大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。
今回は、働き方改革のために思いついたアイデアを実践するまでにどんな壁があるのか、そしてその壁を乗り越えるにはどうすればいいのかについて分析します。「エフェクチュエーション」の理論を引きながら、坂本さんの実体験に則した独自のノウハウでその実践過程を論じていただきました。
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本連載をベースにした『意識が高くない僕たちのためのゼロからはじめる働き方改革』の発売が決定しました!
20年以上にわたり社内における自分自身や周囲の働き方改革を推進し、さらに働き方改革プロジェクトアドバイザーとして毎年数十社、延べ10万人超の働き方改革を支援してきた著者 坂本 崇博がその経験をもとに「そもそも働き方改革とは何か?」を定義するとともに「真の働き方改革推進ノウハウ集」としてその推進手法やテクニックを体系化。
組織として働き方改革を推進する立場の方がもちろん、今の仕事にモヤモヤを感じていたり、もっとイキイキ働きたいと考えているすべての人に読んでもらいたい一冊です。
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(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉
第20回 アイデアを行動に移すための「行動移行術」
あらすじ
今回は、働き方イノベーターとしての行動特性を身につけるための習慣である「行動移行術」について紹介していきます。
これまで解説したテクニックを駆使して現状を変えるアイデアを具体的に浮かべる(幻想する)ことができたなら、後は実践あるのみです。しかし、なかなかそれが難しいものです。
イノベーターはこうした「行動に移すことの困難さ(壁)」をどう打破しているのかという問いについて考える上で、「そもそも、行動に移す上でどんな困難さ(壁)があるのか?」を整理しておきたいと思います。
人はアイデアが行動に移せないと次第に燃えなくなる
私の働き方改革の実践において不可欠な最後の力は、幻想を実行に移す「行動力」です。
しかし多くの場合、自分が過去得てきた経験や最近知った情報をもとに「こうすればいいのでは?」とアイデアを浮かべるまではできても、それを実行に移すことが困難と言われています。
会社に入りたてで改革アイデアが浮かびやすい若者ほど、その困難さに直面しがちです。
私がそうであったように、会社に入ってすぐの頃ほど、様々な非効率さが目に留まり、「自分が何かを変えてみせる」と目を輝かせるケースは多いと思います。私はこの状態を「可燃性が高い」と表現しています。ちょっとしたきっかけで燃え上がり、熱くなる状態です。
しかしながら、彼らにはそのアイデアや想いを「行動に移す術」が不足しているが故に、悶々とした日々を送ることになってしまうことも少なくありません。
こうした状態に陥ると、飲み屋で同僚に「俺の考えた最強のアイデア」を延々と語ったり、「なんで会社はこれをやってくれないんだ」「会社は早く働き方改革をしてくれよ」と愚痴ったりして、やさぐれていきます。この状態を「難燃性症候群」と表現します。すなわち何らかの実現を妨げる困難さに直面して熱い想いが湿気ってしまい、働き方改革に対する熱が若干冷めている状態です。
そしてこの状況がますます悪化すると、人は「不燃性」になってしまいます。もう自分では働き方を変えようと考えることもなく、それどころか周囲の可燃性が高い人材の発言や行動に水を差して、難燃性症候群に陥らせてしまいます。
このように、アイデアが浮かんでも行動に移せないという事態は、人の熱意を冷まし、湿らせていってしまいます。
アイデアを行動に移せる仕組み(型)に加えて、「技」も必要
もちろん、人の価値観は多様であるべきですし、組織があればそこには可燃性から不燃性までいろいろな状態の人が混在していて当然です。全員が必ず私の働き方改革を意識し実践しなければならないということはありません。
ただし、私が着目したい問題は「湿気の伝播」です。たとえ何人かが壁に直面して難燃性・不燃性の状態になったとしても、それぞれがその個性を「人に押し付ける」ことをしなければ組織の多様性は維持されます。しかし、前述の通り、難燃性症候群や不燃性症候群の人は、可燃性の人にも影響を与え、その発言や行動を湿らせてしまうことが多いです。これでは、多様性は損なわれ、次第に「燃えない組織」として画一化していってしまいます。
こうした状況を防ぐためにも、組織は一人ひとりが何らかのアイデアを浮かべた時に行動に移せるよう後押ししてあげる型づくりが重要になります。
アイデア提案採用制度や、直属の上司を超えて課題意識や提案を受け付ける「目安箱」のような仕組みなどがその一例です。
一方、個人としても、せっかく浮かんだアイデアや幻想なのですからきちんと実現できたほうが楽しいはずです。そのためにはアイデアを行動に移せる技(行動特性)を身につけることが不可欠です。その力とはすなわち、「行動に移す上で直面する壁」を乗り越えるためのテクニックです。
アイデアを行動に移す上で直面する3つの壁
では、その壁とはどういうものでしょうか。私はこの3つであると考えます。
1 自分にはそのアイデアを実行できる十分な資源(人・モノ・金・情報)がない
2 そのアイデアを実行したときに得られるメリットに確信が持てない
3 成果を実現するまでの明確な実行計画(プラン)が立てられない
これらのどれか一つにでも該当すると、アイデアは浮かんだが実行には二の足を踏むか、実行できないとあきらめてしまうという状況になってしまうのです。
たとえば、以前私は「一人ひとりが私の働き方改革に意識を向けてもらえるように、学校教育の制度から見直すべきだ」と思い浮かんだことがあります。
なぜなら、組織に所属する人の多くが、「イチニンマエ(みんなができることができる)」であろうとして、組織の伝統や慣例に沿って活動するという行動特性は、小学校から高校までの画一的かつテストの点数至上主義の教育システムに原因の一つがあると考えたからです。
誰かが設定したテスト(ミッション)で高い点数をとることが「イチニンマエ」として評価されるという経験を長年積むことで、人の脳には「提示されたミッションをクリアする」ことが自分の評価を決めると錯覚してしまうのかもしれません。そうした「イチニンマエ主義」で組織に所属すると「何かミッションを提示してもらえば、それをこなす」ことに注力することが当たり前になってしまいます。結果として、「ヒトリマエ」になって自分で自分の働き方を決めたり、短期的なミッションになってもいない働き方改革に意識と労力を割こうとする行為は「非合理的」と判断されてしまうのではないかと考えたのです。
そうした想いがある中で、欧米など他国では、日本の授業とは大きく異なり「答えがわかった人は手を挙げて」ではなく「わからない人は質問して」「自分なりに思ったことを発言して」という授業スタイルがあることを知って、そうした教育スタイルを日本でも普及できればと思いついたわけです。
しかし、私はいちサラリーマンであり、教育者でもなければ文科省の職員でもありません。
教育スタイルを変えたいと思っても、使える資源や協力してくれる人は手元には一つも見当たりませんでした。また、もし本当に教育スタイルを変えることができたとしても、新卒一括採用や終身雇用などの「イチニンマエを生み出す」ための様々な仕組みが存在している中で、いったいどれほどの効果があるのか確証が持てませんでした。さらには、「もし自分が100億円もっていたら」と仮定して幻想をしてみたものの、最終的なゴールまでの道筋は浮かばず、計画が立てられませんでした。
見事に行動に移す上ことを妨げる「3つの壁」すべてに直面してしまったわけです。
結果として、異業種交流会の飲み会などで「日本の教育は変わるべきだ!」と管をまくくらいしかできないまま「難燃性症候群」に陥りかけていました。
また、会社の中においても、マネジャーになってできることが増えた分、やりたいことが大きくなるほどに同じ壁に直面するようになりました。
たとえば、私の働き方改革を世の中に伝えるべく、「社員教育」というビジネスに進出したいと思ったのですが、さすがにいきなりそんな組織は作れず、どこまでどのように進めれば事業として成果があげられるのか明確な計画も立てられないという状況に直面していました。
[ここまでのポイント]
1 アイデアを浮かべ、幻想を描いても、実行できなければストレスになる。
2 その結果、人は次第に難燃性・不燃性となり、組織全体に湿気を伝播させて、冷めた組織として画一化してしまう。
3 そうしたアイデアを実行を移すことができなくなる原因として、3つの壁(実行する上での資源がない、メリット・成果が見えない、ゴールまでの計画が立てられない)が存在する。
4 この壁の一つにでも直面すると、アイデアが浮かんでも実行に移しづらくなる。
さて、ここまでアイデアを行動に移す上では、3つの壁があり、それによって行動がとれないと解説しました。
しかし、実はこの壁は一種の固定概念であり、その壁を乗り越えないと進めないという錯覚に陥っているのかもしれません。
それに気づかされたのが、以前に触れた「エフェクチュエーション」という研究書との出会いでした。
ここからはこのエフェクチュエーションという理論についてより詳しく解説しながら、3つの壁の存在そのものを疑い、乗り越えるための視点を整理していきたいと思います。
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