宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。9月18日に放送された第3回のテーマは「いま必要なのは、もっと『遅い』インターネットだ」。作家の乙武洋匡さんをゲストに迎えて、現在のインターネットが抱えるムラ社会化の問題と、かつての〈自由と平等〉の理念をいかに取り戻すかについて語り合います。(構成:籔和馬)
NewsX vol.3
「いま必要なのは、もっと『遅い』インターネットだ」
2018年9月18日放送
ゲスト:乙武洋匡(作家)
アシスタント:加藤るみ(タレント)
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「遅いインターネット」計画について考える
加藤 火曜NewsX、今日のゲストは作家の乙武洋匡さんです。乙武さんと宇野さんはこれまで何度も対談をされているそうですが、宇野さん、乙武さんはどんな方ですか?
宇野 乙武さんは、ハンディキャップがあることを逆手にとったしたたかなイメージ戦略と、それを上回る情熱が同居している面白い人なんだよね。ときどき情熱のほうが上回って炎上しているという。
加藤&乙武 (笑)。
乙武 ありがとうございます。
加藤 そして、今日のトークのテーマは「いま必要なのは、もっと『遅い』インターネットだ」としました。宇野さん、こちらは?
宇野 これは後で説明するんだけど、僕が40代をかけて実現しようと思っている、インターネットの使い方をもう一回見直してみようという、そういう運動ですね。PLANETSのVol.10という僕の新しい雑誌で、そのことを特集しているんですよ。明後日、渋谷ストリームで、この本の刊行イベントを乙武さんと、ほかにも前田裕二さんとか箕輪厚介さんを呼んで議論するわけなんだけど。あらためて乙武さんと一対一で、このテーマについて話してみたいと思ったの。なぜかというと、乙武さんは今の間違ったインターネットの最大の被害者だと思っていて、あの件は本当に酷いと憤っているんだけど、このタイミングでもう一回、話したいなと思ってお呼びしました。
乙武 ありがとうございます。
加藤 今日も三つのキーワードでトークしていきます。まず一つ目がこちらになります。キーワード1は「遅いインターネット」。
宇野 その名もズバリで、いきなり本題から入る感じなんだけど。やっぱり今のインターネットって息苦しいですよね。乙武さんは、そのターゲットになっちゃったわけなんだけど。
週刊誌とかワイドショーが週に一回、ちょっと目立ちすぎた人とか失敗した人に対して「こいつはやらかしてしまったから、石を投げていいぞ、叩いていいぞ」という号令をかけると、Twitterユーザーが一斉に石を投げてスッキリする。そして、安心する。自分たちはやらかしていない、まともな側なんだと。マジョリティの側なんだ。自分の人生はこれで肯定されるということで、一斉に石を投げるじゃない。そのことで、インターネットはすごく陰険な場になってしまったし、息苦しい場になってしまった。
本来、インターネットってすごく自由な場のはずだったのね。新聞とかテレビは、インターネットが生まれた頃には既得権益化していて。そこのひと握りのエリートが世の中を動かすとされていた。基本的に商業媒体だし、マジョリティに合わせて話題のレベルからチューニングされていて、マイノリティの意見は全然可視化されないんだけど、インターネットがあればそれが可能なんだと、僕らみんな夢を見ていた。
ところが、2014〜2015年ぐらいになると、むしろインターネットが一番息苦しい場所になっちゃったと思うんだよね。なんでそうなったのかを考えたときに、実は今のインターネットはちょっと速すぎると僕は思うんですよ。ちょっとというか、かなり速すぎる。炎上に参加したりクソリプを飛ばしたりするときに、実際にみんな考えているのかなと。
よく「自分はこの話題に関心がある」とか「この話題に賛成している」とリツイートするじゃない? でも、ほとんどの人はツイートの中身も吟味していないし、リンクがあっても元記事を読んでいないと思うのね。
人間というのは、単に新聞やテレビを受け取る側から、インターネットが普及し誰もが発信者になることで、もっと深く考えるようになるという前提で思考してきた。自分でものを書くようになると、もっと深く多角的にいろんなことを考えて、背景のことも勉強するだろうという前提で動いてきた。
だから、この先にあるのはメディアじゃなくて、プラットフォームなんだと。単に読むだけじゃなくて、読みながら発信する新しい読者を育てなきゃいけないんだとやってきた。でも、誰もが読み手だけじゃなく書き手にもなった結果、むしろ考えなくなった人がほとんど。誰かに石を投げたり、クソリプを送るとき、ほぼ人は考えていない。140字の背景も考えていなければ、元記事も調べてもいないし、下手すれば前後のツイートすら見ていない。
週に一回、生贄を選んで、その炎上だけで回転していく今のインターネットの速度って、僕は速すぎると思うんですよ。
だから、僕はそこに抗って、もう一回メディアに戻ろうと思っているんですね。コメント欄も封じて、できれば「はてなブックマーク」とか、あのあたりを全部ブロックして、今のインターネットのトレンドとかも全部無視して。炎上ネタとか流行りの話題とか全部無視して、5〜10年後も読み継がれるような質の高い記事を、Googleの検索順位の高いところに地道に置いていくという新しいウェブマガジンを作ろうと思っているんだよね。それが「遅いインターネット計画」。
この計画を始めようと言ったときに、僕が信頼している仲間をたくさん呼んで。村本大輔さんとか前田裕二さんを呼んで、座談会を開いて「僕はこんなことを考えているんですが、どう思いますか?」という話をして、そこに乙武さんも来てもらったわけなんです。今日はその話の続きをしたいなと思って、お呼びしました。
加藤 乙武さんは「遅いインターネット」の構想を聞いて、どう感じられましたか?
乙武 僕は普段から宇野さんの言葉選びのセンスみたいなものが大好きなんですよ。
宇野 自分でもすごいと思う。
乙武&加藤 (笑)。
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