今回から、NPO法人ZESDAによるシリーズ連載「プロデューサーシップのススメ」がスタート。東京一極集中・内需主導型では立ちゆかなくなる日本経済のこれからに向けて、諸分野のカタリスト(媒介者)たちがプロデュースする様々な化学反応の事例と考え方を紹介していきます。初回は序論として、ZESDA代表の桜庭大輔さんが、イノベーションの推進役となるカタリストの役割について、3つのタイプ別に解説します。
〈緊急告知〉
明日4月2日にオンライン開催されるイベント『Thursday Gathering #98 脱・働く③ - 「コネ・カネ・チエ」 の資本主義 - これからの時代を生き抜くために大事なこと』にて、桜庭大輔さんが登壇されます。詳細・お申し込みはこちらまで!
はじめまして? ZESDAです。
PLANETSメルマガ読者のみなさま、はじめまして。NPO法人ZESDA代表の桜庭と申します。ZESDAは、石川県能登の農家民泊「春蘭の里」関連のプロジェクトで、何度かPLANETSメルマガに登場しているので、当法人の名前をご存知の読者の方々も多いかもしれませんね。
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ZESDAは、Zipangu Economic System Design Association(日本経済システムデザイン研究会)の略称で、文字通り、日本の経済システムをデザインするために活動しています。東京一極集中型、内需主導型の経済システムではもう日本はもちません。なので、ずばり、日本の地方が海外から直接おカネを稼げるような経済システムをデザインするべく、様々なプロジェクトを行っています。
なかなか大きなテーマを掲げている団体ではあるのですが、活動はけっこう地道なこともしています。例えば「春蘭の里プロジェクト」では、外国人観光客がますます来てくれるよう、英語のHPや動画を作ったり、英語のメールのやり取りを手伝ったり、サイクリング好きの外国人向けに自転車を整備したり、古民家改修のクラウドファンディングを成功させたり、社会課題を考える実習のフィールドとして大企業に紹介したり、といった地に足の着いた活動を3年ほど積み上げてきています。
当法人は設立から今年で8年目。スタッフは現在約90名ほどいます。多くは外資/日系の大・中小企業サラリーマンですが、デザイナーやシステムエンジニア、コンサルタント、研究者、銀行員や各種士業など、様々な職業の人が在籍しています。書類と面接選考を経て採用され誓約書にも署名しています。男女比は一時期は女性の方が多かったのですが、今は男性の方が少し多いかもしれません。東京のみならず地方や海外にもメンバーがいます。全員ボランティアです。報酬は、原則おカネではなく、本業では得られない経験や人脈などを得ています。実のところ、本業と上手に絡めておカネに繋げているスタッフもいますし、転職先を見つけているスタッフもいます。換言すれば、本人が報酬に見合うと思える以上の作業はさせられていません。地方創生のような結果が出るまでに長期間かかるプロジェクトでは、本業を別に持っているプロボノ人材の方が細くとも長く腰を据えて取り組めるという長所を最大限活かしています。プロデュースとは何か。
さて、こうした活動を行うなかで、私たちZESDAが中心にしている方法論があります。それは「プロデュース」です。春蘭の里も「プロデュース」しています。ところで、プロデュースとは何でしょうか。「有名パティシエがプロデュースしたケーキ」「アイドルをプロデュースするゲーム」などなど、巷ではプロデュースという言葉がよく用いられ、なんとなく意味がわかったような気がしていますが、どうやら決まった定義はなさそうです。
私たちの定義する「プロデュース」とは何か。それは、一言でいうと、「何かをやりたいと思っている人に、必要な価値を注ぎ込むこと」です。
そして、必要な価値とは、おカネや人手など、もちろん様々ありますが、価値が注ぎ込まれていく経路に着眼するプロデュースにおいては、流通する価値は、詰まるところ、「チエ(経験・知見・情報・スキル等)」と「コネ(人脈・人材・信用等)」の2つだと考えています。(後述)
例えば、春蘭の里には、豊かな自然、海山の美味しい食材、そして里の永久の繁栄を願う地元のリーダーがいます。しかし、それだけでは、仕事は生まれません。おカネを稼ぎ続けられません。若い人が子育てできません。補助金(カネ)が配られたとしても、それだけでは、一時的に消費されてしまうだけです。他方で少し目線を上げると、人口が1億人を切っていく国内に対して世界には中流階級が30億人いると言われています。そして、日本文化の独自性は世界に類を見ず、地方ほど濃厚です。なので、海外と地方を結ぶ経済システムの構築(グローカリゼーション)を目指すことは、マーケティングの原則からすれば、自然な発想ではあります。ですが、これを実現するためには、英語やITやマーケティングや経営ノウハウといった都会や海外のチエや、地方を海外マーケットに繋げる能力がある都会や海外の人材とのコネを組み合わせていくことが必要となります。地方のリーダーが、独力でそのようなチエやコネを手に入れるのは、なかなか困難な実情があります。したがって、この壁を突破することがカギになります。そう、地方創生に本当に必要なのは、補助金よりもむしろ、アントレプレナーシップがある地方のリーダーに、持続可能な経済を構築するのに必要な、都会や海外のチエとコネを、グローカリゼーションが成功するまで注ぎ続ける存在なのです。
なぜ「カタリスト」が大事か
「チエ」と「コネ」をアントレプレナーに注ぐ存在。それを私たちは、総称して「カタリスト(catalyst)」と呼んでいます。「媒介者」という意味です。
私たちが勉強した範囲では、2000年代に入ってから、英語圏では、カタリストの機能を分析する学術論文が増えています。「インターミディエイト(intermediate)」とか、「ブローカー(broker)」とか、いろんな単語を使いながら、イノベーションの過程においてはイノベーター本人、起業家本人よりも、むしろ、周りのカタリストの方が、大事だったりするんじゃないの?と強調する人が増えているのです。
それまでは、イノベーションを興すのは起業家やイノベーターがやるものだ、という、ものの見方が当たり前であったように思われます。イノベーターという主役がすごい頑張って、色々な人にアプローチし、たくさん学んで、必要な資源を獲得して事業を成し遂げてきたというストーリーとしてイノベーションを捉えるわけです。当然と言えば当然でしょう。多くの成功者もそういう英雄譚を語ります。これを「起業家中心主義的イノベーション・エコシステム観」と呼びたいと思います。
▲イノベーターから働きかけて必要な資源をかき集めている、というものの見方
しかし、近年は、そのような起業家を主語とした物語は、イノベーションのプロセスの事実実体を正しく描写しているのだろうか、という問いが立てられているわけなのです。スティーブ・ジョブズもマーク・ザッカーバーグも、最初から凄いイノベーターで、徹頭徹尾彼らの主導で事業が成功したのでしょうか。おそらく違います。色々な人々の世話になりながら大きくなったはずです。そして、彼らを世話したのは、投資家だったりコンサルタントだったり、と、イノベーターが成功することに強いインセンティブや主体性を伴ってコミットしてきた人や、乞われて力を貸したというより見返りを求めて進んで世話した人も多かったはずです。ならば、イノベーションのプロセスの主語は、イノベーターのみならず、むしろエコ・システム上の様々なアクターも含まれるのではないのでしょうか。イノベーションとは、カタリストたちが、イノベーターに様々な価値を注ぎ込んできた群像劇としてこそ語られるべきなのではないでしょうか。私たちはこうしたものの見方を「カタリスト主導型イノベーション・エコシステム観」と名づけました。
▲カタリスト側からイノベーターに働きかけて様々な価値を注いでいるというものの見方。
このカタリスト主導型イノベーション・エコシステム観に立って日本社会を眺めなおした時、地方創生を含めて、日本社会でイノベーションを促進させていくには、イノベーター育成もさることながら、カタリストたちの自覚や活性にも、もっと力を入れるべきなのではないか、また、ZESDAもよりよいカタリストとして成長したい、という意識が芽生えてきました。そこで、2017年10月、同志の研究者の方々と共に、研究・イノベーション学会のなかにプロデュース研究分科会を設立し、様々な業界で活躍するカタリストの方々から貴重な講演をいただく勉強会を開きながら、多くの有識者や一般参加者との活発な議論を通じて、カタリスト研究を深めてきました。各講師から学んだ内容は、必ずしも、成功したイノベーターの自分語りにあるような、派手さや波乱万丈さに富んだものばかりではありません。そのかわり、クライアントとマーケットの間で働くすべての業種の方々、業界問わず、いわゆるコンサルタントと呼ばれる方々が、真の意味で付加価値を生み出す上で、貴重な示唆に富んだものばかりでした。そして、どんなコンサルタントも、本質的に、カタリストとして、イノベーションを導く先導者となる大きな可能性を秘めていること、そして、もしかしたら、イノベーターよりも、大きく付加価値を生むことができ、時にはイノベーションのプロセスのリーダーシップを握ることすらできることなどがわかってきました。大小50回以上の勉強会を重ねる頃には、「プロデュース理論」とでも呼びうるひとまとまりのテーゼもまとまってきました。
とはいえ、現実のコンサルタントたちは、苦悩しています。実際、私の友人にも超有名戦略系経営コンサルティングファームのパートナーを含め、コンサルタントが大勢いますが、気の毒なことに、自分のシゴトに失望している者は多いです。「調整ばっかりしている」「テンプレ化したコンテンツを配ってるだけ」「結局、内部資料づくりをアウトソーシングされてるだけ」「コンサル業がコモディティ化していった時代は『失われた30年』に完全に重なるんだよなあ。」「もっと知的でクリエイティブなシゴトを夢見て業界に入ったはずなのに。」という愚痴をよく聞かされます。
ならば、プロデュース研究分科会で語られたカタリストたちの講話が、全国の悩めるコンサルタントたちに広く共有されることで、カタリストとして真に覚醒した暁には、日本のイノベーションはもっと前進するのではないか。コンサルタントは手応えと勢いを取り戻し、日本経済失われた30年を超速で取り戻せるのではないか。そんな想いをPLANETS編集部に伝えたところ、共感していただくことができ、プロデュース研究分科会の講演録の一部を編集して「プロデューサーシップのススメ」と題した連載企画としてお届けしていくことになりました。誠にありがたい機会を頂戴できたことに感謝しています。
さて、前置きが長くなりました。連載第1回となる本稿では、以下、序論として、連載全体の構成の軸となるカタリストの類型について述べたいと思います。
価値の流通経路をマネジメントする
真にイノベーティブなカタリストたちは何をしているか。カタリスト研究の結果、見えてきたことは、一言でいうと、ずばり、価値の流通経路のマネジメントだと考えられます。資金や人材やアイディアなど、イノベーターが必要としている価値は多種多様です。しかし、イノベーター独力ではそれらが容易に手に入らない場合でも、適切なタイミングでイノベーターに注がれるように、流通経路を整えることで自身の付加価値を出しているのです。ヒトが重要だ、モノが必要だ、と、イノベーションに必要となる価値の列挙や分類は世の中でよくなされます。しかし、私たちのプロデュース理論が着目するのは、それらの価値の「流通経路」です。そして、価値の流通経路のマネジメント方法は、詰まるところ、①間接型と②直接型と③組み合わせ型の3種類に整理できそうです。
①間接型:inspire(=「チエ」を注ぐ)
1つ目の間接型の価値流通では、A氏が持っている価値が、イノベーターB氏に必要である時、カタリストC氏は、いったんA氏から価値を受け取って、その後B氏に受け渡します。価値はC氏を介して間接的に流通します。
例えば、物理学の教授のA氏の最新理論を、起業家B氏の事業に導入すると良さそうだが、難解すぎてB氏には理解ができない、という場合、カタリストC氏は、A氏の理論をかみ砕いてB氏に解説したり、必要箇所だけ伝えたりすることがこれに当てはまります。また、世界中を飛び歩いているC氏が、各地の人々(A、A’、A’’…)のニーズや認識について、とりまとめてB氏に報告する場合もあるでしょう。起業家B氏が行き詰った時に、ここを乗り切れば大丈夫だとか、自身が様々な人々(A、A’、A’’…)から学んだことなどから、見通しを教えてくれたり、励ましたりしてくれる場合もあるでしょう。
これらの例のように、受け渡される価値は、多くの場合、助言や知識などの、情報です。言わば「チエ」を注いでいます。この行為を私たちはinspireと呼んでいます。inspire型カタリストは、イノベーターにとって適切な形に加工(翻訳、解説、編集、総合等)します。メンター的に自分自身の経験や情熱や愛情をチエに乗せて注ぐこともあるでしょう。これらもinspire機能に含まれてきます。inspire型カタリストの腕の見せ所はチエの形質をB氏にとって最適化するべく価値変換を行うところにあります。これらの働きはコンサルティングの典型イメージに重なると思います。ちなみに、この価値流通の類型では、必ずしもA氏とB氏が直接会ったりはしません。inspire型カタリストは、敢えて二者を引き合わせず、間に入ることで、自分の存在価値を演出する場合もあります。
②直接型:introduce(=「コネ」を注ぐ)
2つ目の直接型価値流通の類型では、A氏が持っている価値が、イノベーターB氏に必要である時、カタリストC氏は、A氏をB氏に紹介します。
例えば、B氏の事業が大きくなるにつれて、追加資金が必要になる。税務知識が必要になる。その際に、銀行員や税理士など適切な人材を紹介するわけです。これらのケースでB氏に注がれる価値は、情報に限らず、人材やカネなど、多岐にわたります。また、価値はA氏からB氏に直接流れていきます。この時、カタリストC氏は、B氏に対して、A氏との繋がりという「コネ」を注いでいると言えます。これを私たちは、introduceと呼んでいます。そして、introduce型カタリストが付加価値を発揮するポイントは、自分の信用の付与にあります。「Cさんの紹介であればきっと、適切な人なんだろう」「Cさんはいつも私のメリットを考えてピンポイントで人を紹介してくれるから、忙しいけれども時間をつくって会おう」と、B氏から(時にA氏からも)思われていることが重要になります。そして、A氏とB氏の新結合が成功するためには、カタリストC氏の人格的な信用、また人と人の相性を見繕う能力、紹介する現場で上手にA氏とB氏の関係がうまくいくように取り計らうファシリテーション能力などがカギになります。また、introduceの際には、引き合わせる二人それぞれに、相手が欲しいものや得手不得手について、カタリストから事前に色々と耳打ちしておくなどのinspireを伴うこともあります。
③組み合わせ型:produce(=「チエ」と「コネ」が注がれる仕組みをつくる)
価値の流通経路としては、論理的には、上記の間接型と直接型の2種類に尽きます。A氏とB氏の間にカタリストC氏が入って、価値に形質変換を与えるinspireと与えないintroduce。これらをそれぞれ単発で行うことは、カタリストが付加価値を生む上での基本動作になります。inspireにintroduceを、introduceにinspireを添えるなど、両者が同時に行われることもたくさん見受けられます。そして、inspireもintroduceも、連載でご紹介していくように、それぞれ人によって個性やスタイルもあったりして、奥が深いのですが、これら間接型と直接型を、複数回組み合わせることによって、イノベーターに価値が注がれていく仕組みを構築することができます。これが第3の類型のproduce型です。私たちはこのproduce型カタリストをプロデューサーと再定義しています。プロデューサーには、より複雑な価値の流通経路を取り扱うため、一段高い構想力やマネジメント能力が求められてきます。
2つの次元のproduce
このproduceには少なくとも2種類の意味があります。1つ目は、座組みを創出するproduceです。すなわち、様々なカタリストや、価値を持っている人々が、ひとつのチームや組織やシステムやコミュニティを形成して、イノベーターに価値が注がれていく仕組み(エコシステム=生態系)を創出することです。
▲プロデューサーは様々なアクターを繋ぎ合わせて座組み(エコシステム)を創出している。
例えば、映画やアニメ制作のプロデュースが典型的です。脚本家や広告代理店や俳優やスポンサーなどを揃えて、イノベーターである映画監督に、アイディアや労働力や資金などが注がれていくように、制作チームや製作委員会といった座組みを組織することは、プロデューサーの重要な役割です。
なお、このエコシステムの全貌は、映画やアニメの制作/製作のように関係者全員に見える化されている場合もあれば、プロデューサーにしか見えていない場合もあると思います。とにかく膨大な知見と人脈がありそう、という「底知れなさ」を影響力の源にしているプロデューサーもしばしば見受けられます。いずれにせよ、プロデューサーの行うproduceの類型として、まず、立体的に人間関係を構築する「三次元のproduce」の存在を指摘できます。
それから、さらに一歩進んだプロデューサーは、時間軸においても、produceを展開します。
▲適時に適切な価値がアントレプレナーに注がれるよう、将来の段取りをつけている。
例えば、新規企画の担当者や芸術家を含め、イノベーターやアントレプレナーが行き詰った時に、彼らに適切なinspireをくれる人材を手配する。しばらくして今度は、運転資金が枯渇したら、銀行や投資家をintroduceする、というように、主人公が様々な困難とぶつかるたびに必要となる価値が、将来適切な段階で手に入るよう、ある程度の段取りをつけておいたり、様々なコストの投下の見通しを立てておいたりして、優れたプロデューサーは適時適切にチエやコネがイノベーターに届くよう、豊富な選択肢を用意しています。それが可能になるよう、選択肢を絶えず更新・拡大する努力も日頃から怠りません。これは言うなれば、三次元に時間軸を加えた「四次元のproduce」とも言えるでしょう。
小括
このように、カタリストは、価値の流通経路のマメジメント手法に応じて、inspire型、introduce型、produce型の3類型に整理できます。それぞれ、チエを注ぎ、コネを注ぎ、両方を複数組み合わせます。inspireとintroduceは、カタリストが付加価値を生む上での基本動作となりますが、組み上げてエコシステムを創出(produce)することができるようになると、価値の流通経路全体をマネジメントする力やイノベーターへの影響力は飛躍的に高まります。このようなプロデューサーはイノベーションの行方を左右する存在になります。プロデューサーはいわば「キング・オブ・カタリスト」です。
カタリストの条件:「マルチ・リテラシー」
さて、ここまで3種類のカタリスト(=3種類の真の付加価値の出し方)について紹介してきましたが、どうしたら、そのような真の付加価値を生めるカタリストになれるのでしょうか。コミュニケーション能力や、ビジネスセンス、イノベーションへの意欲など、通り一遍の能力はともかく、カタリストの条件とも言える、特有の能力要素について触れたいと思います。それは、ずばり、複数の分野について、少しずつ知っていること、すなわち、「マルチ・リテラシー(multi-literacy)」があること、だと考えられます。inspireにせよ、introduceにせよ、イノベーターが挑戦している分野や、イノベーターが必要としている情報や人材の分野など複数(multi)の分野について、専門知識(expertise)までは持っていなくても、良し悪しがわかる程度の見識(literacy)が必要です。リテラシーとは、概して、”Who knows What”とも言われますが、どの業界でどの人がどのくらい優れているか。必要な水準をクリアしているか、調達コストは割安か割高か、がわかるというレベルの見識です。
例えば、PLANETSでも「中東で一番有名な日本人」の連載が人気の鷹鳥屋明氏は、私の友人でもありますが、中東ではどの日本アニメが人気かどうかを知っていると同時に、日本国内で、どのアニメの版権は高いか安いか、についても知っています。同様に、食品やテクノロジー等の分野においても、中東マーケットのニーズと、日本側の供給サイドの状況について、よく知っています。もちろん、彼よりも、日本アニメの版権に詳しい人材、食品やテクノロジーに詳しい人材、また中東に詳しい人材は、他にいるかもしれません。しかし、彼は、十分に優れたマルチ・リテラシーを有するので、彼のチエとコネが高い付加価値を発揮する日本・中東間のマーケットを見極めて、indpireやintroduceを縦横無尽に展開する、場合によってはプロデュースも行うカタリストとして大活躍できるわけです。
「媒介者」であるカタリストが、橋渡しのこちらとあちらについてある程度知っている必要がある、そして、こちらとあちらで自分がアクセスできるチエとコネの値段のギャップが大きければ、付加価値が出せる、というのは、ある種当然の話としてご理解いただけると思います。しかし、実際に、自分自身がどの業界について、どの程度のチエとコネがあるのか、誰に対してであれば、高い付加価値が出せるか、をしっかり考えて具体的に棚卸しすることは、実はあまり簡単ではないと思われます。よくよく世の中を見渡し、かつ、自分の来歴を査定した上で、価値の流通経路を構想するチカラこそがマルチ・リテラシーの本質だと思われます。
本連載について
自分自身は発明家でも起業家でもないが、彼らのサポートはしたい。イノベーションに貢献したい。イノベーションに取り組むクライアントに、自分ももっと付加価値を提供したい。これらは、あらゆる業界のコンサルタント業の方々の純粋な望みだと思います。また、きっと多くの方々は、カタリストが何かをやりたい人に「チエ」や「コネ」を注いで、イノベーションを導くという構図は、地方創生に限らず、およそビジネスや研究やアートなど、あらゆるイノベーティブな活動においても当てはまることにお気づきになることと思います。
「プロデューサーシップのススメ」と題したこの連載では「マルチ・リテラシー」を梃子に、自分の「チエ」と「コネ」を上手に操って、イノベーターのイノベーションをリードするカタリストたちをご紹介していきます。
具体的には、inspire型のカタリスト、introduce型カタリスト、produce型カタリストの順に、プロデュース研究分科会での講演を数件ずつご紹介していきます。デザイン系から行政系まで、本当に様々な分野でカタリストが活躍しており、そのスタイルもそれぞれユニークであることがおわかりいただけるかと思います。ぜひ多くのコンサルタントの方々、クライアントとマーケットの間に挟まるポジションで働くカタリスト予備軍の方々に広くお読みいただき、より優れた付加価値の出し方、価値の流通経路をマネジメントする方法、カタリストとしてのご自身のスタイルを作り上げていく上でのヒントなどを得ていただけたらと願います。
そして、十数回の連載の締めくくりには、カタリストにおいて重要な精神である「プロデューサーシップ®」という概念についてご紹介しつつ、一連の「プロデュース理論」の総括をする予定です。今後の内容にどうぞご期待ください!
(続く)
▼プロフィール
NPO法人ZESDA 代表 桜庭大輔
1980年生。2011年、グローカリゼーションをプロデュースするプロボノ団体NPO法人ZESDAを創設し活動中。研究・イノベーション学会プロデュース研究分科会共同主査。Twitter: @sakuchaan
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イノベーションとは、カタリストたちが、イノベーターに様々な価値を注ぎ込んできた群像劇としてこそ語られるべきなのではないでしょうか。