リサーチャー・白土晴一さんが、心のおもむくまま東京の街を歩き回る連載「東京そぞろ歩き」。今回は、渋谷の街並みを川沿いに歩きました。
道玄坂や宮益坂などの高低差のある地形や渋谷川を暗渠化した道々から、河川地帯の名残が随所に垣間見える渋谷。再開発の歴史に触れながら、「若者の街」ではなく「谷の街」としての渋谷を歩きます。
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白土晴一 東京そぞろ歩き
第10回 渋谷駅から渋谷リバーストリート、恵比寿へ
その昔、渋谷を舞台にしたゲームの制作に関わったことがあって、渋谷という街には少し思い入れがある。何度も時間帯を変えて道玄坂を取材したり、ハチ公前で人の動きを見たり。
中でも、実写の映像で展開するゲームだったので、エキストラとして撮影に参加したことが一番記憶に残っている。混雑する日中に撮影するわけにはいかないので、ほとんど人がいない早朝のわずかな時間を利用していたが、撮影内容よりも人影がほとんどない早朝の渋谷が印象的で、谷間に出来た傾斜地という地形がより際立って見えた。
ご存じのとおり、JR渋谷駅は道玄坂や宮益坂、金王坂などの長い坂に囲まれた場所にある。これは渋谷川などの河川で出来た谷という地形だからである。
渋谷というとハロウィンやワールドカップがあると若者たちが集まってくる街というイメージが一般的かもしれないが、個人的には「日本で一番発展している谷の街」と思っている。
なので、「若者の街・渋谷」ではなく、「谷の街・渋谷」という観点で渋谷を見ているが、これがなかなか面白い。渋谷川やそれが作り出した谷、その痕跡を見つけると興奮してしまう。
例えば、下画像は 2016年に撮影したもので、渋谷駅北側、旧大山街道沿いにあった駐輪場。
東京の河川の多くは高度経済成長時代に多くが蓋をされて暗渠化されているが、川筋まで消すことは出来ないので、「この曲がり具合は元は川だな。ここは暗渠だな」などと、かつての水路を推測しながら歩くことが出来る。
ちなみに、現在この場所は、 新しくなった宮下公園の入り口として整備されて、駐輪場は無くなっている。ただ、それでも微妙な川の流れの曲線、痕跡は残っている。
こういう場所を見ると、水路好き、地形好きとしてはグッときてしまう。
渋谷はこういう場所が結構あるが、それは日本有数の新陳代謝が激しい地区、開発が繰り返されている渋谷のような場所でも、元々流れていた河川の歴史を完全に消し去るのは難しいということだろう。
そして、2013年には JR東日本と東京メトロが東京都に提出した「駅街区開発計画」に、現在暗渠化されている渋谷川の移設工事が行われると発表された。
「渋谷駅街区土地区画整理事業」のサイトに、渋谷駅と渋谷川移設の将来予想図があるので参照されたい。
これは地形好き、河川好き、地下構造物好き、都市計画好きにはたまらない。渋谷のような繁華街で、川が移設されるという土木事業を見ることはそうそうない。なので、しばしば渋谷に出かけては、地下広場と渋谷川移設の工事の様子を見に行くようになった。下の画像は 2016―2017年にその工事を見に行って撮影したもの。
さすがに表示されていないので、建物の形などから推測するしかないのだが、下画像の天井の上に移設された渋谷川があるのではないかと思う。
しかし、わざわざこういう手の込んだ工事が行われたくらい、渋谷は「日本で一番発展している谷」と言えるかもしれない。
移設された渋谷川を見たので、もう少しだけ渋谷川沿いも歩いてみる。
なので、渋谷駅南の「渋谷ストリーム」へ向かう。
この高層複合商業施設は、東急東横線の渋谷駅が地下化されるにあたって、地上駅および線路跡地(及び周辺地域)の再開発の目玉として建設された。
建設された当初、「なぜストリームなのか?」と思っていたが、英語のstreamは小川や水の流れという意味で、答えが下の画像。
実はこの壁からの水、「壁泉」が現在の渋谷川の水源になっているのだ。この「壁泉」だけでなく、稲荷橋広場下に別の放水口もあるのだが。
渋谷川も同じで、大雨なので一次的に水が流入する以外、現在は上流で違う川と繋がりがない状態なのである。そこで平成7年(1995年)に東京都は清流復活事業の一環として、落合水再生センターからの再生水を流すことで、歴史ある渋谷川を復活させたのである。
ただし、清流復活事業当初は、この「渋谷ストリーム」よりも南にある 並木橋付近の放水口から再生水が放出されていた。
2017年の工事中の稲荷橋広場、そして 2021年現在の稲荷橋広場。
再開発による高層ビル建築と同時に、河川らしい水源が作られ、川が少し伸びるというのも珍しいことだと思う。
ちなみに、「ここからが渋谷川ならば、渋谷駅前の移設される地下の渋谷川は、渋谷川じゃないのでは?」と思う人もいるかもしれないが、ここはちょっとややこしい。
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