どんどん模型化しているじゃないですか。組み替えを楽しむ玩具というよりは、独特のディフォルメと解像度を持つ模型の方向に舵を切っていて、この転向に批判的なファンもすごく多い。でもここ10年くらいのレゴの変化って、もっとポジティブに捉えていいんじゃないか。レゴの美学がもたらす快楽に世界中が気付き始めている、そう考えていいんじゃないかと思っているんですね。
 
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根津さんが持ち上げているのが、開閉式のコックピット。
 
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▲同じパーツを使った別モデルのコックピット内部。このアングルになって初めて、バケット状のパーツを使っていることに気付かされた。
 
根津 レゴのブロックひとつとっても、そこに感情移入できるかどうかが重要だと思うんです。リアルじゃないと感情移入できないというなら、レゴは成り立たない。それだったら塗装したプラモデルの方がスケールモデルとしては絶対にリアルなんです。だからレゴの魅力っていうのは、人の解釈がそこに出るところだと思うんですよね。

宇野 レゴを成立させているのは、見立ての美学だということですよね。
 僕、一番の趣味が模型なんですよ。スケールモデルもキャラクターモデルも好きなんです。でもあるときふと考えたんです。スケールモデルはリアルさを追求しているって言われるけど、リアルってなんだろう、って。結局どれだけ精巧に作っても、それは現実そのものではないわけなんですよね。縮小した模型である時点で必ずどこかに解釈が入る。タミヤがやってきたスケールモデルですらも、実は限りなく実機を再現しているから魅力的なんじゃなくて、あのサイズでできるだけ実機に近づけることで独特の美学を構築しているんだと思う。アニメでいうと高畑勲や押井守の作品がわざわざ絵で実写「風」の絵柄と演出を選択していることで独特のリアリティを獲得しているのに近いかもしれない。
 そして僕は近年の「模型化」したレゴは、こうした見立ての快楽を極限まで追求したものになっていると思うんです。
 例えばレゴ・アーキテクチャに、マリーナベイ・サンズがあるんです。これってすごく特徴的な建物ですよね。これを作ったビルダーは、どこを省略してどこをピックアップするか、どんなカラーリングにするか考えることで、マリーナベイ・サンズの本質とは何かについて考えた、むしろ考えざるを得なかったはずなんです。それによってむしろ「らしい」マリーナベイ・サンズが表れてくる。
 レゴは極端なディフォルメだから、より極端な解釈が必要になるんだけど、だからこそそこに圧倒的な批評性がある。