今朝のメルマガは、文筆家/キュレーターの上妻世海さんと宇野常寛の対談の前編をお届けします。上妻さんの提唱する「制作」と、「遅いインターネット」に通底する主題を踏まえながら、「開かれた運動体」を実現する方法についてや、押井守やランニングを通した「身体」を巡る議論が展開されます。
※本記事は2018年10月27日に青山ブックセンター本店で行われたトークイベントを記事化したものです。
☆お知らせ☆
ただいま青山ブックセンター本店さんにて、宇野常寛責任編集『PLANETS vol.10』特集を展開していただいています!
特典として「遅いインターネット」計画に関する宇野のロングインタビュー冊子がついてきます。いま冊子が読めるのはこちらの店舗さんだけ。ぜひお立ち寄りください!
▲イベント当日の青山ブックセンター本店さんの様子。『PLANETS vol.10』と『制作へ』が一緒に!
『制作へ』と『遅いインターネット』の共通性
上妻 10月16日に『制作へ』という本を上梓しました。上妻世海です。専門としては、現代美術、あと文筆業をしています。よろしくお願いします。
宇野 よろしくお願いします。
上妻 まず、『PLANETS Vol.10』(以下P10)の感想から始めようかな。
宇野 何でも聞いてください!
上妻 まず驚いたのは、僕の関心領域と非常に近かったことです。僕としては、宇野さんとは違う山を登ってると思っていたんだけど、重なっている部分がとても多かった。とりわけ『制作へ』では「消費から制作へ」と言っていますからね。「遅いインターネット宣言」には非常に共感しました。
最初の猪子寿之さんとの対談は、境界と身体がテーマでしたよね。対談の中に「身体で世界を捉え、そして立体的に考える」という発言が出てきますが、これは僕が『制作へ』で提示したビジョンと非常に近くて驚きました。
僕は2013年頃から、今後は「誘惑モデル」あるいは「魅惑モデル」しかありえないということを言っていたんです。説明と説得による合意に基づいた意思決定は、民主主義における重要な手続きですよね。しかし、文化は議会ではないので、好きなコンテンツやその惹かれた部分を「模倣」することが、制作の最初のきっかけになる。「説明モデル」や「説得モデル」ではなく「魅惑」や「誘惑」するようなやり方じゃないと、文化的な共感や交感の関係は築けないということを、僕はずっと言っていたんです。それでP10を読んだら、「遅いインターネット」をどう進めるかの議論で、宇野さんは「誘惑モデルしかない」と。言葉まで一致していて驚きました。
あと「走るひと」の特集は、単なるコラボレーションと勘違いされそうですが、押井守さんのインタビューの身体論とブリッジになっていて、「遅いインターネット」を考える上でも、かなり重要な特集だと思います。そして、巻末の「遅いインターネット」の「実践編」としての鼎談。落合君の……。
宇野 「マタギドライヴ」ね(笑)。
▲デジタルネイチャーからマタギドライヴへーー世を捨てよ、クマを狩ろう
上妻 以前、落合さんのサロン向けの配信で、レーン・ウィラースレフという人類学者の著書『ソウル・ハンターズ』で論じられているユカギール人の狩猟の話をしたことがあって。狩猟民と落合さんの生き方には共通点があると論じたことがあったんです。そしたらP10の落合さんのインタビューに「マタギドライヴ」という言葉が出てきて(笑)。自分の文脈に引きつけて読みすぎかもしれませんが、非常に共感しました。
ここまで、P10で僕が重要だと思った点を挙げたのですが、ここからはそれを踏まえて質問に移りたいと思います。現在、社会システムのクロック数や消費の速度がますます速くなっている中でつまらないリプライや反論が日本社会全体を覆い尽くしている状況に、宇野さん自身がうんざりされていて、それに対する提案として「遅いインターネット」がある。そこでひとつだけひっかかったのは、ここで想定されているのは、いわゆる一般の「公」の人たちですが、今の社会はもうすこしセグメント化されているというか。宇野さんはテレビに出られているので、そういう層からの反応が異常に多くて、クソリプだらけの言説空間になっているという意見になってしまうのかもしれませんが、たとえば今日、会場に来てくださっている方や僕の読者は、まあ僕のフォロワー自体が少ないのもあると思いますが、あんまり変なリプライしはないし、変な人が目につくことも今のところ少ないんですよね。
だから、そういう反論をしたり、ヘイトスピーチ的なツイートをしている人たちを「公」と呼んでいいのか。それはかなり偏った人たちなのではないか、と思うんですが、どうでしょう?
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