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今回のメルマガは、批評家・石岡良治さんの「京都アニメーション」論をお届けします。
『CLANNAD -クラナド-』をはじめとするゼロ年代の代表作で確立された制作スタイルは、どのように現代まで継承されているのか。近年話題を集めている『響け!ユーフォニアム』最新シリーズ以降の展望も交えつつ、元請スタジオとしてアニメ史に名を刻んだ「京アニ」の約20年間を振り返ります。
(初出:2023年9月29日放送「石岡良治の最強伝説 vol.66 京都アニメーション作品」、構成:徳田要太)

 「京都アニメーション 2ストロークのリズム」というテーマで京アニ作品について分析しようと思います。「2ストロークのリズム」が何かは後述しますが、シンプルに言うと『CLANNAD -クラナド-』(2007〜)と、続編にあたる『CLANNAD 〜AFTER STORY〜』(2008〜)のように、シリーズの第1期終了から少し期間を空けてから続編を展開するパターンをモデルにすることができます。最近の作品では「ツルネ」シリーズもそれにあたります。

 今回はファン・ヘネップ『通過儀礼』(岩波文庫、2012)での論をもとに分析していきます。京都アニメーションの青春もの、たとえば『MUNTOシリーズ』では、あるヤンキーカップルが川を渡り切ったあとで周りのキャラクターたちが拍手するシーンがあるわけですが、ああいうのはまさに通過儀礼ですよね。

 このテーマは青春ものでは重要ですし、それに加えて私は宮崎駿アニメを「ゆきて帰りし物語」としてプロット化するよくみられる慣習も実際には通過儀礼の言い換えだと思っています。儀礼というのは簡単に言うと祭りのことで、まず一般社会から分離して何かイベントを行う。その後もう一度社会に戻ってくるということで、これがいわゆる「ゆきて帰りし物語」ですね。ポイントは「PASSAGE」という言葉で、和訳すると「通過」「通路」といった意味になります。ヴァルター・ベンヤミンの「パサージュ論」の「パサージュ」はアーケード商店街の原型のような場所ですが、、近代における消費の場としての通路の重要性を説いています。これはあらゆる成長モデルを、事実上の通過儀礼モデルとしてみなすことが可能だということです。しかしポイントは「何でも『成熟』でいいのか?」という問題で、この辺りはやはり改めて捉え直してみる価値があると思います。「青春もの」に対して「テンプレ的ないい話」とみなして嫌いな人は一定数いますよね。なぜ嫌うかというと、おそらくは通過儀礼の3区分(分離、過渡、統合)のうちの「統合」に回収されてしまうからでしょう。

 これを典型的に示している京アニ作品といえば『中二病でも恋がしたい!』(2014)、とりわけ主人公の小鳥遊六花です。彼女は『マビノギオン』などのウェールズ神話を読みまくるような世界に閉じこもっていたところから、恋をすることで(一般社会への統合を経て)成熟したわけですよね。その落とし所が「教育的」にみえるのは否めないかもしれません。

 また、逆に「統合が欺瞞である」と主張したい場合には、「終わりなき過渡期」というものに直面する必要があると思います。こうした問題は、子ども向け作品にとどまらないとはいえどこかで「成長」が問われるアニメを語るときには、必ず問われてしまうものだと思っています。

2023年時点での京アニへの展望

 それでは具体的な作品について、現時点での最新作『特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』(2023)から話を始めようと思います。この作品は京アニにとって良いきっかけになったのではないでしょうか。というのは、同時期に放送されていてわたしをはじめとした一部のアニメファンの話題をかっさらった作品に『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』(2023)があります。こちらのシリーズ構成・脚本を務めた綾菜ゆにこと、『ユーフォ』の原作者・武田綾乃との対談があります(「アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」綾奈ゆにこ×武田綾乃対談」)が、ここで興味深いのが、武田が『ユーフォニアム』の番外編『飛び立つ君の背を見上げる』では「尖ったことをやっている」と明言していることです。私はこの対談の勢いに乗って、京アニが『飛び立つ君の背を見上げる』をアニメ化すべきではないかとすら思っています。この対談では二人とも「百合」について熱く語っていますが、言うなれば「ドロドロ展開の百合もの」は勢いを増しているように思われるジャンルなので期待しています。京アニの今後の一つのフロンティアとして強く推していきたいところですね。

 もう一つ、2023年6月にKAエスマ文庫に動きがありました。賀藤招二の『MOON FIGHTERS!』と吉田玲子『草原の輝き』が秋頃に同時に発売されるようです。これが何の布石かというと、一時期は停滞していたエスマ文庫からの京アニメディアミックスに動きがあるということです。両方かどうかはわからないとはいえ、どちらかはアニメになるのではないでしょうか。

 正直ここ数年の京アニ作品は、続編と完結編が大半だったと思うんですが、ここにきて新作のアニメ化の可能性が浮上しています。とくに2024年に放映される『ユーフォニアム』の3年生編が終わった後に、いろいろ動きがあるのではないかと思っています。

 それと、『バジャのスタジオ』『バジャのスタジオ〜バジャの見た海〜』二部作についても触れておこうと思います。センシティブな話題になりますが、これは三好一朗(木上益治)が監督を務め、今はなき京アニの第1スタジオに捧げられた作品です。2019年以降NHKで放映されているので、第1スタジオの追悼となってるうえに木上益治の遺作にもなっています。この作品は『MUNTOシリーズ』と並び、この時期、具体的に言うと2019年までの京都アニメーションというのは結局木上益治によって成立していたことを示すベンチマーク的作品でしょう。木上益治はアニメーターとしても名高く、たとえば『AKIRA』(1988)において、金田が下水道に侵入するシーンや、『CLANNAD』の「風子参上」、『日常』(2011)の「校長 VS 鹿」などが有名です。こうしたクオリティの高い作画は大体彼がやっていましたし、京都アニメーションが納期をしっかり守るスタジオで、かつ安定した原画マンもたくさんいたというのは、要するに彼が育成の天才でもあったということですよね。


「通過儀礼」としての『CLANNAD -クラナド-』