消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は簗瀨洋平さんの寄稿です。
終わりそうで、なかなか終わる見通しの立たないコロナ禍の生活。もはや対面とリモートコミュニケーションの環境が共存していくことは避けられないだろうなか、簗瀨さんがハマった格闘ゲームでのオンライン対戦の経験を通じて、これからの社会にふさわしい「消極的な自己研鑽」のあり方を考えます。
消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。
第23回 俺より少し弱い奴に会いに行く──消極的な自己研鑽
オンラインとオフラインのグラデーション
みなさんお久しぶりです。消極性研究会の簗瀬です。
毎回、あと数ヶ月もしたらコロナ禍は終わるだろうと思ってこの原稿を書いているのですが、なかなか終わりませんね。それでも今年の1月後半になって第6波が来る前までは、だいぶ収束には近づいてきて、昨年末にはかなり久々に対面形式での学会が開催されていました。同じく消極性研究会の栗原一貴さんも参加されており、2年ぶりの対面はなかなか感慨深いものでした。
一方で、せっかくオフラインでイベントができるようになったのだからもう戻りたくないという意見があるのも重々承知しています。実際私もオフラインの学会に久々に出て感じたのは、他人の目に触れている間は何かしらの体力を消費しているということでした。オンラインの場合、誰かの発表中はビデオもマイクもオフにし、発表を邪魔しないよう気を遣うのが通常ですね。同時に、相手から見えない、聞こえない状態ですので発表に集中していればどれだけぐったりしていても、くしゃみや咳をしていても良いわけです。リラックスして発表を聞けるという点では直接会場にいるよりも良い状態かも知れません。自宅参加の場合は日頃仕事で使う椅子と高さが調整されたデスクを使うわけですからかなり疲れにくいですね。
また、最近はオンライン学会のノウハウもだいぶ溜まっており、私と栗原さんが出席したWISS2021ではそれぞれのセッションに座長(そのセッションの司会者)の他、チャット座長を務める参加者がおり、用意されたSlackのチャンネルから意見や質問を拾い上げて質疑の時間に発表者に伝えてくれます。参加者はリアルタイムに意見や質問を書いておけば良いし、直接手を上げたり前に出たりして質問をするというプレッシャーからも開放されるので便利です。発表者から見ると反応がなかなか見えないのでそこがデメリットとなります。
前回、西田さんが書かれていたようにオンラインで問題となるのはインフォーマルなコミュニケーションですが、WISS2021ではオフライン参加者が休み時間にトイレに行ったりコーヒーを飲んだりしている間、オンライン参加者はさかんに意見交換や議論をしていたようで、それぞれ別なコミュニケーションが発生していました。
このようにそれぞれメリットとデメリットがあるわけですが、今後はオンライン/オフラインという二択ではなくそれらを両極としたグラデーションをすべての人々が選べるようになると良いのではと思います。私自身はオフライン学会をホテルの部屋で聴講し、休み時間になったら部屋を出て議論するみたいなことができるとベストなんじゃないかと思っています。
実際のところ学会でも授業でもオンラインとオフラインのハイブリッドはなかなかたいへんなのですが、そのあたりは機器やソフトウェアの発展によって解消できる部分です。会議室や教室にはカメラとネットワークが標準装備されていて、使う人がわざわざ設定する必要ない状態にしていきたいですね。
テレワーク下でのオンラインコミュニケーション、その後
オンラインでのコミュニケーションという点で、以前の記事に会社のチャット運用の話題を書きました。「ググれと言われず誰でもどんな質問でも書いて良いチャンネル」と「褒めて欲しい、褒めたいことを書くチャンネル」ですね。どちらも未だに活用されており、特に前者はコロナ禍で人が増え続けている弊社にとって良い試みだったなと思っています。後者は私が意図したのとは少々違う方向で他人に対する感謝を述べるチャンネルとなりつつあります。これはこれで悪くはなく、特に活躍が見えにくい方にスポットが当たるのは良かったと思います。「褒めてもらう」という意図で書き込むのは人数が多くなり必ずしも親しい間柄の人ばかりではなくなると難しいのかも知れません。
ただ、必ずしも業務とは関係のない単一用途のチャンネルを作るという文化自体は割と定着しており、私が特に何かしなくても様々なチャンネルが作られるようになりました。
ちょっと気持ちが落ち込んだ、落ち込むようなことがあったときに書き込むと誰かがはげましてくれる(ただしアドバイスは禁止の)「はげましチャンネル」や、自分はこういうことに気をつけていますという「健康チャンネル」、育児で「こういうことに苦労している」というような話をする「育児チャンネル」などです。育児チャンネルはお子さんがいない参加者も多く、私も入っていますが子育て中の同僚にどういう配慮が必要かということも自然と耳に入ってくるので、なかなか有益だと思います。
また、テレワーク化での入社人数が増えたということで社内のイベント配信担当者が非公式なイベントとして自己紹介LT(Lightning Talk)大会を始めました。有志が集まって5分の枠で好きに話すというゆるい内容ですが、入社してから一度も出社したことがないというようなメンバーにとっては特に業務で直接つながりのない同僚を知るのに良いイベントとなっています。なお、弊社はこういうイベントを業務時間中にやって良いことになっています。定時後は家事をしたり家族と過ごしたりする時間ですからね。方向として、インフォーマルなコミュニケーションのために何かをするわけではないけれども、それを作ろうとする試みは邪魔しないというスタンスです。
テレワーク化で忘年会などの飲み会がなくなったことの是非なども議論されていますが、私のいる会社は2021年は忘年会を開催せずにちょっと良いすき焼きの肉を希望者に送ってくれました。これはなかなかのアイディアで、我が家は自宅で家族といただきましたが、みんなで肉を持ち寄って忘年会をしたチームもあったようです。
私はたまたまコロナ禍前からオンラインコミュニケーションが活発な会社にいましたが、テレワークを基本とした会社が増えた今、インフォーマルなコミュニケーションをどうするかという点で組織の個性が出てきそうですね。私自身はまったくないのは嫌と思いつつも、組織にそういったものを押し付けられるのも好まないので、セキュリティの許す範囲で各自のスタンスに任せてくれるような組織が増えると良いと思っています。
e-Sportsへの消極的参加
さて、長く書いてきてようやく今回のタイトルに関わる話なのですが、実はe-Sportsを始めました。そもそもe-Sportsってなんだという話を本格的にするとそれだけでかなり長くなってしまうので簡単に説明すると、多くのプレイヤーがいて大会などがある程度成立し、プロがいるようなゲームをそう呼ぶというのが現状ではないかと思います。
e-Sportsは一つのタイトルの対戦モードなどが長く多くのプレイヤーによって遊ばれることによって成立します。長く遊ばれるためには必勝法などがなく、ある程度の奥深さと駆け引きがある事が重要で、書くと簡単ですが作るのはなかなか難しいものです。
これまでの連載で私はゲームについていろいろ書いてきましたが、ゲームの良さとしてプレイヤーのために作られた世界とキャラクターが徹底的にプレイヤーの行動をほめてくれる、クリアできると保証された目標があって適度な困難があり、乗り越えたときの喜びがあるということを書いてきたかと思います。ただしこれはほとんど一人で遊ぶゲームの話です。
私はこれまで『スプラトゥーン』や『フォートナイト』、『APEX Legends』、『オーバーウォッチ』など世界で多くの人がプレイしている対戦ゲームは一通り遊んでいます。どれも3ヶ月〜半年くらいは遊んでいたので、すぐに飽きてしまうというわけではないのですが、なんとなく対戦ゲームにははまりきれない、やった時間に対してオフラインゲームのような楽しさはないなと感じていました。
そこで出会ったのが『ストリートファイターV』です。きっかけは身も蓋もないですが、仕事でe-Sport漫画『東京トイボクシーズ』の監修を務めるようになったからです。
▲うめ『東京トイボクシーズ』(出典)
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