今回から、明治大学経済学部の奥山雅之教授とNPO法人ZESDAによるシリーズ連載「グローカルビジネスのすすめ」がスタートします。この連載では、中小企業の海外進出を専門とする奥山さんのナビゲートで、地方が海外と直接ビジネスを展開していくための方法論を、さまざまな分野での実践の事例を通じて学ぶ研究会の成果を共有します。
初回は、主催の奥山さんに「グローカルビジネス」とは何かとその意義について、ご紹介いただきます。
グローカルビジネスのすすめ
#01 序論:地方創生の鍵を握るグローカルビジネス
PLANETSメルマガ読者のみなさま、はじめまして。明治大学の奥山と申します。地域産業、中小企業の研究者で、繊維・アパレルの産地を中心に日本の各地方をぐるぐると巡っています(今年はコロナ禍であまり行けてないですが)。こうした研究の一環として、地域産業のグローバル化、すなわち、地域の産業がローカルの良い部分を残しながら、グローバルに展開し、外貨を稼ぐスタイル(グローカルビジネス)について研究しております。
地方創生が叫ばれて久しいですが、地方創生にはその地域の「生産」「所得」「消費」という経済循環を太くしていくことが不可欠であり、経済循環を太くするためには独自の「産業」と、産業をお金に換える「市場」、それを担う「人材」、この3つを備えることが重要です。私が各地域を巡っていると、すでに先進的な地域は、市場として東京だけでなく、アジアや欧米など世界に目を向けていました。私はこれらを「グローカルビジネス」と名付け、研究者の立場から振興していきたいと考えました。これが、私がグローカルビジネス研究をスタートさせたきっかけです。
地道に研究をしている途中で、PLANETSメルマガ読者の皆さんにはきっとお馴染みのNPO法人ZESDAさんと出会いました。ZESDAさんも、日本の地方が海外から直接おカネを稼げるような経済システムをデザインするべく活動をしてますので、方向性がピッタリと合い、意気投合し、一緒に研究成果の普及や実戦に向けて取り組むことになりました。このメルマガでは、ZESDAさんと奥山研究室との共催で2年かけて取り組んできた議論を読者の皆様と共有し、グローカルビジネスという新しい地域産業、企業の経営スタイルについて一緒に考えるきっかけになればと考えています。
さて、近年、日本では人口減少や東京など大都市部への一極集中が起こり、地方創生、地方再生が大きな課題となっています。歴史的にみれば、農林水産業や伝統的な工業製品で繁栄した地方は、戦後、都市部からの工場誘致によって工業化し「国土の均衡ある発展」を目指しましたが、その後、経済・社会のサービス化によって都市部の経済的な優位性が再び鮮明となりました。くわえて、グローバル化の流れの中で地方に立地した工場が海外へと移転し、地方の経済に打撃を与えました。こうした中、地方の経済をどのように再生・発展していくのかが重要な課題となっています。この課題を解決するための有効なビジネスおよびその考え方が、この連載でご紹介していく「グローカルビジネス」です。
現代の産業社会では、海外需要の取り込みなどグローバル化への対応が重要課題の一つとなっている一方、地方移住などローカルへの注目も高まりつつあります。この「グローバル」と「ローカル」は対立するものではなく、融合することができます。それが「グローカル」という言葉です。グローカル(glocal)とは、グローバル(global:地球規模の、世界規模の)とローカル(local:地方の、地域的な)を掛け合わせた造語として知られています。もはや、都心の大企業から地方の中小企業まで、すべての企業はグローバルな競争に巻き込まれてるのです。「地方の特定地域で、ローカルな顧客を相手にする商店はグローバル化に関係ない」と思うかもしれませんが、けっしてそんなことはありません。何か物を買うときに、「その商店で買うか」あるいは「グローバルに活躍するAmazonで買うか」ということを消費者は選択するわけですから、この消費者をめぐって、地方の商店であってもAmazonと競争しているということになります。「グローバル化は自分達とは関係ない」というようにローカルビジネスに閉じこもることはできないということです。
こうした中、市場のグローバル化とアジア経済の台頭、日本文化への世界的評価の高まりなどを背景として、国内各地域において地域資源を基盤としたビジネス(「ローカルビジネス」)が、海外への事業展開(「グローバル展開」)する動きが活発となっています。こうした動きは、地方に立地している中小企業のグローバル化の一形態ではありますが、明治初期からの総合商社、家内手工業を中心とする生糸・絹織物等の輸出や、1970年代まで多くみられたカメラ、双眼鏡等の輸出型中小企業群、あるいは大手企業の海外進出に伴う一次・二次下請企業群の海外展開などとは異なります。近年の動きは、日本が大量生産を得意としていた時代の、低価格、大手商社主導の輸出戦略ではありません。それぞれの地域の特徴、地域性を前面に押し出した製品・サービスのグローバル市場への展開といえます。とくに近年は、清酒などの伝統的飲食品、漆製品などの工業製品、地域独特の織物製品、地域の飲食業など、地域に密着した比較的小規模な企業がグローバル市場へと展開している例が出てきました。こうしたビジネスこそがローカルとグローバルを掛け合わせた「グローバルビジネス」です。
グローカルビジネスとは何か
「グローカルビジネス」とは、一言でいえば「地域資源を活用した製品・サービスによってグローバル市場へ展開するビジネス」です。下の表をご覧ください。この表側(行)はターゲットとする市場による区分であり、ローカルまたはドメスティック(国内)のみに展開するビジネスと、グローバル市場にも展開するビジネスとを区分しています。表頭(列)は、ビジネスの重要な構成要素や特性の面で地域性というものがあるかどうかでの区分です。これによって4つの象限に分けてみると、第一象限である①は地域性をビジネスの主な要素とせず、かつローカルまたはドメスティック(国内)市場をターゲットとする「国内ビジネス」、②は地域性をビジネスの主な要素とせず、グローバル市場をターゲットとする「グローバルビジネス」、③は地域性をビジネスの主な要素としながら、ローカルまたはドメスティック(国内)市場をターゲットとする「ローカルビジネス」、そして④は地域性をビジネスの主な要素としながら、グローバル市場をターゲットとする「グローカルビジネス」、となります。これからは「グローカルビジネス」が地方創生において重要であるとすれば、表中の青色の矢印、すなわち「ローカルビジネスが、ビジネス要素としての地域性を維持しながら、グローバルビジネスへと進化していくにはどうすればよいか」を考えることが重要となります。
ここで「地域性」とは、地域の特徴や地域性をビジネス(製品やサービス、経営スタイルなど)に内包していることをいいます。典型的「地域性」は「地域資源」です。地域資源とは、特定地域に固有の自然資源のほか、特定の地域のみに存在する特徴的なものを資源として活用可能なものと捉え、人的・人文的な資源をも含む広義の総称であり、2007年6月施行の「中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律(中小企業地域資源活用促進法)」では、①農林水産物、②鉱工業品およびその生産技術、および③観光資源を「経営資源の3類型」としています。「グローカルビジネス」の「ローカル」の要素は、こうした地域資源にみることができます。
地方の中小企業の海外進出はこれから伸びる
グローカルビジネスを直接示す統計データはありませんが、周辺のデータから、グローカルビジネスの主な実施主体となる中小企業および小規模企業の海外市場への展開は徐々に進んでいることが推測できます。ここでは、中小企業に関する統計によってグローカルビジネスの状況についてみていくことにしましょう。
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