現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。電子マネーやFintechの普及、仮想通貨の登場によって変革期を迎えている金融業界ですが、金融庁が監査の基準を大転換したことで、特に地方の金融機関は、地域経済において新しい役割を担わされることになりそうです。
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
2018年8月は、第100回となる夏の甲子園やアジア大会で熱戦が繰り広げられました。また、映画「カメラを止めるな!」のヒットも注目を集めました。他方で、月末のさくらももこさんの訃報も大変印象深く、心からご冥福をお祈りしております。
永田町では、国民民主党の代表選は玉木雄一郎氏の再選に落ち着く一方、9月の自民党総裁選は安倍総理と石破元幹事長と事実上の一騎打ちとなることが確定しました。そして、来年の統一地方選挙、夏の参議院選へと、政治の季節に備えてそれぞれ準備を整えていくことになります。霞が関では、各省の来年度予算の概算要求内容が公表され財務省との折衝が始まっていきます。
また、個人的には、8月21日にはPLANETS CLUBの定例会にお招きいただき、メンバーの皆様と「チャタムハウス・ルール」の下で楽しい時間を過ごすことができました。話題になった「『平成最後の夏期講習』の続き」を宇野編集長とやることができまして、いい夏の想い出ができました。
8/21(火)開催!現役官僚・橘宏樹さんに聞く、行政・政治の未来(PLANETS CLUB第6回定例会)
さて、今回は「金融」を取り上げたいと思います。色々な動きがありますが、今回は、8月10日の閣議では「銀行法施行令等の一部を改正する政令」などを中心に、特に地方銀行に対して金融行政が何をしようとしているかについて、ざっくりご紹介したいと思います。
たぶん、今、金融界ほど未曽有の激動に直面している業界はないのではないでしょうか。技術革新が金融の業態それ自体を猛烈なスピードで変化させています。例えば、“Fintech”(決済や送金など金融業務に情報技術を用いること)が広がっています。AIもどんどん取り入れられています。この数年で、電子マネーの利用、キャッシュレス化もかなり進んでいます。インターネット・バンキングも普通になりました。仮想通貨への投資もかなり身近なものになりました。またこれらの変化に伴って、銀行員の人員削減や支店の削減、地銀の経営統廃合のニュースも増加しています。「技術もグローバルスタンダードもどんどん変わっているのに、なぜかなかなか変わらない。」というような「ガラパゴスあるある」な話が多いコンサバ日本組織社会ですが、この分野はかなり違うようです。
◆変貌する金融庁
こうした状況に対して、金融庁も規制を設けたり緩和したり、と、施策をどんどん展開しています。「今、面白い仕事をさせてもらってる」という金融庁職員の友人も多いです。金融庁自身も変化しています。確かに、今年6月に出された金融庁の基本方針「金融検査・監督の考え方と進め方 (検査・監督基本方針)」は興味深いです。銀行等を検査監督する際に思考停止してしまわないように、ということで、なんと「検査マニュアル」を廃止するとまで言っています。「ルール・ベース」から、より本質や大局を捉える「プリシンプル(原理原則)・ベース」とのバランスを謳っています。
▲「金融検査・監督の考え方と進め方 (検査・監督基本方針)」より
さらには、7月4日に「金融庁の改革について」との文書を発して、時代に合わせたガバナンスを宣言し、組織体制も「総務企画、監督、検査」の3局体制から「総合政策、企業市場、監督」の3局体制に改めました。これらは、先月退任した大物長官と呼ばれた森信親前金融庁長官のリーダーシップによるところとも聞いています。
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