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大リーグボール養成ギプスは元祖拡張スポーツだ! 「超人オリンピック」仕掛け人・稲見昌彦教授インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.183 ☆

2014/10/21 07:00 投稿

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大リーグボール養成ギプスは元祖拡張スポーツだ!
「超人オリンピック」仕掛け人・稲見昌彦教授インタビュー
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.10.21 vol.183

本日のほぼ惑は、今冬発売予定の「PLANETS vol.9(特集:東京2020)」先取り記事をお届けします。今まで、まったく別のものだと思われていた「ゲーム」と「スポーツ」をつなぐものとは――? 慶應大学の稲見昌彦教授が仕掛ける「超人オリンピック」構想についてお話を伺ってきました。

2014年2月28日~3月1日にかけて、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)の稲見昌彦教授が「超人オリンピック」をテーマにしたシンポジウム「Augumented Sports」を開催した。人と機械を融合させテクノロジーの力で「超人」と化した人間がプレイする未来のスポーツの姿を提案する試みだ。
 
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▲シンポジウム「Augumented Sports」の様子
 
ロボットのような外骨格スーツで人間の動作を拡張する「スケルトニクス」(上図参照)や、ドローンで撮影した映像をHMDに投影して視覚と連動させる「FLYING TELUBEE」をはじめ、様々な技術展示が行われたこのシンポジウム。スポーツをプレイと観戦の両面から拡張することを目指しており、従来のオリンピックとパラリンピックの垣根を取り払うといったねらいもある。稲見教授は2020年の東京オリンピックに合わせて「超人オリンピック」のイベントを開催する予定で、現在福祉機器の開発者やゲームデザイナーなどを巻き込んでプロジェクトを進行中とのことだ。
 
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テクノロジーがスポーツを拡張すると一体どんな可能性が生まれるのか。稲見教授にお話を伺った。
 
◎聞き手:中川大地/構成:大井正太郎
 
これまでに配信した「PLANETS vol.9(東京2020)」関連記事はこちらから。
 
 
■拡張スポーツに秘められた可能性
 
――今回の「超人オリンピック」の着想に至るまでにはどういったプロジェクトの経緯があったんでしょうか?

稲見 私自身のモチベーションやバックグラウンドで申しますと、VRやAR(拡張現実感)と言われているもの、あとはロボット工学のことを専門として研究を行ってきました。その中でAugumented Humanという拡張人間に関する国際会議が行われていまして、日本人ですと私や東大の暦本純一先生などが運営メンバーとして入っています。世界的にARというと、環境に情報を重ねてあげることで人を情報的に支援していこうという話だったんですが、もう少し人側に寄り添ったかたちで人間の身体機能、もしくは感覚機能を拡張できないか、というのが今メインで研究しているAugumented Humanという分野の研究コンセプトです。

デジタルスポーツという形はそれまでもAugumented Humanのセッションで取り上げられていたんですが、私も2020年の秋に東京にオリンピックが来るとなった時に、これは日本が世界で得意なテクノロジーの部分と、日本ならではのカルチャーと、スポーツという3つが結びついた新しい文化イベントができるんじゃないかということで、昨年の秋に着想したのが「超人オリンピック」です。同じように考える仲間がAugumented Humanの界隈の人たちにもいたので、色々と連携してやっていこうという話になりました。

同様の発想で、最新の義体を身につけて競技を行う「サイバスロン」というイベントもスイスのロボティクス研究所の主催で進められています。あちらは2016年のリオオリンピックに合わせて開催される予定なんですが、我々は東京オリンピックを目指してやっていく組織として、今色々とコンソーシアムも含めて設立の準備をしているという現状です。

その中で一番キーとなるのが、ロボット義足研究者のヒューハーの言葉です。ヒューハーは本人も義足をつけているんですが、「人や障害にバリアがあるのではなく、テクノロジーにバリアがある」という言い方をしているんですね。つまりテクノロジーを使うことによってそのバリアはなくなるかもしれない、技術が本当の意味でのバリアフリーを実現できるという考え方なんです。たとえば私も視力0.1を切ってるんですけど、メガネをかけていれば普通に生活できていますし、誰も私のことを視覚障害者という言い方はしないわけですよね。メガネをかけている人というのは、あくまでも身体的特徴の一つであって障害とはみなさないという風潮になっている。それと同じように現在障害と言われていることでも、技術が十分に進歩していけば、たとえば義足をつけていることもメガネをつけていることと変わらないような見方をされるようになるかもしれません。健常者との区別がなくなるということのベンチマークとして、パラリンピックとオリンピックの垣根を全部取り払うこともテクノロジーが可能にするかもしれない。そのための試みがあってもいいのかな、というのが福祉的な観点からのアプローチです。

もう一つは、テクノロジーはバリアを取り除くだけではなくて、我々の身体とか可能性自体を拡張することもできることを示す必要があります。もちろん福祉という観点は大切なんですが、逆に福祉と言われているものをより多くの人が低価格で使えるようになるためには広いマーケットが必要になる。福祉専用機だけではなく、健常者と呼ばれている人たちも使いたいと思うようなものを作っていくことによって、全体の技術レベルを上げてコストを減らしていく、ということができないかと考えています。また、プロとアマチュアの身体能力・感覚能力の差をテクノロジーでサポートすることによって、お年寄りや子供、男女も分けることなくプロのプレイヤーとしてプレイできるような新しいスポーツもできるかもしれない。そのために使われている技術は、もしかすると日常的にも使えるものかもしれない。このあたりが最初のコンセプトとして持っている考え方です。

――それがAugumented Humanの問題意識として最初に上がってきたのはいつごろなんでしょう?

稲見 私自身は90年代くらいからずっと研究目標にしてきましたが、国際会議としてまとまったのが2010年になります。そういう意味ではAugumented Human10周年の時に2020年の東京オリンピックを迎えるということにもなりますね。

最初のカンファレンスはフランスのムジェーヴというスキーリゾートで行われました。もともとスポーツとテクノロジーのイベントが行われていた場所で、もっと一歩進めたAugumented Humanということを考えられないかと。やはり最初からスポーツというのはターゲットとして考えていました。

――今年の2月に行われたシンポジウムに至るまでの、国内的な動きとしてはどんな機運があったのでしょうか。

稲見 国としてもオリンピックに関わるようなところ、特に科学技術をやってるようなところはなんとかサポートしたいという思いがあるようです。ロンドンオリンピックの時からオリンピックそのものだけではなくて、その前後の文化イベントも大変重視されるようになっていまして、そういう取り組み自体には興味を持っているという方々がだいぶ出始めています。

あとは遠藤謙さん(ソニーコンピュータサイエンス研究所・研究員)のような実際に福祉用の機器を開発されている方々から、是非一緒にやりたいというお話もいただいています。リハビリテーションセンターのような、もっとシリアスに福祉機器を考えてらっしゃる方々にもお伺いして、だいぶ厳しいご意見もいただきながら議論を進めています。やはり「研究と開発を混ぜちゃいけない」ということは言われました。もし2020年を目指すなら開発しかやっちゃいけない、研究要素を入れると間に合わなくなると。それから「あれもこれもできる」と夢を膨らませすぎても、実際にできなかった時にがっかりしてしまう方もいるので注意を払わなければいけないと、大変貴重なアドバイスをいただきました。

それから実際にスポーツ科学を研究されてらっしゃる方からも一緒にやりたいと言っていただいています。SFCの加藤貴昭先生という方で、ご本人自身が実際にマイナーリーグで投げていたスポーツプレイヤーでもあるんですけど、特に認知工学の面で興味をお持ちだということで加わっていただいています。Augumented Humanで一緒にやっていた暦本先生とも、お互いが色んなチャンネルを使いながらこの運動を広めていきましょうということでシンポジウムとして集まった感じですね。

展示ではAugumented Humanやロボット関係の方々に興味を持っていただけるような方にお願いしました。それをご覧になった方々が色々と興味を持たれて、ニコニコ学会や「超福祉機器展」といった場所でAugumented Sportsを踏まえたようなイベントをやりたいという話も出てきています。

――では、やはりこの動きの大きな起爆剤になったのが2月のシンポジウムだったと。

稲見 そうですね。それがきっかけとなって国内で初めて一つのまとまりとして立ち上がったということなのかもしれません。

これからも参加者はどんどん増えていくと思いますし、2020年までの間にニコニコ学会βの「未来の普通の運動会」のようなイベントもやっていきます。毎年オリンピック的なものをやっていたら大変ですので(笑)、経年的には運動会みたいな形で地域と密着していくようなかたちがいいかもしれませんね。
 
▼参考記事
 
それからウェアラブル立県を目指している福井県が、2018年に行う国体をウェアラブル国体にしたいという構想を持っているそうなんです。県の方から協力してやっていきたいというお話もいただいていまして、非常にいい機会だなと。2020年を前にしてまずは2018年の福井国体を目指して国内で色々やっていきたいと思っています。今のところ技術展示っぽくなってしまっていますけど、実際に新しいスポーツのルールとか観戦の仕方を含めて皆が体験できるものを2018年までにまず作っていきたいと思っています。

――現状、稲見先生のKMD内で動いているプロジェクトについても、主軸となるものを具体的に教えてください。

稲見 一つはドローンで撮影した映像と視覚を連動させる「FLYING TELUBEE」。自分が空を飛んだかのような感覚を付与できないかという身体拡張の試みです。実際にハリーポッターのクィディッチのように空を飛びまわることは難しいですが、こういうものを使ってそれに近い競技を作ることができるかもしれません。
 
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▲FLYING TELUBEE
 
「Haptic Broadcast」はプレイするというよりも体験を拡張するもの。スポーツ観戦を拡張するための試みで、実際に選手がラケットを打った感触を、テレビ観戦している人が手に持ったデバイスを通して実際に感じることができるというものです。

いくつかの技術の方向性があると思っていまして、プレイヤーの身体を拡張するという方向性の他、プレイヤーのトレーニングを拡張するということも考えられます。たとえば高地トレーニングをするためにわざわざ遠征が必要だったようなことが、テクノロジーベースで同様の効果を得られるようになるかもしれない。それから視聴そのものを拡張することでも、テレビ観戦の拡張とフィールドで応援することの拡張があります。マラソンを現地で観戦してる人って選手が走っていってから何やってるのか私は昔から謎なんですよね(笑)。それがちゃんと現地にいることが楽しいというものになると観戦スタイル自体も変わってくるかもしれない。その4つの方向性でやっていくのがいいかなと思っています。

――稲見研以外でのプロジェクトでは、ロボットのような外骨格を実際に装着する「スケルトニクス」が多くのメディアでも報道されていてインパクトがありますね。これはAugumented Sportsの観点からはどういう意義を持って取り組まれているんでしょう?

稲見 器具をつけて走ったり跳んだりするだけでも、新しい競技として面白いんじゃないですかね。他にもジャンピングシューズみたいなものも考えられるかもしれませんが、様々な機器を使うことが可能になるので、むしろ予選通過の条件が「生身の身体での世界記録を抜くこと」くらいから始めてもいいのかもしれません。テクノロジーのアシストを受けた「無差別級」のようなスポーツがあってもいいのかなと。
 
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▲「スケルトニクス」
 
 
■拡張スポーツにはテクノロジーだけでなく「文化」の力が必要
 
稲見 そういうスポーツをテクノロジーが実現可能にするとして、入っていく導入としてカルチャー的なところは是非取り入れたいんです。未来のスポーツの姿をイメージしたような作品とか、場合によってはアニメや漫画が出てきてもいいと思ってるんです。テクノロジーを皆が使うのが前提になった時代のスポ根ものにも新しい面白さがあるかもしれない。そういうものがあると日本ならではの発信力になるのかなと。昔の漫画にもアストロ球団とか大リーグボール養成ギプスみたいなものがありましたが、あれが元祖Augumented Sportsだと思います(笑)。

――新しいスポーツの形を受け入れてもらうためには様々な方向からアプローチする必要があるということですね。

稲見 テクノロジーだけでは駄目なんです。そこでゲームデザイナーの方が重要な役割を果たすと思います。と言うのも、今あるスポーツというのは自然発生的に出てきたものが様々な歴史の洗礼を受けてちょうどよいゲームバランスになったものがたまたまプロスポーツとかポピュラーなスポーツとして生き残っているという話だと思うんですよね。サッカーのオフサイドだって最初からあったわけじゃないですから。

――あれはゴール前で待ち伏せするやつがいるとゲームバランスが崩れてヌルゲー化するから、禁止にすることでゲーム性を高めようというゲームデザイン的な発想ですね。

稲見 それがようやくこなれてきたわけです。ということは新しいテクノロジーを含めてプレイヤーや応援している人が面白いと思えるスポーツを作ろうとした場合は、そのルールを人為的に設計しなくてはいけない。つまり自然言語ではなくプログラム言語を作らなければならないわけです。それができるのはそういうスキルを持っているゲームデザイナーの方々。

ゲームデザイナーの方々も画面の中だけではだんだん飽きてきたらしいんです。WiiやKinectによってゲームが画面からリビングまで出てきて、今度はGoogle Glassによって屋外にも出ていこうとしている。スポーツとテクノロジーが結びついた時に、どういうルールにすると皆が面白いと思えるのか。スポーツは最初の身体差で自分には無理だと諦めてしまうような人も出ますが、ゲームは多くの人ができるようにきちんとレベルデザインがなされているんですよね。そういった新しいルールで新しいスポーツを提案できればロケットブースト的に一気に広まるかもしれない。そこもすごく大切にしたいと思っています。

――Wii SportsやKinectは今あるスポーツを置き換えてみようというところから始まっていましたが、その経験をむしろスポーツの組み換えのほうに返していこうっていう感じですね。

稲見 ですから本当の意味でスポーツ工学って無かったんですよね。スポーツ考古学とかスポーツ科学はたくさんあったんですけど、スポーツの面白さとか大切なところとか皆が応援するドキドキ感っていうものをモデル化して、そのモデルに基づいて新たなスポーツを作ろうっていう工学的な観点は多分今まで無かったんです。でも我々が小学生の時を思い返してみると、我々は皆新しく「俺達ルール」とかを作ってそれはそれで楽しんでましたよね。それでゲームバランスは崩れたりするんですけど楽しかった(笑)。でもそれをいつの間にか我々は忘れてきた。良きプレイヤーになることは散々推奨されてきたんですけど、いつの間にかルールをいじるなんてことは考えてはいけないことになっていたんです。そこをもう一回頭を柔らかくして考えていくと、今度は日本発で今のポップカルチャーのようなポップスポーツとして広まっていくものが出てくると思うんです。そういった所は中村伊知哉教授と連携しつつ進めたいと考えています。

――オリンピックという取り組み自体がギリシャで始まったものすごく古典的な西洋の人間感に即して作られたものだったわけですけど、それに対して外部の文化として日本が近代以降関わってきた中で、ようやくそれに対して違うボキャブラリーを与えられる位置に辿り着いたのかもしれませんね。西洋のスポーツ文化を咀嚼した上でさらなる改善提案をしやすい位置にいるのかもしれない。実際Augumented Sportsの議論を展開していく中で、日本と海外の研究者の温度差だったり発想の違いっていうのはありますか?

稲見 日本は技術志向ですよね。ヨーロッパとかはもう少し文化的な側面とか、どういうルールであるべきかとかスポーツのエンターテイメント性とはなんだろうっていうところを調べたような研究が多い気がします。アメリカでロボットをやってるような人たちのほうがむしろこういうのに興味を持ってるかもしれません。彼らもパワーアシスト大好きなので。スターシップ・トゥルーパーズからむしろ彼らの中では伝統ですから(笑)。

――今あるスポーツにテクノロジーを導入してルールを変えたほうがいいのか、それとも全く新しいスポーツを一から作るのか、方向性としてはどちらが強いんでしょう。

稲見 両方じゃないですかね。ハリーポッターに出てくるクィディッチみたいなものは今あるスポーツを拡張するより新しく考えたほうがいいですが、まず何かメタファーがあったほうが説明はしやすい。ビデオゲームも最初は「Tennis for Two」でテニスのメタファーから始まっています。
 
 
■「人機一体」が最強のプレイヤーをつくる
 
――オリンピックって真剣勝負としての面が強いと思うんですが、Augumented Sportsとして新しいスポーツを広める時にはエンターテイメント性も必要だと思うんです。そのガチンコ感と娯楽性のバランスっていうのは両立できるものなんですか?

稲見 逆にハンディがなくなるから真剣になれるのもあるんじゃないですか。テクノロジーはハンディを不可視化することができるかもしれない。たとえばゴルフとかはハンディがあるから一緒にプレイできるという部分があるんですが、それは可視化されすぎてしまっていて、その分だけ手加減されているようにも見えてしまいますよね。そうではなく、たとえばマリオカートで一番最初に走っているより二番目のほうがちょっと加速がよくなっていたりというのは、可視化されない程度に釣り合うようになっていて、だからこそ真剣になれるということがあると思います。人は同じくらいの能力の人とは真剣になれるんですけど、能力差がありすぎると最初から勝負にならないと諦めてしまう。オリンピック選手と100メートル走しようとは思わないけど、同じくらいの人だと負けないように頑張って走れる。競り合った上で努力した分の差が生まれる感じが良いデザインだと考えています。

もうひとつは「人機一体」というのが世界最強かもしれないという考え方があります。その一つの例でアドバンスド・チェスというのがあって、人がプレイするよりもコンピュータだけにプレイさせるよりも、コンピュータのリコメンデーションで人がプレイするのが世界で一番強いチェスプレイヤーという結果が出ているんです。それは他のテクノロジーでも言えると思っていて、人が苦手なことは機械が得意で、機械が苦手なことは人が得意ということは多いんです。同じように身体運動とか行動にしても人は大局的なところは得意なんですけど、受け身みたいなローカルな反射とかただ単に力を増やすだけとかはコンピュータやロボットに任せたほうがいい。そうすると人機一体として人よりもロボットよりも優秀なものになる。

ロボカップは2050年のW杯でプロサッカープレイヤーに勝つんだというのを目標にやってますが、もしプロのプレイヤーにロボットが勝つ時代になっても、アドバンスド・チェスみたいに実はサイボーグプレイヤーが世界最強になっているという可能性はあると思います。

――ロボカップはレギュレーションがかなりはっきりしてますが、日本の場合だとたとえばロボコンはレギュレーションを毎回変えるじゃないですか。ここには、例えば従来のパラリンピックで問題になっていた、クラス分けによって有利不利が発生するのをシャッフリングしようというものもありました。人機一体を今後考えていく上で何を競うのかというところも多様化できるんじゃないかなという気もします。技術に対する対応力を競うのか、同一レギュレーションの中での習熟性の度合いを競うのか。それによって大会のポリシーを分けて開催することも必要になってくるのかなという気がします。

稲見 そうですね。コンソーシアムを作る上でも一番の議題はそういうところだと思います。どういう競技をどういうルールでやるのか、場合によってはルール自体を公募するべきなのか、ということかもしれません。

――それも長い時を経るに従ってある形に収斂していくのかもしれませんね。これまでのゲームの歴史を見ても、色んな可能性があったけど結局、海外ゲームの主流がFPS的なものに収斂していったというようなことが、起こりうるのかもしれません。
 
 
■ゲームならではの「サードパーソンズ・ビュー」が人間の身体運動を拡張する
 
稲見 FPSで思い出したんですが、前回のシンポジウムで暦本先生が展示していた、ドローンで自分の後ろ姿を見ながら走るというのが面白くて。私も以前スキーする時に背中にポールを立ててその先にカメラをつけて、その映像を片目で見ながら滑るっていう経験をしたことがあるんです。サードパーソンズビューで一人称を操作するって意外と面白いんですよ。何がいいかというと、第三の鏡という感じで自分はすごい上手くターンを決めたりカービングできてると信じていたのに、見てみるとだいぶへっぴり腰になっているというのがリアルタイムで見えるんです(笑)。見えるからその場ですぐ直せるというのがあって。

――なるほど。FPSって欧米人的な発想でいうと、この目で見える遠近法が世界の一番自然主義的な記述なんだっていうことで、本当はもっと自由度のあるべきゲームの発想をそのリアリティに固定化したんですけど、その逆の発想をリアルの身体でやってしまうって面白いですね。

稲見 それは面白いし有用性がありそうだなと思いました。現実世界のゲーム画面化。自分を操作するような感覚ですが、自分の体を操作するのはすごく直感的で楽なんです。

「ロボカップレスキュー」というレスキューロボットの能力を競う大会に参加した時に、最初はずっとロボットの頭にカメラをつけて一人称視点で見ながら操作してたんです。そうすると視点の位置も低いし何を見ているかわからなくてよく障害物にぶつかってたんです。だけど後ろにポールをつけてリアルサードパーソンズビューを作ってあげると、突然ぶっちぎりの1位になってしまって。その後の国際大会では皆がそれを真似しているという状況になっていました。障害物を回避したいとかそういう用途に関しては実はファーストパーソンよりもサードパーソンがいい場合も多いという。日産のアラウンドビューモニターもそうですね。あれも上からのサードパーソンズビューを作ってあげることによって車庫入れを楽にしている。

スポーツでも皆がそれをやっている状態でプレイするともっと大局的なプレイができるようになりますよね。皆がサッカーゲームをやっているような状態でプレイヤーになれたらパスの送り方なんかも変わってくると思います。

――なるほど、まさに視野を拡張するということですね。

稲見 観戦の拡張にドローンを使うのもあるかもしれません。ニコニコ超会議の時に会場で大相撲をやっていたんですけど、ドローンを飛ばしてそれを皆で観に行くというのをやりたかったんですよね。会場の都合でできなかったんですけど、もしかしたら今後はそれが相撲観戦のS席になるかもしれません。同様に先ほどのマラソン観戦問題でも、ランナー視点でずっと追いかけながら見るということもできるかもしれない。既にソチオリンピックでもスノボ競技をドローンで撮ったりしてましたし、今後の標準になるんじゃないですかね。

――映像技術で言うと「超人オリンピック」のシンポジウムでも立体映像を使った展示がありましたね。立体映像を撮るには何台くらいのカメラが必要なんですか?

稲見 立体の精度にもよりますが、カメラの台数が多いに越したことはないです。今は奥行きを検出できるカメラもありますし、KDDI研究所さんとかはラフなものから選手だけを切り出してビルボードのように貼り付けるということもやってます。そういったものを組み合わせると、立体感のある映像はだいぶ出せるようになってきています。いわゆる二眼のカメラで撮って3Dメガネをかけてテレビを観るというものとは違った撮影方法にはなりますね。

――リアルタイムに別の場所に立体映像を投影することは技術的には可能なんですか?

稲見 可能ですね。ただ立体ではなくて「Hiyoshi Jump」とかに関わってくるんですが、全方向を一気に撮ってしまうというほうが流行るかもしれませんね。それこそOculus Riftみたいなものをつけて、テレビの画面の中を見るのではなく、色んな方向をきょろきょろ見ながらその場にいるかのように体験するというのが、2020年までには新しい視聴方法として広まってる可能性はあると思います。下手するとテレビ局じゃなくてニコニコ動画とかがやるかもしれませんね。ニコファーレも最初から全方向ディスプレイを考えてやってますし、ニコファーレ用のコンテンツでも全方向映像を出すようなことをやってるので、将来のニコニコビューワーはスマホアプリになっていてアダプタでゴーグルに装着して色んな方向を見るというものになっているかもしれません。
 
(この続きは、今冬発売予定の「PLANETS vol.9」で!)
 

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